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番外編 フォトコンテスト(3)
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それからバスを使って神社やお寺、公園や池をいくつか回った。中には気の早いカモがいたりもしたが、それこそスマホのカメラでは太刀打ちできない。
「結局、広角でその場所を大きく撮って、さりげなく私たちが入るくらいしか出来ないな」
休憩に入ったカフェで、涼夏がカメラロールに指を滑らせながら、無念そうに息を吐いた。公園では遊具ではしゃいだ写真も撮ったが、被写体が子供ならまだしも、高校生では遊具を占拠している邪魔な大人にしか映らない。
「十分楽しいけど、受賞となるとどうかな」
奈都が同じように写真を見ながら言った。隣から覗き込むと、明らかにコンテストとは関係ない、みんなのアップの写真が並んでいた。まあ、4人で同じ写真ばかり撮っていても仕方ないので、こういう写真も有り難い。
ケーキとドリンクが並べられると、いつものように映える写真を撮った。ケーキはとても美味しくて、ぶっちゃけ今日一番おすすめのスポットはこのカフェなのだが、それはフォトコンテストとは関係ない。涼夏がSNSにアップしたので、それでよしとしよう。
1時間くらいくつろいでカフェを出ると、淡い青空が広がっていた。元々晴れが優勢ではあったが、ここに来て雲が一掃された。とは言え、もうじき日の沈む時間である。少し風も出てきた。
「夕日が見れそうだし、河原で芸術的な夕日の写真を撮ろう」
私がそう提案すると、涼夏に「相変わらず夕日大好きだな」と笑われた。今のは私の好みとは関係ない提案だったが、夕日が好きなのは間違いない。
適当なバスに乗って天城川の近くで降りる。バスの中で目指す緑地の距離を調べてみたが、800メートルはまったく問題なかった。
ちなみに、河川敷の緑地からは、橋はもちろん、特徴的な護床工も見られるらしい。護床工というものをまったく知らなかったので絢音に聞いてみたが、さすがにわからないと言われた。
「人生で初めて聞くね。読み方もわかんない」
そう言いながら、絢音がスマホで検索する。どうやら河川の洗掘を防止する目的で置かれるものらしいが、洗掘もまた生まれて初めて聞く言葉だった。川の流れによって土砂が洗い流されることだそうだ。
画像検索してみたら、川に置かれた無数の白いコンクリートブロックが表示された。今後どこかでこのような構造物を見かけたら、護床工だと当たり前のように口にしよう。
これから向かう護床工は、そういうブロックではなく、都市景観大賞も受賞した美しいものらしい。超穴場スポットで、フォトコンテストにぴったりだ。
「この護床工で入賞を目指そう。目標、一日乗車券2枚!」
涼夏が頑張ろうとガッツポーズした。随分控えめだが、妥当な目標である。ちなみに最優秀賞は、電子マネー5千円分だが、ちょっと私たちの写真では厳しそうだ。
バスを降りて住宅地を抜け、大きな団地を眺めながら堤防の階段を登ると、そこには緑が広がっていた。そして、緑以外には何もなかった。一応コンクリート製と思われるベンチはあるが、手入れされている形跡はない。
「野趣に富んだ緑地だな」
涼夏が呆れたように肩をすくめると、絢音がくすくすと笑った。芝生と呼んでいいのか、草地の向こうに木々が生い茂っており、その向こうに3段になった細長い半円形の護床工が見える。役割は同じなのだろうが、コンクリートブロックとは明らかに一線を画した建造物だ。
とりあえず、川沿いの道を散歩している写真を撮ったり、爽やかな音を立てる護床工を撮ったり、少し歩いて橋や橋からの風景を撮っている内に西の空が赤くなってきた。
この場所にはすでに飽きてはいたが、ここよりも夕日が綺麗に見える場所が近くにあるとも思えないので、もう少し滞在して赤く染まる空や川を撮影した。もちろん私たちも入ったし、フォトコンテストには関係ない写真も撮った。
街灯に照らされた薄暗い道を歩きながらバス停に向かう。区役所が近いこともあって、バスは時間を調べる必要がない程度には本数がある。
「結局10ヶ所くらい回ったな」
涼夏がカメラロールを指で弾きながら言った。朝から回っている割には少ないが、バスを使っているので仕方ない。改めて見てみると本当にただ写しただけだが、人が入っているので観光地感は出ている。
「あんまり同じようなのいっぱい送ってもしょうがないから、また後日みんなで選別しよう」
涼夏の号令に、異存はないと頷いた。今日はもう、電車に乗って解散である。お金があればファミレスでも行って感想を語り合いたいところだが、一日乗車券も買ったし、何よりカフェで千円以上使った。これ以上の余裕はない。
「今日は天城区再発見の旅だったね」
バスに乗ってそう切り出すと、涼夏が大きく頷いた。
「人生で天城区についてこんなに考えたのは初めてだ」
「それが目的のコンテストだった気もするね」
そう言って絢音が笑う。当初、応募された写真で天城区の魅力を知ってもらうイベントだと考えたが、市民にバスを使って天城区を回ってもらうイベントだったように思える。実際、一日乗車券を4枚も買ったし、交通局もほくほくだろう。また来たくなるようなスポットがあったかと聞かれると微妙だが、冬は鳥がたくさん飛んでくるそうだし、野鳥が見たくなったら来るかもしれない。
「さらば、天城区」
残念ながら、普通に生活しているとまったく来ることのない場所にある。そういう区は他にもたくさんあるので、またこうしてみんなで回れたら嬉しい。
「結局、広角でその場所を大きく撮って、さりげなく私たちが入るくらいしか出来ないな」
休憩に入ったカフェで、涼夏がカメラロールに指を滑らせながら、無念そうに息を吐いた。公園では遊具ではしゃいだ写真も撮ったが、被写体が子供ならまだしも、高校生では遊具を占拠している邪魔な大人にしか映らない。
「十分楽しいけど、受賞となるとどうかな」
奈都が同じように写真を見ながら言った。隣から覗き込むと、明らかにコンテストとは関係ない、みんなのアップの写真が並んでいた。まあ、4人で同じ写真ばかり撮っていても仕方ないので、こういう写真も有り難い。
ケーキとドリンクが並べられると、いつものように映える写真を撮った。ケーキはとても美味しくて、ぶっちゃけ今日一番おすすめのスポットはこのカフェなのだが、それはフォトコンテストとは関係ない。涼夏がSNSにアップしたので、それでよしとしよう。
1時間くらいくつろいでカフェを出ると、淡い青空が広がっていた。元々晴れが優勢ではあったが、ここに来て雲が一掃された。とは言え、もうじき日の沈む時間である。少し風も出てきた。
「夕日が見れそうだし、河原で芸術的な夕日の写真を撮ろう」
私がそう提案すると、涼夏に「相変わらず夕日大好きだな」と笑われた。今のは私の好みとは関係ない提案だったが、夕日が好きなのは間違いない。
適当なバスに乗って天城川の近くで降りる。バスの中で目指す緑地の距離を調べてみたが、800メートルはまったく問題なかった。
ちなみに、河川敷の緑地からは、橋はもちろん、特徴的な護床工も見られるらしい。護床工というものをまったく知らなかったので絢音に聞いてみたが、さすがにわからないと言われた。
「人生で初めて聞くね。読み方もわかんない」
そう言いながら、絢音がスマホで検索する。どうやら河川の洗掘を防止する目的で置かれるものらしいが、洗掘もまた生まれて初めて聞く言葉だった。川の流れによって土砂が洗い流されることだそうだ。
画像検索してみたら、川に置かれた無数の白いコンクリートブロックが表示された。今後どこかでこのような構造物を見かけたら、護床工だと当たり前のように口にしよう。
これから向かう護床工は、そういうブロックではなく、都市景観大賞も受賞した美しいものらしい。超穴場スポットで、フォトコンテストにぴったりだ。
「この護床工で入賞を目指そう。目標、一日乗車券2枚!」
涼夏が頑張ろうとガッツポーズした。随分控えめだが、妥当な目標である。ちなみに最優秀賞は、電子マネー5千円分だが、ちょっと私たちの写真では厳しそうだ。
バスを降りて住宅地を抜け、大きな団地を眺めながら堤防の階段を登ると、そこには緑が広がっていた。そして、緑以外には何もなかった。一応コンクリート製と思われるベンチはあるが、手入れされている形跡はない。
「野趣に富んだ緑地だな」
涼夏が呆れたように肩をすくめると、絢音がくすくすと笑った。芝生と呼んでいいのか、草地の向こうに木々が生い茂っており、その向こうに3段になった細長い半円形の護床工が見える。役割は同じなのだろうが、コンクリートブロックとは明らかに一線を画した建造物だ。
とりあえず、川沿いの道を散歩している写真を撮ったり、爽やかな音を立てる護床工を撮ったり、少し歩いて橋や橋からの風景を撮っている内に西の空が赤くなってきた。
この場所にはすでに飽きてはいたが、ここよりも夕日が綺麗に見える場所が近くにあるとも思えないので、もう少し滞在して赤く染まる空や川を撮影した。もちろん私たちも入ったし、フォトコンテストには関係ない写真も撮った。
街灯に照らされた薄暗い道を歩きながらバス停に向かう。区役所が近いこともあって、バスは時間を調べる必要がない程度には本数がある。
「結局10ヶ所くらい回ったな」
涼夏がカメラロールを指で弾きながら言った。朝から回っている割には少ないが、バスを使っているので仕方ない。改めて見てみると本当にただ写しただけだが、人が入っているので観光地感は出ている。
「あんまり同じようなのいっぱい送ってもしょうがないから、また後日みんなで選別しよう」
涼夏の号令に、異存はないと頷いた。今日はもう、電車に乗って解散である。お金があればファミレスでも行って感想を語り合いたいところだが、一日乗車券も買ったし、何よりカフェで千円以上使った。これ以上の余裕はない。
「今日は天城区再発見の旅だったね」
バスに乗ってそう切り出すと、涼夏が大きく頷いた。
「人生で天城区についてこんなに考えたのは初めてだ」
「それが目的のコンテストだった気もするね」
そう言って絢音が笑う。当初、応募された写真で天城区の魅力を知ってもらうイベントだと考えたが、市民にバスを使って天城区を回ってもらうイベントだったように思える。実際、一日乗車券を4枚も買ったし、交通局もほくほくだろう。また来たくなるようなスポットがあったかと聞かれると微妙だが、冬は鳥がたくさん飛んでくるそうだし、野鳥が見たくなったら来るかもしれない。
「さらば、天城区」
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