ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉

文字の大きさ
300 / 387

第62話 文化の日(1)

しおりを挟む
※今回、話の切れ目ではないところで切っています。

  *  *  *

 文化の日に、奈都が私学フェスでバトンを回すという情報をキャッチした。朝、本人が言っていただけだが。
 私学フェスとは、文字通り私学の高校生が集まって、様々なステージを行ったり、模擬店を出したりする文化祭みたいなものだ。
 公立をはばにするような企画だが、そもそも公立と私立の授業料の格差を是正しようという活動が元になっている。今はお祭り色が濃くなり、公立高校も普通に参加している。
 私学の授業料が高いのは当たり前なのだが、本人の学力ではなく、親の経済的な理由で学びたい学校で学べないのは良い状態ではない、というのが活動の趣旨だ。
 それについての私の個人的な意見は差し控えるが、とりあえずみんなで集まってワイワイやるのは面白い。お祭り事に全力で臨むのは帰宅部の基本方針である。
 この日は涼夏が15時からバイトだが、幸いにも奈都のステージは10時半からだったので3人で見に行くことにした。会場は大きな公園で、涼夏の家からもバイト先からも電車で1本だ。
 現地集合で、少し早く着いたがすでに絢音も涼夏も来ていた。フェス自体は9時から始まっており、なかなか賑わっている。少し暑いが綺麗な秋晴れだ。
「さっき絢音と喋ってたんだけど、私学フェス自体は今からナッちゃんのステージまでいたら満足すると思う」
 合流するや否や涼夏がそう言って、隣で絢音も二度頷いた。実際、奈都以外に知り合いは参加していないし、内容的には文化祭のグラウンド部分だけを切り取ったようなイベントだ。楽しいが新しさはない。
 しかし、それに代わる楽しそうな企画がなければ、せっかく来たのに早々に退散する必要もない。とりあえず模擬店のテントを眺めながら私見を述べると、絢音がわかっているというように頷いた。
「今日、文化の日でしょ?」
「そうだね」
「そこで、文化に触れる遊びをするのはどうだろう。発案、私」
 具体的に何をするのかまったくわからないが、とても知的な響きがする。近くに科学館やプラネタリウムがあるので、そこに行くのも悪くない。ただ、せっかくの秋晴れなので、外で遊びたい気持ちはある。
 ひとまず絢音の考えを最後まで聞こうと続きを促すと、絢音は得意げに笑った。
「文化と言えば文化財! 近くの文化財を回る遊びをします!」
 隣で涼夏がパチパチと拍手する。
 なるほど。文化の日に相応しい遊びだが、楽しいのだろうか。意見を求めるように涼夏を見ると、涼夏は小さく肩をすくめた。
「面白いかはわからんけど、今まで文化財について考えたことがないし、帰宅部っぽい企画だとは思う。どうせ私は総踊りまでいれないし、ナッちゃんのステージの後、文化的な遊びをしても構わない」
 二人がいいなら構わない。
 ステージではどこかの高校の吹奏楽部が演奏している。演奏を聴きながら文化財について調べてみると、人間の文化によって残された価値のあるもののことだそうだ。
 つまり価値がなくてはいけないし、ゾウやシマウマによるものは文化財とは言わない。
「シマウマの文化ってなんだ?」
 涼夏が首を傾げるが、私にもわからない。野阪千紗都は定期的に意味のわからないことを言う女だ。
 文化財には有形と無形があり、技術や音楽も文化財に指定されている。ちなみに文化とは社会的な振る舞いのことを指す。つまり、人間の営みそのものが文化とも言える。
「帰宅部は無形文化財だな」
 涼夏が得意げに言ったが、価値のあるものという定義が頭から抜け落ちているようだ。
 吹奏楽部の演奏が終わり、どこかのチア部の演技が始まった。元気いっぱいだ。私に欠けているのは元気かもしれない。
「近くにはどんな文化財があるかなぁ!」
 元気にそう言って、身を乗り出しながらウキウキを表現するように両手をグーにすると、二人が顔を見合わせて静かに視線を逸らせた。あまりにもひどい反応だ。
 市のサイトに文化財の一覧があり、住所から近くにある文化財を調べてみると、絵画の項目に天神像の絵が出てきた。絵のタイトルで検索すると、どうやら室町時代の絵画らしい。
「これ、いきなり行って見れるのか?」
「一応このページには、見学は常時って書いてあるね」
「お寺の人に声をかけて見せてもらうタイプじゃない? それはなんだか恥ずかしい」
 涼夏が悩ましそうに言った。確かに、見るのが目的の遊びであって、天神像の絵に興味があるわけでもなければ、古い絵画にも興味がない。説明させるのも申し訳ないし、若いのに感心だと褒められてもいたたまれない。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

ツルギの剣

Narrative Works
青春
 室戸岬沖に建設された海上研究都市、深水島。  舞台はそこに立つ女子校、深水女子高等学校から始まる。  ある日、深水女子高等学校の野球部に超野球少女が入部した。  『阿倍野真希』と呼ばれる少女は、ささいなことから本を抱えた少女と野球勝負をすることになった。  勝負は真希が勝つものと思われていたが、勝利したのは本の少女。  名前を『深水剣』と言った。  そして深水剣もまた、超野球少女だった。  少女が血と汗を流して戦う、超能力野球バトル百合小説、開幕。 ※この作品は複数のサイトにて投稿しています。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

処理中です...