視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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聞こえない声

顔がない

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 振り返ってみるが何もない。一度スマホを手に取って画面をつけてみた。別になんの変哲もない待受画面が見える。光の加減とかかな。

 私は特に気にせずロック画面にした。明るく光っていた液晶画面がまた真っ暗になる。そこには何も映ってなかったので、ほっとして机に置いた。

 再度パソコンに向き直り背筋を伸ばす。作業の続きを……

「……あれ?」

 マウスを握った時にふと気がつく。ゆっくりと視線をずらし、ひっそりと置かれているスマホを眺めた。

 さっきロックした時、暗くなった液晶に何も映らなかった。

 映らなかった?

 私の、 

 顔は??

 はっとして両手で自分の顔を触る。ちゃんと指先に自分の顔の形を感じ取れてほっと安心した。顔、ある。大丈夫、顔あるから。

 さっきのは多分気のせいだ、見間違い。きっとそう。

 私はそう思いながらもそうっとスマホをひっくり返した。もう画面を見たくない、と思ったのだ。きっと緊張と疲れで自分自身過敏になってる。ここ最近調べ物ばかりだったしね。目も疲労があるはず。

 必死にそう言い聞かせて一人頷く。ほら、調べ物の続きを。集中すれば変なことを考えなくて済む。

 目の前のパソコン画面を見つめた瞬間だった。それまで明るく光っていた画面は突然ぶつりと音を立てて電源が落ちた。同時に真っ暗になったそこに、私が映り込む。

 お気に入りのシャツの襟が見えた。間違いなく私が先日購入したばかりのシャツだ。そこからすっと伸びる首。だがそれは途中で痛々しく切断されていた。私の顔は何一つそこに映らなかったのである。

 悲鳴を上げながら椅子ごと後ろに倒れ込み、ひっくり返って天井が目に入った。その勢いで後頭部を思いきり打ちつけて痛みが走るも、私はそれに対して安心した。叫べたことも、頭部に痛みがあるのも、私の頭が存在しているおかげだ。

 ガタンと大きな物音を立てながら倒れ、そのまま呆然と白い天井を見つめた。震える手で顔を触ってみると、確かに私の顔は存在している。

 何度も何度も顔を触る。鼻、口、目、髪も……ちゃんと存在してる。私の顔はしっかりある。

「なん、なの、あれ」

 起き上がる余力もなくただつぶやいた。目の錯覚、ではない、間違いなく私の首はなかった。

 その時突如、自分の右頬に冷たさを感じて反射的に目を瞑った。ポタリと水が垂らされたような感覚だった。すぐに目を開いてみると、また頬に何かが落ちる。それが頬を滑り落ち耳に垂れたとき、視界にあるものが飛び込んできた。

 私を覗き込むようにしている首なし女だった。体を傾け、首の切断部分がはっきりと見える。そこから血液が垂れ、私の顔に滴り落ちていたのだ。再度ぽたぽたと血液が私の顔に落下してくる。

「きゃあああ!」

 起きあがろうとしても力が入らず、ずりずりと床を這いつくばってそこから離れる。出口に向かって必死に進む私の足首をひんやりした手が掴んだ。

「! は、なして!」

 振り返ると、首のない女がその手でしっかり私の足を握っていた。右手に指輪が光る。ゾッとして私は叫ぶ。

「やめて、助けて! 助けて!! 誰か!」

 床に腹這いになったまま出口の扉を見る。でも九条さんは今いない、伊藤さんだって。ここには私一人しかいないのだ。

 首なしは離すことなくしっかり私の足首を握っている。足を必死にばたつかせるもまるで意味をなさない。

 するとその時、突然目の前を白色が横切った。ふわふわした何かだった。かすかな足音を立てて歩くのは、ポメラニアンの大福だった。

 大福は私の前を行ったり来たりウロウロし、つぶらな瞳でこちらを見てくる。だがどこか大福からも緊張感が伝わってくる気がした。彼としっかり視線が合う。

「だ、大福!」

 藁にも掴むつもりで叫んだ時だった。少し離れたところから聞き覚えのある声が響いてきたのだ。

「黒島さん?」

 扉の向こうからしたのは菊池さんの声だった。あっと思った瞬間、ずっと握られていた足首が解放される。振り返ってみると、首なしはすっかり姿を消していた。大福も同じように忽然といなくなってしまっている。

「黒島さん、大丈夫ですか?」

 焦ったような菊池さんの声を背後に聞きながら、ただ言葉も出せず脱力した。どっと疲れが襲ってくる。

 やっぱり私についてきてるんじゃん首なし……知ってたけどさ、ここ数日見なかったから……。

「黒島さん!?」

「あ、はい! 今開けます!」

 ガチャガチャとドアノブを焦ったように回す菊池さんにようやく反応する。起き上がって少し身なりを整えると、ようやく扉に近づいて鍵を開けた。

 ドアが開くと心配そうにこちらを見ている菊池さんの顔が目に入る。私は力無い笑みを浮かべた。

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