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第66話 お笑い(2)
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今朝の奈都とのやり取りから得られた教訓として、披露する場所は考えた方が良さそうだ。お笑いは、電車の中みたいな人目もあって声も出せない場所ですることではない。早く見せたい気持ちが強すぎて、せっかくのネタを無駄にしてしまった。
それでは、涼夏と絢音にはいつ見せるのがいいだろう。放課は短くて落ち着かないし、放課後は大抵二人の内の片方は早く帰らないといけない。土日を待つほどの企画ではないし、やはり昼休みが無難だろうか。
「フリップネタを作ってきた」
お弁当の後にそう切り出すと、二人は目を輝かせて身を乗り出した。
「これは期待できる」
「傑作だから。教室が大笑い海岸になるね」
そう言いながらタブレットを用意すると、涼夏が「今の海岸はなんだ?」と首を傾げた。絢音が私にも聞こえるヒソヒソ声で言った。
「大洗海岸のパロだと思うけど、涼夏に優しさがあるなら聞き流してあげて」
「フリップネタも今のレベルだったらどうしよう」
「もう一度10秒前のテンションに戻そう」
なんだかひどいことを言っているが、ネタを聞いたら笑わずにはいられないだろう。まずは絢音のネタからだ。ドンと絢音のアップの絵を表示する。
「これは絢音ですね。ギターを弾いてる私の友達です」
「絵が可愛いな」
「髪を縛ってたらとりあえず私」
二人が私の拙いイラストの感想を述べる。今の可愛いは、一般的な4歳児の描く猫の絵に可愛いと言うのと同じニュアンスで、決して上手いという意味ではない。
2枚目のフリップは、絢音が棍棒みたいな楽器を弾いているものだ。表示と同時にツッコミを入れる。
「ギターじゃなくて、ギロ! しかもピックで弾いてる!」
シンと沈黙が下りる。引き攣った笑いすらなく、ただ真顔でフリップを見つめる二人を見て私が笑いそうになったが、ネタを披露している人間が笑うのは興醒めだ。
5秒ほどしてから、涼夏がチラリと目だけで私を見た。
「続きは?」
「次のフリップは次のネタだけど」
「そっか」
涼夏がそう呟いて、何かを求めるように絢音を見た。絢音は無言で視線を逸らせて、涼夏が諦めたようにフリップに視線を戻して頷いた。次のネタに行けということだろう。
全然ウケなかったが、きっとギロという楽器がマニアックだったからに違いない。昨日私が見たフリップネタも8割方理解できなかったし、知識的な問題は仕方ない。
タブレットをタップして次のフリップを表示する。スカートのお尻が赤く汚れている涼夏のイラストだ。
「スカートの汚れた涼夏ですね。急に始まっちゃったのかな」
私が説明を入れると、涼夏がむず痒そうな顔をした。
「また際どい女子ネタをぶち込んできたな」
「スカートの汚れちゃった涼夏可愛い」
「幸いにも一度もないな。常備してる」
二人が話し終えるのを待ってから、台詞付きのフリップを表示する。
「これはハカの血で……って、こんなに出たら死ぬから!」
驚いたように私が手を広げると、涼夏がもっと驚いたように目を丸くした。
「えっ? 下ネタ?」
さらに次のフリップを表示する。制服でラグビーをしている涼夏のイラストだ。
「ハカってラグビーかい!」
しっかりと突っ込んでネタを終えると、二人は唖然としたようにフリップを見つめてから、悲しそうに目を伏せた。
まるでお前から伝えろと言わんばかりに、二人はチラチラとお互いの顔を見るばかりで一言もない。仕方がないので、タブレットの画面を落として面白かったか聞いてみると、涼夏が視線を合わせないまま言った。
「面白かった反応に見える?」
「ギロとかハカとか、ネタがマニアックだったかな?」
「そうだね。きっとそのせいだ」
「私はどっちもわかったけど、きっとそのせいだね」
絢音が憔悴した表情で擁護する。ここまで来ると、敢えてつまらなかった反応をして、私をいじめているだけなのではないかという気さえしてくる。
いずれにせよ、笑ってもらえなかったのは事実だ。こうして私が昨晩1時間かけて作ったフリップネタは、散々な結果に終わった。
それでは、涼夏と絢音にはいつ見せるのがいいだろう。放課は短くて落ち着かないし、放課後は大抵二人の内の片方は早く帰らないといけない。土日を待つほどの企画ではないし、やはり昼休みが無難だろうか。
「フリップネタを作ってきた」
お弁当の後にそう切り出すと、二人は目を輝かせて身を乗り出した。
「これは期待できる」
「傑作だから。教室が大笑い海岸になるね」
そう言いながらタブレットを用意すると、涼夏が「今の海岸はなんだ?」と首を傾げた。絢音が私にも聞こえるヒソヒソ声で言った。
「大洗海岸のパロだと思うけど、涼夏に優しさがあるなら聞き流してあげて」
「フリップネタも今のレベルだったらどうしよう」
「もう一度10秒前のテンションに戻そう」
なんだかひどいことを言っているが、ネタを聞いたら笑わずにはいられないだろう。まずは絢音のネタからだ。ドンと絢音のアップの絵を表示する。
「これは絢音ですね。ギターを弾いてる私の友達です」
「絵が可愛いな」
「髪を縛ってたらとりあえず私」
二人が私の拙いイラストの感想を述べる。今の可愛いは、一般的な4歳児の描く猫の絵に可愛いと言うのと同じニュアンスで、決して上手いという意味ではない。
2枚目のフリップは、絢音が棍棒みたいな楽器を弾いているものだ。表示と同時にツッコミを入れる。
「ギターじゃなくて、ギロ! しかもピックで弾いてる!」
シンと沈黙が下りる。引き攣った笑いすらなく、ただ真顔でフリップを見つめる二人を見て私が笑いそうになったが、ネタを披露している人間が笑うのは興醒めだ。
5秒ほどしてから、涼夏がチラリと目だけで私を見た。
「続きは?」
「次のフリップは次のネタだけど」
「そっか」
涼夏がそう呟いて、何かを求めるように絢音を見た。絢音は無言で視線を逸らせて、涼夏が諦めたようにフリップに視線を戻して頷いた。次のネタに行けということだろう。
全然ウケなかったが、きっとギロという楽器がマニアックだったからに違いない。昨日私が見たフリップネタも8割方理解できなかったし、知識的な問題は仕方ない。
タブレットをタップして次のフリップを表示する。スカートのお尻が赤く汚れている涼夏のイラストだ。
「スカートの汚れた涼夏ですね。急に始まっちゃったのかな」
私が説明を入れると、涼夏がむず痒そうな顔をした。
「また際どい女子ネタをぶち込んできたな」
「スカートの汚れちゃった涼夏可愛い」
「幸いにも一度もないな。常備してる」
二人が話し終えるのを待ってから、台詞付きのフリップを表示する。
「これはハカの血で……って、こんなに出たら死ぬから!」
驚いたように私が手を広げると、涼夏がもっと驚いたように目を丸くした。
「えっ? 下ネタ?」
さらに次のフリップを表示する。制服でラグビーをしている涼夏のイラストだ。
「ハカってラグビーかい!」
しっかりと突っ込んでネタを終えると、二人は唖然としたようにフリップを見つめてから、悲しそうに目を伏せた。
まるでお前から伝えろと言わんばかりに、二人はチラチラとお互いの顔を見るばかりで一言もない。仕方がないので、タブレットの画面を落として面白かったか聞いてみると、涼夏が視線を合わせないまま言った。
「面白かった反応に見える?」
「ギロとかハカとか、ネタがマニアックだったかな?」
「そうだね。きっとそのせいだ」
「私はどっちもわかったけど、きっとそのせいだね」
絢音が憔悴した表情で擁護する。ここまで来ると、敢えてつまらなかった反応をして、私をいじめているだけなのではないかという気さえしてくる。
いずれにせよ、笑ってもらえなかったのは事実だ。こうして私が昨晩1時間かけて作ったフリップネタは、散々な結果に終わった。
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