視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

文字の大きさ
25 / 450
光の入らない部屋と笑わない少女

ノーリアクション

しおりを挟む


 リビングに入ってみると、ソファで並んでテレビを見るリナちゃんと岩田さんがいた。

 こちらに気づいた岩田さんが私を見る。

「あの、少しリナちゃんと話してみても?」

 私が聞くと、彼女は少し戸惑ったように視線を泳がせたが小さく頷く。

 立ち上がりキッチンへ移動した岩田さんに頭を下げて、私は恐る恐るリナちゃんへ近寄った。

 彼女は私をまるで気にするそぶりもなく、ただテレビを見つめている。

「こんにちはリナちゃん、黒島光と言います。隣、座ってもいいかな?」

 私の問いかけに何も答えない。こちらを見ることもしなかった。

 少し悩んだが、私は彼女の隣に腰掛けた。赤いソファがわずかに揺れる。

 テレビを眺めた。番組名は知っているが、出てくるキャラクター名などは分からない。その程度の知識、これは話のきっかけには不十分だ。

「えっと、文字とか書ける?」

 私は持ち込んだメモ帳とペンを取りだして笑いかけてみる。しかし、リナちゃんは何も答えない。

 ううん、手強い。想像してたよりずっと。

 諦めてペンを仕舞うと、持っていた紙袋を差し出した。

「甘いものは好きかなぁ?お土産持ってきてみたんだけど」

 チラリと目線で、母親である岩田さんを見た。彼女は頷いたので、親の許可は降りた。

 あまり期待せずに話しかけてみたのだが、ぴくっ、と彼女が反応したのがわかった。そして恐る恐るこちらを見たのだ。

 おお、手土産バンザイ!

 私はリナちゃんが手を出すまで待つ。少しして、小さな手が紙袋を受け取った。それだけで、心の中の私はガッツポーズだ。

 リナちゃんは膝の上で紙袋を逆さにし、中から色々な種類のお菓子がこぼれ落ちた。あらゆる洋菓子が散らばる。

「お口に合うといいんだけどなあ」

 リナちゃんは膝の上に置かれたお菓子を一つ手に取り、じっと眺める。そして少しして、そっとそれを私の膝の上においたのだ。

「……?」
 
 私にくれると言うことだろうか。ポカンとしていると、リナちゃんはまたさらにお菓子を見ながら考え込み、いくつか私の膝の上に置いた。背後から岩田さんの声が響いた。

「ごめんなさい、この子好き嫌いが凄いんです。お菓子でもなんかこだわりがあるみたいで」

「ああ……なるほど。このくらいの年ではよくありますよね」

 岩田さんが言うように、気に入らないものだけ私の膝の上に戻しているようだった。それでも大体のお菓子はお気に召したのか、彼女の膝の上には沢山の焼き菓子が積み上がった。

 そのうちの一つを手に持ちビニールを開け、パクリと口にする。

「どう、かな?」

 私が尋ねると、リナちゃんは小さく頷いた。ほっとする。とりあえず返事をしてもらえたと言うだけで大きな進歩だと思える。

 モグモグとフィナンシェを食べるリナちゃんを見守り、戻されたお菓子は紙袋へ入れた。

「あのね。さっき私と一緒にいた人は、九条さんって言うの。ちょっと怖く見えるかもだけど、優しい人だから大丈夫だよ」

 リナちゃんはただ食べている。

「私と九条さんは、夜変なものにうなされるお母さんを助けたくて来たんだ。リナちゃんはさ、夜中苦しいって思ったりして目が覚めること、ある?」
  
 私の質問に、リナちゃんは小さく首を振った。

「あ、ないの?誰かに見られてるなぁとか、むしろ何か不思議なものを見たなぁとかはある?」

 こくん。彼女は頷いた。

 なんと。やはりリナちゃんも何か異変を感じているらしい。

 私は前のめりになって尋ねた。

「え、それは……男の人?女の人?」

「……」

「怖い感じ?」

「……」

「夜に見るのかな?」

「……」

 まさか、もう手土産の効果はおしまい!? リナちゃんは首を振る事も頷く事もしなくなってしまった。

 ただモグモグとお菓子を食べ続けている。

 ううん。解決を早くする為にはリナちゃんに話を聞きたいけど、だからといって質問攻めもよくない。怯えさせてしまっては今後の調査にも影響するかもしれないし……。

 私は質問をやめて彼女に笑いかける。

「また今度、聞くね」

 やはり彼女は頷かなかった。テレビをボンヤリと眺めている。

 話せなくなった原因を本人に聞ければ簡単なのだが、そんな容易な話ではない。だったらうちに依頼なんて来ないしなぁ。

 改めてリナちゃんを見ても、なんら変なものがついてるようには見えない。時々肩に凄いものぶら下げてる人とかいるけど、そんな物は一切感じない。

 どうして話せなくなったんだろう。

「九条さんも黒島さんもお若いですよね」

 気がつけばそばに来ていた岩田さんが微笑んで言った。グラスに入ったお茶を目の前に置いてくれる。

「あ、ありがとうございます…」

「ここの人たちは、らしくないって口コミを見て頼んだんですけど。想像以上でした」

「私はまだ入ったばかりで現場も数をこなしていませんが……九条さんはかなりの数を解決してますから、大丈夫ですよ」

「へえ、そうなんですね」

 事務所にあるファイルの数々を思い出す。たった一人であれだけを解決してきたんだし、彼の腕は本物だ。

 出された麦茶を手に取って一口飲む。

「恋人なの?」

 岩田さんから発せられた言葉に麦茶が上手く喉を流れず、私はごふっとむせた。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。