3 / 23
3 恋する2人
しおりを挟む音が鳴り終わり、ダンスが終わった。
レティシアとグレンが中央でお辞儀している。これで2人のダンスは終わりだが、レティシアが望めば二度目もあるかもしれない。あるいはグレンが望めば。もしそのようなことになれば、2人の仲は問題ないと言うことにもなる。
少なくともあの王女の癇癪を見た者は、グレンが次にどう行動するのかをひどく緊張してみていた。
その視線を受けているグレンが、さっと体の向きを変える。
「ルーラさん」
どこか心ここに在らずであったルーラは、ミランダに呼びかけられてハッとした。
気づけば目の前にグレンが立っていた。
無言で手が差し伸べられる。
本来ならば、誘いの言葉を言うものだが、グレンは唇を引き結んだままだ。そんな頑なな態度がむしろ好ましく見えて、ルーラはわずかに唇を綻ばせると、そっとその手を取った。
グレンが二番手に選んでくれたことが嬉しかった。
他の令嬢たちもわずかにほっとした様子を見せる。
曲が流れはじめ、ルーラの黄金の髪がふわふわと揺れた。
中央に躍り出た2人をレティシアが見ている。
ルーラはその視線を感じながらも、今は何も考えまいと思考を遮断する。そしてそっとグレンの横顔を盗み見た。
「……どうした」
低い声が、ルーラの耳朶を打った。
グレンが、視線を合わせることもなく囁いたのだ。顔を見ていることに気づいたのだろうということがわかり、ルーラはわずかに恥ずかしさから頬を染める。
「いいえ。ただ……このように近くにいるのは久しぶりです」
反応するように、腰に回された腕に力が入ったことがわかった。
「殿下?」
「すまない。忙しくて、手紙も出せなくて」
本来なら会う必要も、手紙のやり取りだって必要ない。なぜなら2人は婚約者ではないから。けれど、時が来れば婚約することになると、2人とも疑っていなかった。だから親しくしていた。なによりも、2人は幼い頃からの共に育ったも同然。会わないことの方がおかしく感じるほど、距離が近い関係だった。
「仕方ありません。大事な、時期ですから」
「君は、それでいいのか」
ルーラは黙った。それでいいのか。レティシアと婚約して、会えなくなってもいいのか。そういう意味ならば、よくはない。だが、国として国交を結ぶことを望んでいるのか。と言われれば、そうなれば良いと思っている。
どう答えればいいのかわからない。
「……すまない」
「え?」
「意地の悪い質問だった」
グレンは静かに謝った。
2人のダンスは息があっていて、いつものようにピタリと合わさっている。そして心も。けれど、それは国という大きなしがらみの上では、もろい繋がりだったのだと、ルーラはようやく気づいた。
ダンスが終わる。
2人そっと離れる。
ルーラは微笑んだ。
「ありがとうございました。殿下」
あらゆる思いを込めて言葉を紡ぐ。
グレンもまたあらゆる思いを詰め込んだ表情で、ゆっくりと頷いた。
67
あなたにおすすめの小説
本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました
音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。
____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。
だから私は決めている。
この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。
彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。
……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。
この恋を忘れたとしても
喜楽直人
恋愛
卒業式の前日。寮の部屋を片付けていた私は、作り付けの机の引き出しの奥に見覚えのない小箱を見つける。
ベルベットのその小箱の中には綺麗な紅玉石のペンダントが入っていた。
身代わりの恋だと思っていました〜記憶を失った私に、元婚約者が泣いて縋る理由〜
恋せよ恋
恋愛
「君を愛している。一目惚れだったんだ」
18歳の伯爵令嬢エリカは、9歳年上のリヒャルト伯爵から
情熱的な求婚を受け、幸せの絶頂にいた。
しかし、親族顔合わせの席で運命が狂い出す。
彼の視線の先にいたのは、エリカの伯母であり、
彼の学生時代の恋人で「初めての女性」だった……ミレイユ。
「あの子は私の身代わりでしょう」「私はあなただけなの」
伯母ミレイユの甘い誘惑と、裏切りの密会。
衝撃の事実を目撃したエリカは、階段から転落し、
彼と過ごした愛しくも残酷な二年間の記憶だけを失ってしまう。
「……あの、どちら様でしょうか?」
無垢な瞳で問いかけるエリカに、絶望し泣き崩れるリヒャルト。
裏切った男と、略奪を企てた伯母。
二人に待ち受けるのは、甘い報復と取り返しのつかない後悔だった。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
【本編完結】笑顔で離縁してください 〜貴方に恋をしてました〜
桜夜
恋愛
「旦那様、私と離縁してください!」
私は今までに見せたことがないような笑顔で旦那様に離縁を申し出た……。
私はアルメニア王国の第三王女でした。私には二人のお姉様がいます。一番目のエリーお姉様は頭脳明晰でお優しく、何をするにも完璧なお姉様でした。二番目のウルルお姉様はとても美しく皆の憧れの的で、ご結婚をされた今では社交界の女性達をまとめております。では三番目の私は……。
王族では国が豊かになると噂される瞳の色を持った平凡な女でした…
そんな私の旦那様は騎士団長をしており女性からも人気のある公爵家の三男の方でした……。
平凡な私が彼の方の隣にいてもいいのでしょうか?
なので離縁させていただけませんか?
旦那様も離縁した方が嬉しいですよね?だって……。
*小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
陛下を捨てた理由
甘糖むい
恋愛
美しく才能あふれる侯爵令嬢ジェニエルは、幼い頃から王子セオドールの婚約者として約束され、完璧な王妃教育を受けてきた。20歳で結婚した二人だったが、3年経っても子供に恵まれず、彼女には「問題がある」という噂が広がりはじめる始末。
そんな中、セオドールが「オリヴィア」という女性を王宮に連れてきたことで、夫婦の関係は一変し始める。
※改定、追加や修正を予告なくする場合がございます。ご了承ください。
私のことを愛していなかった貴方へ
矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。
でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。
でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。
だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。
夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。
*設定はゆるいです。
【完結】大好きな貴方、婚約を解消しましょう
凛蓮月
恋愛
大好きな貴方、婚約を解消しましょう。
私は、恋に夢中で何も見えていなかった。
だから、貴方に手を振り払われるまで、嫌われていることさえ気付か
なかったの。
※この作品は「小説家になろう」内の「名も無き恋の物語【短編集】」「君と甘い一日を」より抜粋したものです。
2022/9/5
隣国の王太子の話【王太子は、婚約者の愛を得られるか】完結しました。
お見かけの際はよろしくお願いしますm(_ _ )m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる