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13 相談
しおりを挟むルーラはごくりと唾を飲み込んだ。
「ジョエル様は以前、カルサンドラ王国に留学されていましたよね」
「え? ええ。そうですね。二年前ですけれど」
予想外の話題だったのか、ジョエルが目を丸くする。
「どうして、カルサンドラだったのですか? 特別交流があったわけでもないのに……」
「それが、お話ですか?」
「確認させていただきたいだけです」
ジョエルは困惑した様子で考え込んだ。
話してはいけないような内容ではないが、手札を出していいのか迷っていたのだ。決して敵対しているわけではないが、ルーラが何を求めているかによっては、失言することにもなってしまう。本題から入らないルーラに焦れつつ、ジョエルは答える。
「我がニーデルベア家が、商会を持っていることはご存じですか?」
「ええ、ニーデル商会。とても大きな商会で、西諸国のあちこちに支店があると」
「カルサンドラにも支店があることは?」
「カルサンドラに?」
それは初耳だった。東に進出していたとは……。
「ほんの一年前ですがね。俺が留学したのは、支店を開くカルサンドラという国を知るため、そして東の情勢を把握するため。あとはまぁ、ただの親子喧嘩です」
「お、親子喧嘩……」
「反発したいお年頃だったんですよ」
なるほど。とルーラは頷く。そういう理由なら留学はあり得る話だ。その親子喧嘩で家を飛び出したのか、伯爵が息子を旅に出させたというような形なのかはわからないが、調査を兼ねていたのだろう。
「結果的に、カルサンドラはまぁ、王家や貴族の恨みを買わなければある程度商売の自由があるとわかったんです」
「王家の恨み……」
「執念深い人、らしいですよ。王様」
楽師が言う通りということか。相手がどういう人柄か詳しくわからないが、こうまで言われるのだから、少なくとも表向きはそのように振る舞うだろう。
恋焦がれる相手が、自分の求婚を無視して別の国の王子と結婚したなどと知ったら、どんな圧力をかけてくるか……。
「それで? まさかカルサンドラに留学しようって言うんです?」
「え?」
怪訝そうにジョエルが言う。ルーラは慌てて首を振った。そんなつもりは毛頭ないのだから。
「じゃあ、話と言うのは?」
そしてようやく本題に入れると前のめりになる。これは内密の話だと意識するほどに、ルーラの声は小さくなった。
「実は……これは旅の方に聞いた話で、まだ、確証はない話なので、お話しすること自体が良いことかわからないのですが……」
「俺に何かしてほしいことがある?」
「ええ」
聡いジョエルも、また前のめりになる。2人して小声で話をする姿勢だ。
「どうぞ、話してみてください。口は堅いです」
「はい……今朝、聞いたのです。エルマルのレティシア王女に、カルサンドラの国王陛下が熱心に求婚しているという噂を」
一瞬、困惑した顔を見せたジョエルだったが、次の瞬間には顔を青褪めさせた。ルーラにも、ジョエルにも、嫌な汗が流れる。
「そ、それが事実だとしたら、それをエルマルが知らないわけがない。だとしたら……」
それを知っていながら、あえてそれに決着をつけないままアスバストとの国交を結ぼうとしたのならば、それは国際問題に発展しかねない情報だった。
ジョエルは顔色を悪くしたまま、ルーラを見つめる。
「カルサンドラの国王陛下がどのような行動に出るかわかりませんわ。お怒りを買ってエルマルがもし攻撃されたら? 国交を結んだ我が国に助けを求めるかもしれません。そうなった時、レティシア様が王妃になられていたなら、陛下はおそらく出兵しないわけにはいかないでしょう」
「けれど、そうなったとしても西諸国は動かない。最悪見捨てられる」
「ええ。それに、最悪カルサンドラが我が国を直接狙う可能性もあります」
もしそうなれば最悪の事態である。
ジョエルは唇を噛んで、険しい表情を浮かべた。
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