24 / 450
光の入らない部屋と笑わない少女
開始
しおりを挟む
岩田さんが答える。
「夫は隠れて私に暴力を振るう人で、リナには一切手をあげませんでした。確かに突然父親を無くしたショックはあるかもしれませんが、失声症になるほどではないと思うんです」
「病院へは」
「行きました。やはり何かのストレスだろうと言われましたが、その、この子ものすごい病院嫌いなんです。病院は暴れて叫ぶから中々カウンセリング連れていけなくて。病院はとにかく時間をかけて見ていきましょうと言われました」
九条さんは腕を組んで考え込む。岩田さんは思い出したように言った。
「他にもリナは怖いものがあって。一つは光です」
「光?」
「太陽の光が苦手なんです。だからあんな事になってて……」
3人で閉ざされた窓を見つめる。なるほど、それであの段ボールなのか。それにしても徹底ぶりが凄いが。
「あと外出も……。本人は行きたがることもありますが、外に出ると奇声を上げて暴れるので、決して外には出せません。ここ最近は買い物もすべてネットの宅配で、私も家から出れていません」
「え……じゃあずっと二人きりで篭ってるんですか?」
目を丸くして聞く。岩田さんはこくんと頷いた。
唖然としてその項垂れた頭を見つめる。九条さんは続ける。
「お仕事は?」
「ええと、少し前母が亡くなりまして、その遺産が結構ありまして。ですから依頼料は大丈夫です、リナをよろしくお願いします!きっと何かよくないものがいるせいであの子はこうなってるんです……元のリナに戻してください!」
岩田さんはテーブルに額がつきそうなほどに深く頭を下げる。背後のアニメの音声がアンバランスだった。
隣の九条さんを見上げれば、未だ何かを考えているように腕を組んでじっと岩田さんを見ていた。
そして少し経った後、頷いて彼は言う。
「とりあえず調査させて頂きます。娘さんの原因が怪奇によるものかどうかまだ確定ではありませんが、夜うなされる体験も気になりますし」
「あ、ありがとうございます……!」
「とりあえず夜間の様子をカメラ撮影させて頂きたいのですが。可能であれば一室お借りし、私達は夜通しその部屋からあなた方を見守りたいです。ですが無理ならば夜は一旦退きます」
「いいえいいえ、大丈夫です。部屋もありますから使ってやってください!ああ、ありがとうございます……!」
まるで神でも見るかのように、岩田さんは私たちに拝んだ。その様子を見て不憫に思う。
きっとこの人いっぱいいっぱいなんだろうな。娘が理解できない状況になって、夫から逃げて、きっと悩んだんだろうなぁ……。
決まりだとばかりに岩田さんは立ち上がった。
「リナの部屋を使ってください。いまは物置状態なんです。他もお好きに使って下さっていいですから」
その言葉を合図に私たちは立ち上がる。リナちゃんは未だにテレビを無言で見ていた。
リビングをでてすぐ右手に見えた扉が開かれる。子供部屋として用意してある部屋だと一目で分かった。そこには子供用のおもちゃなどが多くあったからだ。
広さは8畳ほどだろうか。ブロックやままごとのセット、人形やその家たち。女の子ならではのおもちゃに懐かしさを感じるが、どうもそれらはあまり遊ばれていないようだった。ほとんどが新品同様であったからだ。
その部屋も勿論窓には段ボールがはめ込まれ、ガムテープが張り巡らされていた。
他にはシングルのベッドが一つ、置いてある。
「向かいにある部屋が寝室で、私とリナはそこで寝ています。勝手に入って貰って構いません」
「分かりました。一度車から機材を運び込んできます」
「はい、私はリビングにいますので……」
岩田さんは再び頭を下げると、すぐにまたリビングへと戻った。一人にさせているリナちゃんが心配なんだろうなと思った。
ふうと息をついて辺りを見回す。とりあえず、乱雑に置いてあるおもちゃたちを端に寄せた。
「どう思いますか、今の話」
九条さんが突然言った。振り返ると、彼はポケットに手を入れて段ボールがはめ込まれた窓を眺めていた。
「ええと、この部屋とかリナちゃんに変なものは全然感じませんね」
「同感です」
「リナちゃんの失声症の原因はよく分かりませんね……霊が関係しているのか、ほかのストレスが何かあったのか」
「どうもしっくりこない話ですね。話が違和感だらけなので当然と言えば当然ですが……。
光を嫌がったり医者や外を嫌がったり。彼女はとにかく外に対して拒否が強い」
「そうですね、何ででしょう……」
「それに……」
九条さんは言いかけて止まる。ボンヤリと考え事をしばらくした後、少し眉を下げて頭を掻いた。
「まあ、とりあえず泊まり込みの許可も得たので撮影しましょう。毎晩だと言っていましたから、今日も起こるといいですね」
「あ、じゃあ機材を……」
「機材は私が運び入れる事にします。黒島さんには違う仕事を」
「え?違う仕事?」
首を傾げて尋ねると、九条さんは私が持ってきた紙袋を指さした。
「娘である岩田リナに、一応話を聞いてみてください」
「夫は隠れて私に暴力を振るう人で、リナには一切手をあげませんでした。確かに突然父親を無くしたショックはあるかもしれませんが、失声症になるほどではないと思うんです」
「病院へは」
「行きました。やはり何かのストレスだろうと言われましたが、その、この子ものすごい病院嫌いなんです。病院は暴れて叫ぶから中々カウンセリング連れていけなくて。病院はとにかく時間をかけて見ていきましょうと言われました」
九条さんは腕を組んで考え込む。岩田さんは思い出したように言った。
「他にもリナは怖いものがあって。一つは光です」
「光?」
「太陽の光が苦手なんです。だからあんな事になってて……」
3人で閉ざされた窓を見つめる。なるほど、それであの段ボールなのか。それにしても徹底ぶりが凄いが。
「あと外出も……。本人は行きたがることもありますが、外に出ると奇声を上げて暴れるので、決して外には出せません。ここ最近は買い物もすべてネットの宅配で、私も家から出れていません」
「え……じゃあずっと二人きりで篭ってるんですか?」
目を丸くして聞く。岩田さんはこくんと頷いた。
唖然としてその項垂れた頭を見つめる。九条さんは続ける。
「お仕事は?」
「ええと、少し前母が亡くなりまして、その遺産が結構ありまして。ですから依頼料は大丈夫です、リナをよろしくお願いします!きっと何かよくないものがいるせいであの子はこうなってるんです……元のリナに戻してください!」
岩田さんはテーブルに額がつきそうなほどに深く頭を下げる。背後のアニメの音声がアンバランスだった。
隣の九条さんを見上げれば、未だ何かを考えているように腕を組んでじっと岩田さんを見ていた。
そして少し経った後、頷いて彼は言う。
「とりあえず調査させて頂きます。娘さんの原因が怪奇によるものかどうかまだ確定ではありませんが、夜うなされる体験も気になりますし」
「あ、ありがとうございます……!」
「とりあえず夜間の様子をカメラ撮影させて頂きたいのですが。可能であれば一室お借りし、私達は夜通しその部屋からあなた方を見守りたいです。ですが無理ならば夜は一旦退きます」
「いいえいいえ、大丈夫です。部屋もありますから使ってやってください!ああ、ありがとうございます……!」
まるで神でも見るかのように、岩田さんは私たちに拝んだ。その様子を見て不憫に思う。
きっとこの人いっぱいいっぱいなんだろうな。娘が理解できない状況になって、夫から逃げて、きっと悩んだんだろうなぁ……。
決まりだとばかりに岩田さんは立ち上がった。
「リナの部屋を使ってください。いまは物置状態なんです。他もお好きに使って下さっていいですから」
その言葉を合図に私たちは立ち上がる。リナちゃんは未だにテレビを無言で見ていた。
リビングをでてすぐ右手に見えた扉が開かれる。子供部屋として用意してある部屋だと一目で分かった。そこには子供用のおもちゃなどが多くあったからだ。
広さは8畳ほどだろうか。ブロックやままごとのセット、人形やその家たち。女の子ならではのおもちゃに懐かしさを感じるが、どうもそれらはあまり遊ばれていないようだった。ほとんどが新品同様であったからだ。
その部屋も勿論窓には段ボールがはめ込まれ、ガムテープが張り巡らされていた。
他にはシングルのベッドが一つ、置いてある。
「向かいにある部屋が寝室で、私とリナはそこで寝ています。勝手に入って貰って構いません」
「分かりました。一度車から機材を運び込んできます」
「はい、私はリビングにいますので……」
岩田さんは再び頭を下げると、すぐにまたリビングへと戻った。一人にさせているリナちゃんが心配なんだろうなと思った。
ふうと息をついて辺りを見回す。とりあえず、乱雑に置いてあるおもちゃたちを端に寄せた。
「どう思いますか、今の話」
九条さんが突然言った。振り返ると、彼はポケットに手を入れて段ボールがはめ込まれた窓を眺めていた。
「ええと、この部屋とかリナちゃんに変なものは全然感じませんね」
「同感です」
「リナちゃんの失声症の原因はよく分かりませんね……霊が関係しているのか、ほかのストレスが何かあったのか」
「どうもしっくりこない話ですね。話が違和感だらけなので当然と言えば当然ですが……。
光を嫌がったり医者や外を嫌がったり。彼女はとにかく外に対して拒否が強い」
「そうですね、何ででしょう……」
「それに……」
九条さんは言いかけて止まる。ボンヤリと考え事をしばらくした後、少し眉を下げて頭を掻いた。
「まあ、とりあえず泊まり込みの許可も得たので撮影しましょう。毎晩だと言っていましたから、今日も起こるといいですね」
「あ、じゃあ機材を……」
「機材は私が運び入れる事にします。黒島さんには違う仕事を」
「え?違う仕事?」
首を傾げて尋ねると、九条さんは私が持ってきた紙袋を指さした。
「娘である岩田リナに、一応話を聞いてみてください」
24
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。