視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

文字の大きさ
53 / 450
目覚めない少女たち

依頼

しおりを挟む


 その日の午後、まったりとしている私たちの元に訪れたのは、ピシッとしたスーツを身に纏った上品な男性だった。年は70前後というところだろうか。

 背筋はピンと伸び、白髪混じりの髪は綺麗にまとまっていた。知性を感じるその佇まいに、こちらの緊張度も上がるようだった。

 彼は黒いソファに腰掛け、伊藤さんが出した熱いお茶をゆっくり啜る。そして私たちをまっすぐ見つめて自己紹介をした。

「アポイントも取らず突然訪問して申し訳ありませんでした」

「いいえ、大丈夫です」

 正面に座った九条さんはいつのまにか仕事用の鋭い視線になっていた。私はその隣に腰掛けながら仕事の依頼ということで緊張感を持ちながら男性を見た。

 彼は非常にゆったりとした動きで、持っていた革の鞄から何やらパンフレットのようなものを取り出し私たちに差し出した。九条さんが受け取ったそれを覗き込んでみれば、学生姿の男女の写真が表紙にある。そして大きな文字で、『一ノ瀬高校』と書かれている。

「あ……私知っています。有名な進学校です」

 つい反応して言った。そう、この辺りでは有名な進学校だ。私は逆立ちしても入れないような偏差値の高校で、有名な学校なのだ。

「私も名前は存じ上げています」

 九条さんがいう。そういえば彼はどこの学校出身なんだろう、なんて関係ないことが脳裏をよぎった。

「私はそこの理事長をしております、三木田です」

「あ、そうなんですか!」

 私は納得の声を漏らす。なるほど、この気品や落ち着いた佇まい、あの有名な学校の理事長となれば納得がいく。どこかしら教育者っぽいオーラがある。どんなオーラだと聞かれればうまく説明はできない。

 微笑んだ三木田さんは、軽く頭を下げた。この人はきっと優しい教育者なんだろうと想像する。

「それで、今回はどのような依頼で」

「校内で起こっていることでして、立て続けに不思議なことが続いております」

「学校内ですか」

 九条さんはパンフレットを見ながら呟いた。

 怪奇、怪談、といえばおのずと思い浮かべるのは学校だ。それでも、私はここにきて学校からの依頼を受けたことはなかった。病院はあったけれど、他は個人的なお家とかに呼ばれることばかりだったのだ。

 学校での怪奇だなんて。また雰囲気でるなあ。

 三木田さんが困ったように眉をひそめる。

「先程もおっしゃっていただきましたが、我が校は進学校でして、学力の高い生徒が大勢います。ですが今回の件でみな恐怖心が出ておりパニック状態になる可能性も」

「ということはそれなりに知れ渡っているんですね。詳しく聞かせてください」

 九条さんはパンフレットを軽く机の上に放ると、真剣な眼差しで三木田さんを見る。

 彼はゆっくり頷いて話し出した。

「まず一つ目ですが……女生徒達が夜眠った後、目覚めない者が相次いでいます」

 九条さんの目がさらに鋭く光った。

「目覚めない?」

「全ての異変は、ここ二週間ほど前から突然始まりました。一人の女生徒が朝何をしても目を覚さず、ご両親が慌てて病院へ連れて行ったのです。そこで脳波など様々な検査を施すも原因が分からず、その生徒は未だに眠ったままなのです」

「え、二週間ずっと寝たきりということですか?」

 驚いて声を上げると、三木田さんは苦い顔をして頷き額の汗をハンカチで抑えた。

「ええ、一度も目覚めることなく……」

 私と九条さんは顔を見合わせる。彼はその端正な顔を歪めることなく話す。

「一般的にも過眠症と呼ばれる過度に睡眠をとる疾患はありますが、あれは全く目覚めないというわけではありません。二週間ずっととなれば他に原因が考えられる。
 相次いでる、ということは、他にもそういった少女達が?」

「ええ、はじめに眠ってしまった女生徒に続くように、この二週間で計四人の生徒達が同じように眠り始めています」
 
 これはまた新しいパターンだ、と思った。未だかつてこんな形の怪異には出会ったことない。

 三木田さんは続けた。

「四人全員が大きな病院で精査中です。同じ現象が相次いでるので何か感染症を疑ってはいたんですが、四人はクラスも部活もバラバラで何も接点がない四人なんです。
 まだ世間に情報が流れていませんが、時間の問題だと思います」

「そうなればかなり大きな騒ぎになることは間違い無いですね。
 他にも何か気になることでも?」

「まるで別ですが、同じ時期に学校内で幽霊を見るという生徒が続出してまして。目覚めない少女たちのことは噂が出回ってみな知っている状況なので、集団ヒステリーかと思っていました。三日間休校を挟んでみましたが、結局事態は収まっていません。
 あらゆるところで、首吊りの霊を見ると話題なのです」

「首吊り、ですか……」

「生徒たちの心のケアをと思い寺にお祓いを頼んだりスクールカウンセラーをおいたり努めましたがまるで効果がみられない。そしてついには教師までも、首吊り死体をみたというものが現れまして。
 そしてこういった場所に調査を依頼しにきたのです。正直申しますと、あまり心霊現象やそれに関するお仕事の方を信じてはいませんでした。でももう藁をも掴む思いで……」

 三木田さんは苦しそうに言い俯いた。

 普段霊をみる機会がない者が、信じられない現象と出会ってしまった時、パニックに陥るのは致し方のないことだ。それを無視するか改善するかでも道は分かれるが、この人はなんとか解決しようと試みたらしい。

 目覚めない少女達に相次ぐ首吊りの姿。これでは勉強どころではない。

 九条さんはしばらく考えるように沈黙を流した後、三木田さんに質問を重ねた。

「ここ最近、学校関係者に首吊りをした者は」

「いいえ、一人もおりません」

「首吊りの霊の目撃証言はどういった場所が多いですか」

「全てを把握してはおりませんが、様々な場所です。それこそトイレだの体育館だの」

「首吊りの霊の目撃証言に共通点は」

「吊っているのは女生徒らしいです。そこだけはみんな共通して話しているようです」

「ふむ……」

 彼は再び考え込むように黙った。三木田さんはじっと静かに九条さんの動向を伺っている。

 しばらくして、九条さんは決意したように頷いてまっすぐ前を見た。

「分かりました。早急に取り掛かります」

「はあ……そうですか! ありがたい」

「どんな部屋でもいいので我々専用の部屋を一つ用意していただけますか。恐らくですが泊まり込みになる可能性が高いので周りの人たちへの説明もお願いします。
 それと目覚めない少女達の名前や簡単なプロフィールを教えてください。
 可能であれば、首吊りを目撃した人たちから直接話を伺えればありがたいです」

 次から次へと出てくる要望に、三木田さんは丁寧に一つずつ頷いて反応した。

「了承しました。手配します」

「パニックを抑えるためにもなるべく早く取り掛かります。準備が出来次第伺います」

 三木田さんはほっと安心したように少し微笑んだ。そして立ち上がり、深々と私たちに頭を下げた。

「どうぞ、解決へ導いてくださいませ。よろしくお願いいたします」

 紳士な彼はそれだけいうと、颯爽と事務所から出て行った。僅かに香る上品なコロンの残り香が室内に漂う。

 ずっと離れたところで無言で話を聞いていた伊藤さんが勢いよく椅子ごとくるりとこちらを向いた。やや困り顔だ。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。