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第62話 文化の日(2)
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* * *
そうこうしていると、いよいよユナ高バトン部の出番になったので最前列に移動した。今回は最初から通しで奈都の撮影をしようと思っている。
大学ではバトンは続けないと言っていたし、可愛い衣装を着てバトンを回す奈都が見られる機会も残り少なくなってきた。
高校生活もすでに半分以上終わってしまった。それを考えると寂しくなるし、少なくとも今はそんな感慨に耽る時ではない。
「こんにちは! 結波高校バトン部です!」
新しく部長と副部長になった子が、交互に挨拶する。さっきのチアの子たちに負けない元気さで、一文ずつ、最後にエクスクラメーションマークが付いている。
元気な女の子は、見ている方も元気になるから、後で私もエクスクラメーションマークを付けて喋ろう。
ちなみに奈都は、後輩ちゃんの予想に反して、部長にも副部長にも選ばれなかった。本人が辞退したという話も耳にしたが、詳しくは聞いていない。
演技の方はまあまあだった。大会に出るようなチームではないから、バトンの回転は遅いし、トスも高くないし、大技もないし、動きにもキレがないが、上手なチームと比較しなければ十分楽しめる演技だった。特に今回はバトンを落とすことが少なかったし、そのおかげで曲ととても合っていた。
奈都個人でも、2スピンをキメたり、まだ成功率が低いと言っていたエンジェルロールを成功させるなど、これまでの中で一番良かった。我が子の成長が誇らしい。
ステージが終わって動画の終了ボタンを押すと、撮影中喋らずにいてくれた涼夏が、「これは無形文化財だな」と感心するように言った。元気をアピールするべく、私はオーバーに頷いた。
「そうだね! 帰宅部は文化部だけど、負けじと頑張ろうね!」
「無駄に元気だな」
涼夏が少し身を引いて、絢音がくすっと笑った。
結波バトン部の次は、どこかの和太鼓演奏だった。少し距離を取って演奏を聴きながら文化財について調べていると、奈都がふらっと顔を出した。
「お疲れー。どうだった?」
「すごく良かったよ! 無形文化財だよ!」
私が元気にそう答えると、奈都がうわぁと聞こえてきそうな仕草をした。
「何この子。なんでこんなにテンション高いの?」
「わかんないけど、元気な千紗都可愛い」
絢音がそう言うと、奈都はそれには同意すると頷いた。
貴重な衣装姿なので、元気なポーズをさせて何枚か写真を撮った。汗の滲んだうなじの写真を執拗に撮っていたら、奈都に怪訝な目で見られた。
「何? 変態なの?」
ひどい言われようだ。奈都が私の胸に魅力を感じるのと、私が奈都のうなじに魅力を感じるのとで、どれだけの差があるというのか。
これからどうするのか聞いたら、もうしばらく部活で引っ張られるし、その後部活の子と打ち上げに行くという。
「そっちは? 涼夏は今日はバイトだったよね?」
奈都がきょろりと私たちを見回した。ちゃんと予定を覚えていて偉い。
大きく頷く涼夏の隣で、これから文化財を探しに行くと伝えると、奈都が不思議そうな顔をした。
「文化財? なんで?」
「文化の日だから」
「そうなんだ」
そう相槌を打って、そろそろ戻ると言って奈都は駆けていった。その背中に手を振りながら、絢音が楽しそうに笑った。
「今のナツの『そうなんだ』、すごく良かった」
「あんなにテキトーな『そうなんだ』は聞いたことがない。無形文化財だな」
涼夏もまったくだと同意を示すが、奈都は大体いつでもあんな感じだと思う。興味がないことに対する相槌がとことん下手だ。
まあ、突飛な企画なのは承知している。後から聞いて、奈都が自分も行きたかったと悔しがるような一日にしよう。
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そうこうしていると、いよいよユナ高バトン部の出番になったので最前列に移動した。今回は最初から通しで奈都の撮影をしようと思っている。
大学ではバトンは続けないと言っていたし、可愛い衣装を着てバトンを回す奈都が見られる機会も残り少なくなってきた。
高校生活もすでに半分以上終わってしまった。それを考えると寂しくなるし、少なくとも今はそんな感慨に耽る時ではない。
「こんにちは! 結波高校バトン部です!」
新しく部長と副部長になった子が、交互に挨拶する。さっきのチアの子たちに負けない元気さで、一文ずつ、最後にエクスクラメーションマークが付いている。
元気な女の子は、見ている方も元気になるから、後で私もエクスクラメーションマークを付けて喋ろう。
ちなみに奈都は、後輩ちゃんの予想に反して、部長にも副部長にも選ばれなかった。本人が辞退したという話も耳にしたが、詳しくは聞いていない。
演技の方はまあまあだった。大会に出るようなチームではないから、バトンの回転は遅いし、トスも高くないし、大技もないし、動きにもキレがないが、上手なチームと比較しなければ十分楽しめる演技だった。特に今回はバトンを落とすことが少なかったし、そのおかげで曲ととても合っていた。
奈都個人でも、2スピンをキメたり、まだ成功率が低いと言っていたエンジェルロールを成功させるなど、これまでの中で一番良かった。我が子の成長が誇らしい。
ステージが終わって動画の終了ボタンを押すと、撮影中喋らずにいてくれた涼夏が、「これは無形文化財だな」と感心するように言った。元気をアピールするべく、私はオーバーに頷いた。
「そうだね! 帰宅部は文化部だけど、負けじと頑張ろうね!」
「無駄に元気だな」
涼夏が少し身を引いて、絢音がくすっと笑った。
結波バトン部の次は、どこかの和太鼓演奏だった。少し距離を取って演奏を聴きながら文化財について調べていると、奈都がふらっと顔を出した。
「お疲れー。どうだった?」
「すごく良かったよ! 無形文化財だよ!」
私が元気にそう答えると、奈都がうわぁと聞こえてきそうな仕草をした。
「何この子。なんでこんなにテンション高いの?」
「わかんないけど、元気な千紗都可愛い」
絢音がそう言うと、奈都はそれには同意すると頷いた。
貴重な衣装姿なので、元気なポーズをさせて何枚か写真を撮った。汗の滲んだうなじの写真を執拗に撮っていたら、奈都に怪訝な目で見られた。
「何? 変態なの?」
ひどい言われようだ。奈都が私の胸に魅力を感じるのと、私が奈都のうなじに魅力を感じるのとで、どれだけの差があるというのか。
これからどうするのか聞いたら、もうしばらく部活で引っ張られるし、その後部活の子と打ち上げに行くという。
「そっちは? 涼夏は今日はバイトだったよね?」
奈都がきょろりと私たちを見回した。ちゃんと予定を覚えていて偉い。
大きく頷く涼夏の隣で、これから文化財を探しに行くと伝えると、奈都が不思議そうな顔をした。
「文化財? なんで?」
「文化の日だから」
「そうなんだ」
そう相槌を打って、そろそろ戻ると言って奈都は駆けていった。その背中に手を振りながら、絢音が楽しそうに笑った。
「今のナツの『そうなんだ』、すごく良かった」
「あんなにテキトーな『そうなんだ』は聞いたことがない。無形文化財だな」
涼夏もまったくだと同意を示すが、奈都は大体いつでもあんな感じだと思う。興味がないことに対する相槌がとことん下手だ。
まあ、突飛な企画なのは承知している。後から聞いて、奈都が自分も行きたかったと悔しがるような一日にしよう。
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