[完結]「私が婚約者だったはずなのに」愛する人が別の人と婚約するとしたら〜恋する二人を切り裂く政略結婚の行方は〜

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4 公爵と娘

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 夜もふけて、人々の熱が冷めてきた頃、舞踏会は終了となった。
 最後の最後まで残っていたルーラだったが、目当ての人物がこないことに焦れて帰り支度を始める。
 足早に馬車へ向かうその途中で、後ろから声をかける者がいた。

「ルーラ、まだ残っていたか……一緒に帰ろう」
 
 ルーラの父である公爵が、気難しい顔をして立っていた。

「お父様。よかった、今日の会議は終わりましたのね」

 エルマル王国とアスバスト王国の対談が終わって、グレンは舞踏会に姿を表したが、会議に出席している父、公爵は姿を見せなかった。内々の会議があったのだろうと考えて、共に帰れるかと悩んでいたルーラは、ほっとして笑顔を見せる。

 一方の公爵は、外灯に照らされた実の娘に一瞬見とれていた。儚く美しく笑う姿はいつもと変わらない。しかし無理をしていることは知っている。だから余計にいつも通りに振る舞う娘を哀れに思った。そして同時に思うのだ。「どうしたらこの子を幸せにしてあげられるだろうか」と。
 公爵は雑念を振り払うように息をつき、流れるようにルーラをエスコートした。

 エスコートを受けたルーラは小さく笑う。
 娘相手でもこういうことをする男なので、結婚してそれなりの歳になった今でもダンスの誘いが頻繁に来る。ルーラ同様に滑らかな金髪をしているので、それもあって舞踏会に出席したならば、随分目立っていただろうと予想できた。
 馬車に乗り扉が閉まる。するとひんやりとした夜の空気から少しだけ解放された。
 二人が向かい合って座ると、ゆっくりと馬車は動き始めた。

 沈黙が二人を包む。
 ルーラは目の前で難しい顔をして黙る父親をじっと見つめていた。おそらく、何かをルーラに話そうとしている気配がある。しかし一向に言葉は出てこない。言いづらいことなのだろうと、ルーラは覚悟を決めていた。

「ルーラ」
「はい」

 重々しく開かれた口。ようやく言葉が紡がれることにホッとするルーラだが、その意表をつくような言葉が公爵から放たれた。

「お前、ニーデルベア伯爵の御子息とは会ったことがあったか?」

 ルーラは瞬きを繰り返した。
 突然の話題である。

「ニーデルベア伯爵の御子息というと、長男のカルセル様ですか? それともジョエル様でしょうか」
「ジョエル殿だ」
「でしたらお会いしたことはございます。以前……グレン殿下からご紹介いただきました。友人だとおっしゃっていましたわ。気さくで快活な方と記憶しておりますが」
「そうか」

 そう言ったまま、また押し黙る。
 ニーデルベア伯爵は数ある伯爵位を持つ貴族の中でもとくに有力な貴族で、その膨大な資産が国を支えている。公爵家より下位ではあるが、決して立場的には下とは言えない相手だ。
 もし、ニーデルベア伯爵と何か問題が起きているならば、早期に解決しなくてはならないことだが、そういうことなのだろうか。伯爵も今回の会議に出ていたはずだ。そこで何か話したのだろうか。

「ルーラ」
「はい」

「……ジョエル殿と婚約するつもりはないか」
「え……」

 思わぬ話に、ルーラは言葉を失った。
 グレンの友人であるジョエルと婚約。考えたこともなかったことだ。今までグレンと婚約すると疑っていなかったのだから当然だが。

「どうだ?」
「どう……と言われましても、その、突然で……。好ましい印象はございますがお話したことは二度ほどしかないのです。それに……」

 それに、まだルーラはグレンの婚約者候補から外れたわけではない。
 この話は時期尚早ではないか。

 ――いいえ、そんなことはないわ。だって、今日も対談が進まなかったのかなんてわからないもの。

「お父様……もしや対談に進展が?」
「……ああ、そうだ。話がようやく収束に向かい始めている」

 それは、つまり、交友が結ばれるのはもう確定したということでもある。そうなれば、婚約の話は当然白紙。
 わかっていたことだ。しかしつい先程ダンスを踊ったばかりなのに、もしやあれが最後になるのだろうか。最後になる覚悟をしていたはずなのに、ルーラは心に起きる動揺を隠せなかった。




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