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13章
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そう思うのに、脇の下に嫌な汗が滲むのは、相手がジェイムズだからだ。生来の勘の良さと実業家として磨き抜かれた観察力で、こちらの心の中までも見透しているような錯覚を覚えるのだ。
(相も変わらず、心許した者にはガードが甘いことだ)
努めて動揺を押し隠し平静を装う志貴を、ジェイムズは両の目で美味しく味わう。麗しの伴侶を国に残し、侘しい一人寝の日々を過ごしているのだ。家訓と小さな志貴を守るためとはいえ、これくらいの潤いは許されて然るべきだ。
志貴は優秀な外交官で、社交の場ではいつもやさしげな感じの良い微笑みで誰とでも卒なく会話を交わし、意図せずある種の男たちを惑わせてもいるが、それが見栄えの良い仮面であることをジェイムズは知っている。戦時下の外交という厳しい戦場に身を置くことを常に自覚し、優美に武装しているのだ。
初めて出会った時から、彼は本心を見せない子供だった。行儀がよく聞き分けもよい、手の掛からない子供。幼くして両親と離れ、異国の寄宿学校で過ごす日々がそうさせたのだろう。人形のように愛らしい顔と年に似合わぬ剛い意志で、年相応の幼さと弱さを覆い隠していた。
だからこそ、その懸命に作り上げた表の顔の下――手を差し伸べずにはいられない、健気で可愛らしい素顔を見てしまったら、無条件のお気に入りとして懐に入れるしかなかったのだが。
そのような経緯もあり、志貴にとっては不幸なことに、彼の仮面はジェイムズには通用しない。精緻に整った美貌の下で、悪童の視線からどうにか逃れようとしているのが手に取るようにわかる。
困らせるとわかっていてからかうのは、こうでもしない限り、彼が外交官の顔を外せないからだ。
(まったく、甘えさせるのも恩返しをするのも一苦労だ)
素直で聞き分けはいいのに頑固、という幼い時からの資質に加え、生真面目な職業意識と国への忠誠で、志貴は雁字搦めになっている。それをほぐすことのできる男はマドリードを不在にしており、それでも志貴の色艶を保つことのできる男は、いまだ彼に距離を置かれ真の安らぎとはならないようだ。
となれば、ここは『大好きなジェイムズ』の出番ではないか。
表面上は変わりがなくても、定期的にガス抜きをしてやらなければ、志貴はその高潔な志で自らを窒息させかねない。
甘え方を知らない人間は、首根っこを押さえつけて無理矢理にでも愛情を注いでやらなければ、いつまでも微笑みの仮面を張り続ける。外交の最前線では正しい振る舞いだが、常時それでは徒らに消耗するだけだ。
(どちらの色男でも構わないから求愛を受け入れて、身を預けられる相手を得ればいいものを)
志貴の望む和平工作は、平坦な道ではない。これまで以上の重圧に、彼は晒されるだろう。だからこそ仕事を離れたところでは、癒しと安らぎを得られる相手が必要だとジェイムズは考えていた。一時的でも永続的な関係でも、支えを得て途中で倒れることのないように、志貴には万全を期してもらわなければならない。
(相も変わらず、心許した者にはガードが甘いことだ)
努めて動揺を押し隠し平静を装う志貴を、ジェイムズは両の目で美味しく味わう。麗しの伴侶を国に残し、侘しい一人寝の日々を過ごしているのだ。家訓と小さな志貴を守るためとはいえ、これくらいの潤いは許されて然るべきだ。
志貴は優秀な外交官で、社交の場ではいつもやさしげな感じの良い微笑みで誰とでも卒なく会話を交わし、意図せずある種の男たちを惑わせてもいるが、それが見栄えの良い仮面であることをジェイムズは知っている。戦時下の外交という厳しい戦場に身を置くことを常に自覚し、優美に武装しているのだ。
初めて出会った時から、彼は本心を見せない子供だった。行儀がよく聞き分けもよい、手の掛からない子供。幼くして両親と離れ、異国の寄宿学校で過ごす日々がそうさせたのだろう。人形のように愛らしい顔と年に似合わぬ剛い意志で、年相応の幼さと弱さを覆い隠していた。
だからこそ、その懸命に作り上げた表の顔の下――手を差し伸べずにはいられない、健気で可愛らしい素顔を見てしまったら、無条件のお気に入りとして懐に入れるしかなかったのだが。
そのような経緯もあり、志貴にとっては不幸なことに、彼の仮面はジェイムズには通用しない。精緻に整った美貌の下で、悪童の視線からどうにか逃れようとしているのが手に取るようにわかる。
困らせるとわかっていてからかうのは、こうでもしない限り、彼が外交官の顔を外せないからだ。
(まったく、甘えさせるのも恩返しをするのも一苦労だ)
素直で聞き分けはいいのに頑固、という幼い時からの資質に加え、生真面目な職業意識と国への忠誠で、志貴は雁字搦めになっている。それをほぐすことのできる男はマドリードを不在にしており、それでも志貴の色艶を保つことのできる男は、いまだ彼に距離を置かれ真の安らぎとはならないようだ。
となれば、ここは『大好きなジェイムズ』の出番ではないか。
表面上は変わりがなくても、定期的にガス抜きをしてやらなければ、志貴はその高潔な志で自らを窒息させかねない。
甘え方を知らない人間は、首根っこを押さえつけて無理矢理にでも愛情を注いでやらなければ、いつまでも微笑みの仮面を張り続ける。外交の最前線では正しい振る舞いだが、常時それでは徒らに消耗するだけだ。
(どちらの色男でも構わないから求愛を受け入れて、身を預けられる相手を得ればいいものを)
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