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九条さんは尋ねる。
「菊池さんを尾行しているんですか?」
『いえ、まだ菊池さん仕事終わってないので会社なんですけどね。その会社の前にずっとウロウロしてる女がいるんです。多分間違いないと思います。背格好はそっくりですし、どう見ても誰かが出てくるのを隠れて待ってるんです。遠目ですけどちょっと撮らせてもらったので……送りますね、光ちゃん見てみて』
直後、スマホに伊藤さんから画像が届く。私は急いでそれを確認した。
マスクをしているショートカットの女性。小柄で細い体。確かにやや遠目でわかりにくいが、あの日見た女性に非常に似ていた。私はやや興奮しながら言う。
「似てます! この人だと思います!」
『やったね』
九条さんが頷いた。すごい、伊藤さん本当に突き止めちゃった。ずっと菊池さんの周りを探ってたんだもんなあ。感謝してもし切れない。
『どうしますか九条さん』
「私もすぐに行きます。女性相手とはいえ、凶器を持っているのならば伊藤さん一人で接触は避けたいので。菊池さんがきてしまっては女に動かれるので、彼に連絡して会社内に留まるか裏口などを使ってでてもらうようにしましょう」
『わかりました、僕から連絡しておきます』
「すぐに行きます」
電話が切れる。九条さんはそのまま立ち上がった。鋭い目で私を見る。
「光さんはここに」
「え、でも」
「相手に狙われやすいので。女の居場所が割れたとなればいくらか安心ですが、それでも一人で出歩かないように。ここに鍵をかけておいてください」
「わ、わかりました、気をつけてくださいね!」
九条さんは素早くそのまま事務所から出て行った。私は言われた通り戸がしまった後、すぐに鍵をかけておく。ふうと息を吐き、女と接触して二人はどうするつもりなんだろう、と考えた。九条さんのことだから何か考えがあるのかもしれないけど。
でもとにかく、犯人が分かったのは一安心だ。よかった。
「一人になっちゃった。とりあえず調べ物を続けようかな」
もうほとんど調べ尽くした感はあるが、もしかしたらまだ見落としてるものもあるかも。一人だけ働かないのもどうかと思うし、とりあえず調べ物しておこう。
誰もいなくなった事務所でパソコンに向き直る。しんとした静けさが流れた。ここに一人でいるなんて珍しいよなあ、いつもは絶対九条さんか伊藤さんがいるんだもん。ちょっと寂しい。
キーボードを打ちながら疲れた目を労るように瞬きを繰り返し画面を見つめる。九条さんが食べ残したポッキーを机の上に見つけてそれを食べた。マウスをクリックする音がやけに響いて聞こえる。
Y、Y……S、S……。
一人作業を続けながら、時計を眺める。もう夕方だ、外も陽が赤くなってきている。九条さんたち大丈夫かな、解決したら電話なりなんなりくると思うけど。伊藤さんも、無理して怪我とかしないように……
そう考えていた時、手元においたスマホが鳴り響いた。驚きで飛び跳ねながらすぐに手にした。てっきり伊藤さんか九条さんかと思い画面を覗き込んだが、そこにあった名前は菊池さんだった。
「あ、菊池さん……」
伊藤さんから彼に連絡をする、と言っていたので、女が会社の前にいることを知っているはずだ。私はそのまま電話に出た。
「もしもし?」
『あ、黒島さんですか?』
「はい、お疲れ様です」
『少し前に伊藤さんから連絡を頂いたんです。会社の前に犯人と思しき人がいるって。表には出ないようにいわれたので裏口から帰宅してるんですが……その後何か連絡はありましたか?』
「いいえ、まだきてないです。九条さんが着くまでまだ少し時間がかかるかなと思うので」
『そうですか……。黒島さんは今どこに?』
「事務所です。女は会社の前にいるみたいだけど、一応気をつけて鍵をかけて待機しています」
『あ、そうか……。あの、僕そちらに行っても?』
「え?」
『鍵かけてると言っても、黒島さんお一人にしておくのは心配でもあるので。元はといえば僕の軽率な行動が原因ですし。どうでしょうか?』
提案を受けて考える。確かに菊池さんは当事者なのだし、解決したのなら彼にも報告するだろうからここにいてもらったほうがいいかもしれない。私も一人でいるより誰かがそばにいてくれた方が心強いのもある。
女はまだ菊池さんの会社の前にいるはずだし、彼を招いていも問題ないだろう。
「わかりました、大丈夫です」
『ではすぐに向かいます! 待っててください!』
どこか嬉しそうに声を弾ませた彼は電話を切る。なんか、可愛らしい人だなあ。つい微笑む。
スマホを机の上に置き、ふうと息をつく。
今頃九条さんたちはどうしてるだろう。まだ到着してないよね。
ソワソワしながら私はスマホを見つめた。どうか、二人とも無事で事件が解決しますように。ストーカー女のことが無事片付けば、伊藤さんも手が空くからY.Sについて調べられるかも。まあ、もうこれ以上調べようがない気もするが……。
とりあえず菊池さんが来るまでは調べ物をしていよう。何もしないのも落ち着かないし。私は再びパソコンに向き直る。文字が羅列した記事に目を通し被害者の名前を必死に追っていく。
マウスのすぐ隣にはスマホがおいてある。九条さんから連絡が来たらすぐに取れるようにだ。彼らのことが気になる私は真っ暗になっている画面を意味もなく見てしまう。心配そうな顔をした間抜けな自分の顔が黒の中にぼんやりと映り込む。
「ううん、集中しなきゃ」
そう自分に言い聞かせるがあまり意味はない。少し作業を進めたところでスマホを覗き込んでしまう。電話がかかって来れば鳴るんだから、覗いても無意味だというのに。
はあーあと大きく息を吐きながら再び無意識にスマホを覗き込んだ。その時、一瞬だが自分の顔以外のものが通った気がして止まる。
……?
「菊池さんを尾行しているんですか?」
『いえ、まだ菊池さん仕事終わってないので会社なんですけどね。その会社の前にずっとウロウロしてる女がいるんです。多分間違いないと思います。背格好はそっくりですし、どう見ても誰かが出てくるのを隠れて待ってるんです。遠目ですけどちょっと撮らせてもらったので……送りますね、光ちゃん見てみて』
直後、スマホに伊藤さんから画像が届く。私は急いでそれを確認した。
マスクをしているショートカットの女性。小柄で細い体。確かにやや遠目でわかりにくいが、あの日見た女性に非常に似ていた。私はやや興奮しながら言う。
「似てます! この人だと思います!」
『やったね』
九条さんが頷いた。すごい、伊藤さん本当に突き止めちゃった。ずっと菊池さんの周りを探ってたんだもんなあ。感謝してもし切れない。
『どうしますか九条さん』
「私もすぐに行きます。女性相手とはいえ、凶器を持っているのならば伊藤さん一人で接触は避けたいので。菊池さんがきてしまっては女に動かれるので、彼に連絡して会社内に留まるか裏口などを使ってでてもらうようにしましょう」
『わかりました、僕から連絡しておきます』
「すぐに行きます」
電話が切れる。九条さんはそのまま立ち上がった。鋭い目で私を見る。
「光さんはここに」
「え、でも」
「相手に狙われやすいので。女の居場所が割れたとなればいくらか安心ですが、それでも一人で出歩かないように。ここに鍵をかけておいてください」
「わ、わかりました、気をつけてくださいね!」
九条さんは素早くそのまま事務所から出て行った。私は言われた通り戸がしまった後、すぐに鍵をかけておく。ふうと息を吐き、女と接触して二人はどうするつもりなんだろう、と考えた。九条さんのことだから何か考えがあるのかもしれないけど。
でもとにかく、犯人が分かったのは一安心だ。よかった。
「一人になっちゃった。とりあえず調べ物を続けようかな」
もうほとんど調べ尽くした感はあるが、もしかしたらまだ見落としてるものもあるかも。一人だけ働かないのもどうかと思うし、とりあえず調べ物しておこう。
誰もいなくなった事務所でパソコンに向き直る。しんとした静けさが流れた。ここに一人でいるなんて珍しいよなあ、いつもは絶対九条さんか伊藤さんがいるんだもん。ちょっと寂しい。
キーボードを打ちながら疲れた目を労るように瞬きを繰り返し画面を見つめる。九条さんが食べ残したポッキーを机の上に見つけてそれを食べた。マウスをクリックする音がやけに響いて聞こえる。
Y、Y……S、S……。
一人作業を続けながら、時計を眺める。もう夕方だ、外も陽が赤くなってきている。九条さんたち大丈夫かな、解決したら電話なりなんなりくると思うけど。伊藤さんも、無理して怪我とかしないように……
そう考えていた時、手元においたスマホが鳴り響いた。驚きで飛び跳ねながらすぐに手にした。てっきり伊藤さんか九条さんかと思い画面を覗き込んだが、そこにあった名前は菊池さんだった。
「あ、菊池さん……」
伊藤さんから彼に連絡をする、と言っていたので、女が会社の前にいることを知っているはずだ。私はそのまま電話に出た。
「もしもし?」
『あ、黒島さんですか?』
「はい、お疲れ様です」
『少し前に伊藤さんから連絡を頂いたんです。会社の前に犯人と思しき人がいるって。表には出ないようにいわれたので裏口から帰宅してるんですが……その後何か連絡はありましたか?』
「いいえ、まだきてないです。九条さんが着くまでまだ少し時間がかかるかなと思うので」
『そうですか……。黒島さんは今どこに?』
「事務所です。女は会社の前にいるみたいだけど、一応気をつけて鍵をかけて待機しています」
『あ、そうか……。あの、僕そちらに行っても?』
「え?」
『鍵かけてると言っても、黒島さんお一人にしておくのは心配でもあるので。元はといえば僕の軽率な行動が原因ですし。どうでしょうか?』
提案を受けて考える。確かに菊池さんは当事者なのだし、解決したのなら彼にも報告するだろうからここにいてもらったほうがいいかもしれない。私も一人でいるより誰かがそばにいてくれた方が心強いのもある。
女はまだ菊池さんの会社の前にいるはずだし、彼を招いていも問題ないだろう。
「わかりました、大丈夫です」
『ではすぐに向かいます! 待っててください!』
どこか嬉しそうに声を弾ませた彼は電話を切る。なんか、可愛らしい人だなあ。つい微笑む。
スマホを机の上に置き、ふうと息をつく。
今頃九条さんたちはどうしてるだろう。まだ到着してないよね。
ソワソワしながら私はスマホを見つめた。どうか、二人とも無事で事件が解決しますように。ストーカー女のことが無事片付けば、伊藤さんも手が空くからY.Sについて調べられるかも。まあ、もうこれ以上調べようがない気もするが……。
とりあえず菊池さんが来るまでは調べ物をしていよう。何もしないのも落ち着かないし。私は再びパソコンに向き直る。文字が羅列した記事に目を通し被害者の名前を必死に追っていく。
マウスのすぐ隣にはスマホがおいてある。九条さんから連絡が来たらすぐに取れるようにだ。彼らのことが気になる私は真っ暗になっている画面を意味もなく見てしまう。心配そうな顔をした間抜けな自分の顔が黒の中にぼんやりと映り込む。
「ううん、集中しなきゃ」
そう自分に言い聞かせるがあまり意味はない。少し作業を進めたところでスマホを覗き込んでしまう。電話がかかって来れば鳴るんだから、覗いても無意味だというのに。
はあーあと大きく息を吐きながら再び無意識にスマホを覗き込んだ。その時、一瞬だが自分の顔以外のものが通った気がして止まる。
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