トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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7章

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「おはよう、ガルシア夫人。頼んでおいたものは揃えてくれましたか」
「ええ、台所に置いてありますよ。あと矢嶋さんは、やっぱり今朝もコーヒーしか召し上がろうとしません。本当に頑固なんですから!」
「大丈夫、今朝はちゃんと食べますよ。私にも朝食を頼めますか、スペイン風オムレツトルティーリャもよろしく。この国の文化にケチを付けるわけじゃないが、日本人は朝からしっかり食べないと力が出ないし、貴女のトルティーリャは最高だからね」
「はいはい、少々お待ちを」

 にこにこと台所へ消える彼女は、上機嫌だ。二人のやり取りについていけず呆気に取られていた志貴は、慌てて一洋の腕に手を掛けた。

「ちょっと、イチ兄さん、何を勝手に……」
「ガルシア夫人の仕事納め前に、手料理を食べ納めようと思ってね」
「仕事納め?」
「朝食の片付けと洗濯が終わったら、彼女は仕事納めだ。それ以降の休暇中の志貴の面倒は俺が見る。梶さんも了承済だ」

 知らないところで、紳士協定ならぬ保護者同盟が結ばれていたらしい。眉を寄せる志貴に構わず、勝手知ったる幼馴染の家とばかりに、一洋はさっさと客間へ鞄を運んでしまう。この分ではガルシア夫人もグルで、客間のベッドメイクも済んでいるに違いない。
 この時点で、職場から運び込んだ資料の読み込みに費やそうと思っていた志貴の年末年始の予定は、あえなく潰えた。一洋はたっぷりと朝食を楽しみ――コーヒーだけで済ませようとしていた志貴も無理矢理付き合わされた――、台所で何やら確認すると、出掛ける支度をするように急かしてきたのだ。

「欲しいものは大方ガルシア夫人に買っておいてもらったが、当日でないと買えないものもあるからな」

 すっかり料理人の顔になった一洋に、荷物持ちとして引っ立てられては、付き合わない訳にはいかない。湯を沸かすのが精々の志貴に、台所仕事で手伝えることは少ないと思われるからだ。
 ため息を一つ、志貴は仕方なく外套と襟巻を身につけた。玄関で待つ一洋に頭の天辺から爪先まで検分され、襟巻をしっかり巻き直された上に帽子を被せられ、手袋を確認される。

「……子供じゃないんだけど」
「そうだな、子供の方がもう少し聞き分けはいいな。黙っていても飯は食うし、よく眠る」

 ここしばらくの不摂生を当て擦られ、少々怯む。
 確かに英は、健やかによく眠り、よく食べる。「誰かの子供の頃とは違って手が掛からず、本当に孝行な良い子ですね」といつも君子は目を細めていたものだ。
 乳幼児の頃日々頂戴していたであろう小言を、父親になった今また幼馴染からもらう情けなさに、恨めしく思いながらその元凶を見上げる。それをどう受けとめたのか、仕上げとばかりに帽子の角度まで調整されて、ため息とともに志貴の肩が落ちた。さりげなく回された腕に肩を抱かれたまま、なめらかに外に連れ出されると、それ以上文句を言うのも虚しくなる。
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