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第56話 十万円(1)
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あまりニュースを見る方ではないが、風の噂でなんとか給付金が支給されることを知った。大体こういうのは有権者でもない子供には関係ないのでスルーしていたのだが、何度か耳にする内に、どうやら国民全員に一人10万円ずつ配られるものだと知った。赤ちゃんからお年寄りまで一律で給付されるらしいから、きっと私ももらえるのだろう。有り難いことだ。
一応詳細を調べてみたが、本当に間違いなく、本人がもらえるものらしい。時々、子供を持つ親に対して支給されるというような、トリガーは子供だがもらうのは親という給付金があるが、今回のはそういうものではないようである。何が目的かはわからないが、きっと円安が進行して日本の物が海外で高く売れているのだろう。経済はさっぱりわからないが、潤っているのはいいことだ。
実際、株価は数年前と比べてものすごく上がり、企業は過去最高益などという話題もよく耳にする。一方で、物価の上昇に対して賃金はまったく上がらず、生活は苦しくなる一方だとも聞く。この給付金は、そういう格差を是正するためのものなのだろう。知らないけど。
朝、奈都に給付金の話を振ってみると、奈都はそもそも存在を知らなかったらしく、「10万円かー」と瞳を輝かせた。
「想像もつかない大金だね。ゲームが欲しい気もするけど、実際のところ私はそんなにゲームをしない。スマホでポチポチするくらいで十分」
確かに、中学の頃は奈都の口からゲームの話をよく聞いた気がするが、最近はそうでもない。私も時々スマホゲームをポチポチしているが、楽しいというよりコミュニケーションツールの感覚だ。他にやっている人がいなければたぶんやらないが、奈都はどうなのだろう。
聞いてみると、奈都は普通に楽しいけどと前置きしてから、残念そうに続けた。
「昔ほど楽しいと思えなくなってきてるから、価値観が変わってきたのかも。友達と遊んでる方が、充実した時間の過ごし方って気はする」
「それはいい価値観だと思うよ? じゃあ、服でも買う?」
やはり女子なら服やコスメだろう。私が唯一興味のある分野に持ち込もうと思ったが、奈都は気が乗らない声で否定した。
「服って流行りもあるし、年齢的なものもあるし、普段は制服だし、着る機会に対して値段が高くない?」
「高校生だからこそのオシャレってあるじゃん」
「大学生になってから考えるよ。じゃあ、チサは服とか化粧品とかに使うの?」
奈都が貴様はどうなのかと聞いてきた。それを絶賛悩んでいるところで、それを考える時間がまた楽しいのだと伝える。
「お金を使うことを考えるだけでワクワクしない? 景気のいい話じゃん」
「まあそうだね。あー、スニーカーとかは大学生になっても使えていいかも」
「靴もいいね」
「でも、必需品は贅沢を言わなかったら、親が買ってくれるでしょ? 元々お小遣いが多いわけでもないし、最低限与えられるものにお金を使う価値観がない」
確かに、よほど自分が欲しいものでなければ、最低限の衣食住は保証されている。特に野阪家では、一人っ子だからか親の趣味か、まあまあデザイン性の高い衣類が与えられるので、奈都ではないが着る回数を考えると、自分で買うのもバカバカしい気はする。
「コスメかなぁ。美味しいもの食べたい思いもあるし、旅行もいいね。みんなで東京行くとか」
「私は結構、物を買いたくなるね。消耗品とか思い出より」
「そうだね。奈都はそういう女だ」
私がよくわかっていると頷くと、奈都がどういう意味だと睨んできた。言外に含んだことなど何もないので、勝手に深読みするのはやめていただきたいものである。
一応詳細を調べてみたが、本当に間違いなく、本人がもらえるものらしい。時々、子供を持つ親に対して支給されるというような、トリガーは子供だがもらうのは親という給付金があるが、今回のはそういうものではないようである。何が目的かはわからないが、きっと円安が進行して日本の物が海外で高く売れているのだろう。経済はさっぱりわからないが、潤っているのはいいことだ。
実際、株価は数年前と比べてものすごく上がり、企業は過去最高益などという話題もよく耳にする。一方で、物価の上昇に対して賃金はまったく上がらず、生活は苦しくなる一方だとも聞く。この給付金は、そういう格差を是正するためのものなのだろう。知らないけど。
朝、奈都に給付金の話を振ってみると、奈都はそもそも存在を知らなかったらしく、「10万円かー」と瞳を輝かせた。
「想像もつかない大金だね。ゲームが欲しい気もするけど、実際のところ私はそんなにゲームをしない。スマホでポチポチするくらいで十分」
確かに、中学の頃は奈都の口からゲームの話をよく聞いた気がするが、最近はそうでもない。私も時々スマホゲームをポチポチしているが、楽しいというよりコミュニケーションツールの感覚だ。他にやっている人がいなければたぶんやらないが、奈都はどうなのだろう。
聞いてみると、奈都は普通に楽しいけどと前置きしてから、残念そうに続けた。
「昔ほど楽しいと思えなくなってきてるから、価値観が変わってきたのかも。友達と遊んでる方が、充実した時間の過ごし方って気はする」
「それはいい価値観だと思うよ? じゃあ、服でも買う?」
やはり女子なら服やコスメだろう。私が唯一興味のある分野に持ち込もうと思ったが、奈都は気が乗らない声で否定した。
「服って流行りもあるし、年齢的なものもあるし、普段は制服だし、着る機会に対して値段が高くない?」
「高校生だからこそのオシャレってあるじゃん」
「大学生になってから考えるよ。じゃあ、チサは服とか化粧品とかに使うの?」
奈都が貴様はどうなのかと聞いてきた。それを絶賛悩んでいるところで、それを考える時間がまた楽しいのだと伝える。
「お金を使うことを考えるだけでワクワクしない? 景気のいい話じゃん」
「まあそうだね。あー、スニーカーとかは大学生になっても使えていいかも」
「靴もいいね」
「でも、必需品は贅沢を言わなかったら、親が買ってくれるでしょ? 元々お小遣いが多いわけでもないし、最低限与えられるものにお金を使う価値観がない」
確かに、よほど自分が欲しいものでなければ、最低限の衣食住は保証されている。特に野阪家では、一人っ子だからか親の趣味か、まあまあデザイン性の高い衣類が与えられるので、奈都ではないが着る回数を考えると、自分で買うのもバカバカしい気はする。
「コスメかなぁ。美味しいもの食べたい思いもあるし、旅行もいいね。みんなで東京行くとか」
「私は結構、物を買いたくなるね。消耗品とか思い出より」
「そうだね。奈都はそういう女だ」
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