視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

文字の大きさ
206 / 450
聞こえない声

似ている

しおりを挟む
 九条さんは尋ねる。

「菊池さんを尾行しているんですか?」

『いえ、まだ菊池さん仕事終わってないので会社なんですけどね。その会社の前にずっとウロウロしてる女がいるんです。多分間違いないと思います。背格好はそっくりですし、どう見ても誰かが出てくるのを隠れて待ってるんです。遠目ですけどちょっと撮らせてもらったので……送りますね、光ちゃん見てみて』

 直後、スマホに伊藤さんから画像が届く。私は急いでそれを確認した。

 マスクをしているショートカットの女性。小柄で細い体。確かにやや遠目でわかりにくいが、あの日見た女性に非常に似ていた。私はやや興奮しながら言う。

「似てます! この人だと思います!」

『やったね』

 九条さんが頷いた。すごい、伊藤さん本当に突き止めちゃった。ずっと菊池さんの周りを探ってたんだもんなあ。感謝してもし切れない。

『どうしますか九条さん』

「私もすぐに行きます。女性相手とはいえ、凶器を持っているのならば伊藤さん一人で接触は避けたいので。菊池さんがきてしまっては女に動かれるので、彼に連絡して会社内に留まるか裏口などを使ってでてもらうようにしましょう」

『わかりました、僕から連絡しておきます』

「すぐに行きます」

 電話が切れる。九条さんはそのまま立ち上がった。鋭い目で私を見る。

「光さんはここに」

「え、でも」

「相手に狙われやすいので。女の居場所が割れたとなればいくらか安心ですが、それでも一人で出歩かないように。ここに鍵をかけておいてください」

「わ、わかりました、気をつけてくださいね!」

 九条さんは素早くそのまま事務所から出て行った。私は言われた通り戸がしまった後、すぐに鍵をかけておく。ふうと息を吐き、女と接触して二人はどうするつもりなんだろう、と考えた。九条さんのことだから何か考えがあるのかもしれないけど。

 でもとにかく、犯人が分かったのは一安心だ。よかった。

「一人になっちゃった。とりあえず調べ物を続けようかな」

 もうほとんど調べ尽くした感はあるが、もしかしたらまだ見落としてるものもあるかも。一人だけ働かないのもどうかと思うし、とりあえず調べ物しておこう。

 誰もいなくなった事務所でパソコンに向き直る。しんとした静けさが流れた。ここに一人でいるなんて珍しいよなあ、いつもは絶対九条さんか伊藤さんがいるんだもん。ちょっと寂しい。

 キーボードを打ちながら疲れた目を労るように瞬きを繰り返し画面を見つめる。九条さんが食べ残したポッキーを机の上に見つけてそれを食べた。マウスをクリックする音がやけに響いて聞こえる。

Y、Y……S、S……。

 一人作業を続けながら、時計を眺める。もう夕方だ、外も陽が赤くなってきている。九条さんたち大丈夫かな、解決したら電話なりなんなりくると思うけど。伊藤さんも、無理して怪我とかしないように……

 そう考えていた時、手元においたスマホが鳴り響いた。驚きで飛び跳ねながらすぐに手にした。てっきり伊藤さんか九条さんかと思い画面を覗き込んだが、そこにあった名前は菊池さんだった。

「あ、菊池さん……」

 伊藤さんから彼に連絡をする、と言っていたので、女が会社の前にいることを知っているはずだ。私はそのまま電話に出た。

「もしもし?」

『あ、黒島さんですか?』

「はい、お疲れ様です」

『少し前に伊藤さんから連絡を頂いたんです。会社の前に犯人と思しき人がいるって。表には出ないようにいわれたので裏口から帰宅してるんですが……その後何か連絡はありましたか?』

「いいえ、まだきてないです。九条さんが着くまでまだ少し時間がかかるかなと思うので」

『そうですか……。黒島さんは今どこに?』

「事務所です。女は会社の前にいるみたいだけど、一応気をつけて鍵をかけて待機しています」

『あ、そうか……。あの、僕そちらに行っても?』

「え?」

『鍵かけてると言っても、黒島さんお一人にしておくのは心配でもあるので。元はといえば僕の軽率な行動が原因ですし。どうでしょうか?』

 提案を受けて考える。確かに菊池さんは当事者なのだし、解決したのなら彼にも報告するだろうからここにいてもらったほうがいいかもしれない。私も一人でいるより誰かがそばにいてくれた方が心強いのもある。

 女はまだ菊池さんの会社の前にいるはずだし、彼を招いていも問題ないだろう。

「わかりました、大丈夫です」

『ではすぐに向かいます! 待っててください!』

 どこか嬉しそうに声を弾ませた彼は電話を切る。なんか、可愛らしい人だなあ。つい微笑む。

 スマホを机の上に置き、ふうと息をつく。

 今頃九条さんたちはどうしてるだろう。まだ到着してないよね。

 ソワソワしながら私はスマホを見つめた。どうか、二人とも無事で事件が解決しますように。ストーカー女のことが無事片付けば、伊藤さんも手が空くからY.Sについて調べられるかも。まあ、もうこれ以上調べようがない気もするが……。

 とりあえず菊池さんが来るまでは調べ物をしていよう。何もしないのも落ち着かないし。私は再びパソコンに向き直る。文字が羅列した記事に目を通し被害者の名前を必死に追っていく。

 マウスのすぐ隣にはスマホがおいてある。九条さんから連絡が来たらすぐに取れるようにだ。彼らのことが気になる私は真っ暗になっている画面を意味もなく見てしまう。心配そうな顔をした間抜けな自分の顔が黒の中にぼんやりと映り込む。

「ううん、集中しなきゃ」

 そう自分に言い聞かせるがあまり意味はない。少し作業を進めたところでスマホを覗き込んでしまう。電話がかかって来れば鳴るんだから、覗いても無意味だというのに。

 はあーあと大きく息を吐きながら再び無意識にスマホを覗き込んだ。その時、一瞬だが自分の顔以外のものが通った気がして止まる。

……?



しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お客様が不在の為お荷物を持ち帰りました。

鞠目
ホラー
「変な配達員さんがいるんです……」 運送会社・さくら配達に、奇妙な問い合わせが相次いだ。その配達員はインターフォンを三回、ノックを三回、そして「さくら配達です」と三回呼びかけるのだという。まるで嫌がらせのようなその行為を受けた人間に共通するのは、配達の指定時間に荷物を受け取れず、不在票を入れられていたという事実。実害はないが、どうにも気味が悪い……そんな中、時間指定をしておきながら、わざと不在にして配達員に荷物を持ち帰らせるというイタズラを繰り返す男のもとに、不気味な配達員が姿を現し――。 不可解な怪異によって日常が歪んでいく、生活浸食系ホラー小説!! アルファポリス 第8回ホラー・ミステリー小説大賞 大賞受賞作

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

みえる彼らと浄化係

橘しづき
ホラー
 井上遥は、勤めていた会社が倒産し、現在失職中。生まれつき幸運体質だったので、人生で初めて躓いている。  そんな遥の隣の部屋には男性が住んでいるようだが、ある日見かけた彼を、真っ黒なモヤが包んでいるのに気がついた。遥は幸運体質だけではなく、不思議なものを見る力もあったのだ。  驚き見て見ぬふりをしてしまった遥だが、後日、お隣さんが友人に抱えられ帰宅するのを発見し、ついに声をかけてしまう。 そこで「手を握って欲しい」とわけのわからないお願いをされて…?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。