トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

文字の大きさ
158 / 237
13章

10

しおりを挟む
 気軽に恋愛も情事も楽しむことのできない志貴が、色男二人から寄せられる愛に、戸惑いながらも磨かれていく。その様を眺めるのは、スペイン駐在の数少ない愉しみの一つではあった。しかし、ジェイムズが密かな三角関係に気づいたのは、昨年の降誕祭のことなのだ。

(二人して気の長い紳士を気取るなど、衛藤もアルヴァもまったく使えん。頑なな志貴の仮面を剝がし、甘えたがりの子供を引きずり出し膝に乗せて甘やかすのに、何の助けにもならないではないか)

 男たちの不甲斐なさをまとめて一刀両断するジェイムズには、その唯我独尊の恋愛観を押し通して伴侶を得た、輝かしい実績がある。一年もかけて意中の相手を落とせないなど、腰抜けか怠慢でしかないのだ。
 そんな男たちに、果たして志貴の援護射撃ができるものだろうか。彼らには、いざという時には弾除けになってもらわなければ困るのだが。

「君は今も十分可愛いが、可愛気を上乗せすると国益に適うぞ」

 ジェイムズにとって志貴は、懐に入れたお気に入りであり恩人の息子でもあるが、その求愛者たちはただの駒に過ぎない。駒は思い通りに動いてこそ、その存在に意味がある。

「……手軽に手に入れたものは、手軽に扱われるものですよ」

 真摯な忠告を、志貴はタコ型の火星人でも見るような顔でいなした。
 その様子に、献身を受け入れ、なおかつ駒を切り捨てる強さを身に付けてほしいものだが、と軽く肩を竦めながら、ジェイムズは「まあ、いい」と呟く。

(望んだのは君だ。アスター家が持つすべての銃に弾を込める時が来たぞ)

 矢嶋周の息子は、望みを口にした。父の命の代償に、祖国の民の命を守る道を。
 アスター家は、世界戦争を終わらせる魔法を使えるわけではない。できることには限りがあり、しかし手の届く領域は多岐にわたる。そして、一族に名を連ねる者なら、従うべき鉄の家訓がある。
 次々代の当主の命を救われた恩を倍にして返す――持てるすべてを懸けて、講和を望む志貴の援護射撃をしてこそ、一族の誇りは保たれる。一国の命なら、アスター家の当主の命の代償に十分釣り合うだろう。
 人脈も財力も、各人の地位と能力もすべて――志貴の道を拓くために、アスター家の武器庫の扉が開かれる。
 追い払われるように志貴の部屋を後にしたジェイムズは、迎えの車に悠々乗り込むと、自宅ではなく「イギリス大使館へ」とその行き先を変えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

おめでとうが言えなくて

まめなぎ
BL
祝えないのは、最低だからじゃない。 まだ手放せていないからだ。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

処理中です...