ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉

文字の大きさ
51 / 381

第19話 文化祭 11(2)

しおりを挟む
 午後からは、涼夏と絢音が店番に入ったタイミングで奈都と合流した。もちろん、事前に奈都のシフトを確認した上で、私が勝手にそう組んだのだ。
 挑戦していた謎解きはどうなったのか聞くと、後少しらしい。ずっと同じ友達とやっているわけではないそうなので、午前の演技の感想を伝えながら謎解きを手伝った。
 途中で占いの館に寄ると、3回目となる先輩は奈都を見て意外そうに眉を上げた。
「今澤ちゃんじゃん」
「うわぁ、この展開は考えなかった」
 奈都が顔を覆って首を横に振る。どうやらバトン部の先輩らしい。演技を見ていたはずなのに、まったく気付かなかった。
「占い師とバトン部の衣装のギャップがありすぎて、全然わかりませんでした」
「それなら、占い師としては成功だね。今澤ちゃんとも恋愛運なの?」
「はい。この子が正妻です」
 私が気軽にそう告げると、奈都は顔を赤くして挙動不審に手をバタつかせた後、がっくりと椅子に腰掛けた。
「中学の同級生です」
「ふーん。昨日連れてきた子、とんでもなく可愛かったから、今澤ちゃん、頑張ってね」
 先輩がからかうようにそう言って、奈都は疲れた顔で「はい」と返事した。
 ちなみに占いの結果は悪くなかった。こうなると、タロットカードはそもそもいい結果しか出ないのではないかと聞いたら、先輩はそれを否定した上で、「順調なグループ交際ってことでしょ」と笑った。本当にそうなら嬉しい。
 奈都と別れて、最後の1時間は店番をした。文化祭の終了をステージで見届けたかった思いもあるが、2日間で大好きな3人と回れて、もう十分満足だった。
 昨日同様、集まれるメンバーだけ集まって、まずは会計報告を聞く。無事に徴収分は回収できたし、目標を大幅に達成できた。それ自体は嬉しかったが、もしかしたら目標が低すぎたのかもしれない。それは次回の反省にしたいが、できたらもう、来年は実行委員はやりたくない。
 教室の片付けの指揮は男子に任せて、私は手分けして学校中の壁や掲示板に貼ったポスターやチラシの回収をしに行った。どこに何枚貼ったかはリスト化してあるが、それでも枚数が合わないから不思議なものだ。何人かで学校中を探し回って、どうにか回収に成功した。
 結局、回収担当の子がリストを見落としていた上、適当にチェックした結果だったが、私が「こんなことなら、最初から3人でやればよかった」と肩を落とすと、涼夏が額に滲んだ汗を拭いながら笑った。
「やる気のある無能は迷惑って話?」
「いや、そんなこと言ってないから!」
「千紗都さん、厳しいねぇ」
 涼夏がくすくすと笑う。人聞きの悪いことを言う子だ。ただ、究極的にはそうなのかもしれない。文化祭の準備中も、頑張ってくれるのは嬉しいが、自分でやった方が早いと感じるシーンはたくさんあった。もちろん、私も誰かにそう思われていた可能性もある。だから、やはりその理屈は正しくない。最も有能な一人以外、全員要らなくなってしまう。
 気が付くと窓の外はすっかり暗くなっていた。ゴミも片付けて、余った食材も無事にすべて引き取り手が見つかった。むしろドーナツは取り合いになり、急遽黒板で巨大あみだくじ大会が開催された。そんなことをしていたから、遅くなったのだ。
 教室には帰宅部の男女5人。開け放した窓の外からは、まだたくさんの声が聴こえる。
「とりあえず、成功かな」
 江塚君がやれやれと首を振って、涼夏が大きく頷いた。
「まっ、売上も良かったし、大きなトラブルもなかったし」
「帰宅部の結束も強まったし」
 江塚君がグッと拳を握ると、涼夏がひらっと手を振った。
「それはないな。残念だな」
「残念だよ」
 男子両名が大きくため息をついた。実際、何度も一緒に帰ったし、1学期の頃よりは格段に喋るようになったとは思う。川波君は私と喋れるだけで満足なようだし、江塚君も涼夏を彼女にしたいとは思っていないだろう。
 川波君が、そういえば絢音のバンドの演奏を見たと言って、いい機会だったのでみんなでその話をした。絢音がこの先どうするのかは、込み入った話になるかもしれないからまた今度聞くことにする。
 和気藹々としたところで、江塚君が爽やかに笑った。
「みんな、文化祭の打ち上げとかするみたいだし、俺らも打ち上げやろうぜ」
 切り出すには絶好のタイミングだった。これでダメだったら仕方ないというタイミングだったので、仕方ないと諦めてもらおう。
「それはないな。3人でラブラブやるから、二人も二人でラブラブやって」
 涼夏が笑顔でバッサリ切り捨てると、川波君がブンブンと大きく手を振った。
「いや、ヨシとはそういう関係じゃないし」
「そっか。でも私たちはそういう関係だから、色々諦めてくれると有り難い」
 涼夏がそう言いながら、椅子に座っている私を背中から抱き締めた。そのまま身を乗り出して、軽く頬にキスをする。
 江塚君が開き直ったように、「美少女二人の絡みはいいねぇ」と笑いを浮かべ、絢音が可笑しそうに顔を綻ばせた。
 二人に戸締りをお願いして学校を出ると、夜の風は秋の冷たさを帯びていた。後数日で衣替えだ。
「今度こそ、私の9月は全部終わった!」
 涼夏が腕を突き上げて、勝利宣言のように言い放った。先週の誕生日会が、遥か昔のことのように思える。毎日が充実しているのはとてもいいことだ。ただ、幸せな時間が続くと、いつかそれが失われるのではないかという怖さに駆られる。そんなことを口にすると、涼夏が明るく笑った。
「幸せに慣れて」
「おっ、名言か?」
「私たちは、標準の状態が幸せであるべきなんだ」
 涼夏がまるで自分に言い聞かせるようにそう言って、意味もなく空を見上げた。絢音がいつものように私たちの手を握って、うっとりと微笑む。
「涼夏、カッコイイ。惚れそう」
「でしょ? 毎日は楽しいものなんだって、せめて学生の内くらいはそう思いたいね」
 相変わらず涼夏はポジティブだ。ただ、涼夏も家庭の不和で少なからず心に闇を抱えている一人である。口にしている言葉のすべてを、心の底からそう思っているわけではないだろう。私も絢音もそれを理解しているし、私たちが理解していることを涼夏もわかっている。
 さっき、江塚君が打ち上げの話をしていた。明日は文化祭の代休で休みなので、友情を深めようと提案すると、涼夏があっけらかんと笑った。
「明日はバイトだ」
「私も、莉絵とさぎりんと打ち上げする約束してて……」
 絢音が申し訳なさそうにキュッと目をつむった。二人とも元気だ。
「儚い友情だったな……」
 私はため息をついて首を振った。涼夏はバイト先に遊びに来いと言い、絢音は良かったら一緒にと言ってくれたが、さすがに断った。ひと月も慣れないことを続けて、疲労困憊だ。明日は死ぬほど寝よう。
 秋が始まる。まずは来月、体育祭。そして11月に入るとすぐに、涼夏の誕生日だ。
 私たちの楽しい毎日は、これからも続いていく。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[完結] (支え合う2人) ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...