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13章
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気軽に恋愛も情事も楽しむことのできない志貴が、色男二人から寄せられる愛に、戸惑いながらも磨かれていく。その様を眺めるのは、スペイン駐在の数少ない愉しみの一つではあった。しかし、ジェイムズが密かな三角関係に気づいたのは、昨年の降誕祭のことなのだ。
(二人して気の長い紳士を気取るなど、衛藤もアルヴァもまったく使えん。頑なな志貴の仮面を剝がし、甘えたがりの子供を引きずり出し膝に乗せて甘やかすのに、何の助けにもならないではないか)
男たちの不甲斐なさをまとめて一刀両断するジェイムズには、その唯我独尊の恋愛観を押し通して伴侶を得た、輝かしい実績がある。一年もかけて意中の相手を落とせないなど、腰抜けか怠慢でしかないのだ。
そんな男たちに、果たして志貴の援護射撃ができるものだろうか。彼らには、いざという時には弾除けになってもらわなければ困るのだが。
「君は今も十分可愛いが、可愛気を上乗せすると国益に適うぞ」
ジェイムズにとって志貴は、懐に入れたお気に入りであり恩人の息子でもあるが、その求愛者たちはただの駒に過ぎない。駒は思い通りに動いてこそ、その存在に意味がある。
「……手軽に手に入れたものは、手軽に扱われるものですよ」
真摯な忠告を、志貴はタコ型の火星人でも見るような顔でいなした。
その様子に、献身を受け入れ、なおかつ駒を切り捨てる強さを身に付けてほしいものだが、と軽く肩を竦めながら、ジェイムズは「まあ、いい」と呟く。
(望んだのは君だ。アスター家が持つすべての銃に弾を込める時が来たぞ)
矢嶋周の息子は、望みを口にした。父の命の代償に、祖国の民の命を守る道を。
アスター家は、世界戦争を終わらせる魔法を使えるわけではない。できることには限りがあり、しかし手の届く領域は多岐にわたる。そして、一族に名を連ねる者なら、従うべき鉄の家訓がある。
次々代の当主の命を救われた恩を倍にして返す――持てるすべてを懸けて、講和を望む志貴の援護射撃をしてこそ、一族の誇りは保たれる。一国の命なら、アスター家の当主の命の代償に十分釣り合うだろう。
人脈も財力も、各人の地位と能力もすべて――志貴の道を拓くために、アスター家の武器庫の扉が開かれる。
追い払われるように志貴の部屋を後にしたジェイムズは、迎えの車に悠々乗り込むと、自宅ではなく「イギリス大使館へ」とその行き先を変えた。
(二人して気の長い紳士を気取るなど、衛藤もアルヴァもまったく使えん。頑なな志貴の仮面を剝がし、甘えたがりの子供を引きずり出し膝に乗せて甘やかすのに、何の助けにもならないではないか)
男たちの不甲斐なさをまとめて一刀両断するジェイムズには、その唯我独尊の恋愛観を押し通して伴侶を得た、輝かしい実績がある。一年もかけて意中の相手を落とせないなど、腰抜けか怠慢でしかないのだ。
そんな男たちに、果たして志貴の援護射撃ができるものだろうか。彼らには、いざという時には弾除けになってもらわなければ困るのだが。
「君は今も十分可愛いが、可愛気を上乗せすると国益に適うぞ」
ジェイムズにとって志貴は、懐に入れたお気に入りであり恩人の息子でもあるが、その求愛者たちはただの駒に過ぎない。駒は思い通りに動いてこそ、その存在に意味がある。
「……手軽に手に入れたものは、手軽に扱われるものですよ」
真摯な忠告を、志貴はタコ型の火星人でも見るような顔でいなした。
その様子に、献身を受け入れ、なおかつ駒を切り捨てる強さを身に付けてほしいものだが、と軽く肩を竦めながら、ジェイムズは「まあ、いい」と呟く。
(望んだのは君だ。アスター家が持つすべての銃に弾を込める時が来たぞ)
矢嶋周の息子は、望みを口にした。父の命の代償に、祖国の民の命を守る道を。
アスター家は、世界戦争を終わらせる魔法を使えるわけではない。できることには限りがあり、しかし手の届く領域は多岐にわたる。そして、一族に名を連ねる者なら、従うべき鉄の家訓がある。
次々代の当主の命を救われた恩を倍にして返す――持てるすべてを懸けて、講和を望む志貴の援護射撃をしてこそ、一族の誇りは保たれる。一国の命なら、アスター家の当主の命の代償に十分釣り合うだろう。
人脈も財力も、各人の地位と能力もすべて――志貴の道を拓くために、アスター家の武器庫の扉が開かれる。
追い払われるように志貴の部屋を後にしたジェイムズは、迎えの車に悠々乗り込むと、自宅ではなく「イギリス大使館へ」とその行き先を変えた。
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