トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

文字の大きさ
118 / 237
10章 ※

14

しおりを挟む
 不意に目の前に迫った一洋の顔と、唇に感じる熱。驚きのあまり、されるがままで何もできず目の前の幼馴染を見つめるだけの志貴に、一洋は我に帰ったように唇を離した。そして後悔をにじませながら目を逸らすと、呟いたのだ。ただ一言、「ごめん」と。

 その時、志貴は気がついた。一洋が口づけたかったのは、自分ではなく、同じ顔をした彼の憧れの人だということに。
 その証拠に、一洋は二度と、想い人にするように志貴に触れようとはしなかった。過保護な甘やかしは変わらず続いたが、それは衛藤家の家芸のようなもので、身体的接触スキンシップが多いのもいつまでも子供扱いしてくるのも、一洋だけではない。
 志貴も、その春の日の一瞬の出来事を、蒸し返すことも誤解することもなかった。
 スマートな海軍の士官候補生は、女学生の憧れの的だ。兵学校の休みで帰省する一洋は、外で見掛ける時は大抵女性を連れていた。エリートな上に色男で、近隣の若い女性に大変な人気があったのだ。顔が同じだからといって、男の幼馴染を相手にしなくても、叶わぬ想いを密かにぶつける相手に不自由することはなかったのだろう。
 だから未熟な少年なりに、一洋は親元を離れる兵学校での新生活を前に気の迷いが生じたのだろう、と納得したのだ。それをぶつけられた自分は災難だったが、よく知る幼馴染の、まったく知らずにいた一面を垣間見て、深く暗い洞窟を覗き込んだような胸のざわめきを感じていた。
 それがその夜、志貴にもたらしたものは――。

 『薬』を処方されるようになってからは、欲望を曝し乱れることを強いられるたびに、感じていた。志貴の痴態を射抜く眼差しに込められた愉悦と、昏い情熱――彼の初恋は今も鮮やかに燃え続けており、意固地な年下の幼馴染の肉体からの救済は、叶わぬ想いの捌け口にもなっていることを。
 そうと知りつつ、それでもひとときの安らぎになるのならと、この歪な関係を受け入れてきたが、彼の想いは志貴の想像を超えて生々しく、欲望を伴ったものだったのだ。母をその対象とされ、また身代わりにされた息子として糾弾してもいい立場なのに、そうしないのは、完璧な保護者を演じる幼馴染の、制御できない人としての弱さと欲を垣間見たからだ。
 想う女の代わりにされ、その劣情を目の当たりにすることで、ただ守られるだけの存在だった自分が、一洋と対等になっている――その弱さを受けとめる存在になっている。そう思うと、身代わりという被虐的な立場に心が竦んでも、体は昂ってしまうのだ。

「いつもより感じてるな……。ワセリンよりいいか? 俺の精液ザーメンは」

 背後から聞こえる一洋の声も熱を帯びているように感じたが、気のせいかもしれない。
 ぬちゅ、くちゅ、と深いところまで濡らされ、捏ねられる音が耳を打つ。体内を行き来する指は何度も尻に滴る白濁を掬い、中に塗り足し潤わせる。粘膜に染み込ませるように、男の精が擦り付けられていく。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

おめでとうが言えなくて

まめなぎ
BL
祝えないのは、最低だからじゃない。 まだ手放せていないからだ。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...