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12 ジョエル
しおりを挟むマリーはジョエルからの手紙を預かって返ってきた。
すぐにでも。という返事に、予想外に早く会えることに喜ぶ。ルーラは急いで着替えを済ませると、マリーと共にニーデルベア伯爵の屋敷へ向かった。
案内された応接室にはすでにジョエルが待っていた。
「ハードヴァード公爵令嬢、お待ちしておりました」
「ジョエル様、どうかルーラと」
「では、ルーラ様。どうぞこちらへ」
高級なソファを示され、ルーラは大人しく座る。マリーには部屋の外で待機してもらっていた。それを見たジョエルが、自らの侍女を下がらせる。
「ありがとうございます」
意図を汲んでくれたことに礼を言えば、意外にも厳しい目線が帰ってきた。
「ルーラ様。失礼ですが、あなたは殿下の婚約者だ。あまり軽々しく他の男を訪ねるのはいかがなものかと思いますよ」
以前は随分と気さくな印象を受けたが、今のジョエルは伯爵家の息子たる威厳を備えているようにみえた。数ヶ月で何かが変わったと言うことではないのだろう。本心から心配してくれている。そうルーラは感じ取った。
「申し訳ありません。ですが、とても大事なお話があって……それに、わたくしは殿下の婚約者と言うわけではありませんし」
「婚約者候補なんていっても、予約済みの身じゃないですか」
肩をすくめてジョエルが言う。
「予約済みだなんて……」
「実際そうでしょう? 他の男からしたら、あなたは高嶺の花ですよ。俺も含めてね」
「ご冗談を」
「冗談じゃなくて本気なら、話を聞いてくれるんです?」
思わぬ言葉にルーラは驚いた。そして目を瞬く。ジョエルがそのようなことを言うとは思わなかったのだ。しかし考えてみれば、ルーラとジョエルの婚約の話を公爵からルーラが聞かされたのと同じように、ジョエルも聞かされているのかもしれない。
そう考えると、確かに自分の行動は軽率だった。密会したようなものだ。事実そうなのだが、周囲からみればあまり良いものとはいえないだろう。少なくとも、グレンの婚約者候補筆頭という立場を表向きは失っていない身としては。
沈黙してしまったルーラに、ジョエルは小さく吹き出した。
「冗談ですよ。冗談。ただね、そう言うことがあるっていう話……あなたも聞いているでしょう?」
核心を突く言葉に、ルーラは慎重に頷く。
「まぁ、俺としては、親友の恋人を奪うのは気が引けるんですけどね。グレンが望むなら別だけど」
「恋人……あ、その、やはりお二人は親しいのですね」
「そうですねぇ。幼少期からの付き合いなので、そこはあなたとグレンが親しいのと同じですよ。こちらはもちろん友情ですけどね」
茶目っ気たっぷりに片目を瞑る姿に、思わずルーラは笑った。
初めて会った時もこんなふうだったとルーラは思い出す。気さくで、快活で、言葉遊びが得意で、とても優しい人なのだ。
物静かなグレンとウマが合うというからどんな人かと思えば、グレンを言いまかすような口の達者な姿も見た。それでもグレンが楽しそうにしていたから、とても仲がいいこともうかがい知れたのだ。
「さて」
ジョエルの声音が変わる。
「本題にはいりましょうか。ルーラ様」
「ええ」
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