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聞こえない声
首の在処
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「彼は少し前に亡くした、と言っていました。ですがそうなると、不可解なのはあの部屋です」
「お部屋ですか?」
「彼の部屋にペットを飼っていた名残が何一つない」
あ、と思う。確かに菊池さんの部屋には大福を連想させるものは何一つなかった。綺麗でおしゃれなワンルームだ。
「例えばリードだとか水入れだとか、写真だとかあってもいいとは思いませんか。まあ死んで心を痛めているならそういったものを見ると思い出して辛い、という理由から仕舞い込むかもしれませんが、ぱっと見クローゼットにもそれらしきものはなかった。
同時に、大福が菊池さんを首なし女から守るために現れていると我々は結論づけていましたが、それにしては大福は首なしに威嚇したことは一度もない」
「確かに……!」
思い出してみる。首なしと同時に現れる可愛らしいビジュアル。決して首なしに敵意を向けることはなかった。菊池さんを守りたいなら、少しくらいの威嚇はあってもいい。
九条さんは一つ頷く。
「そうなれば答えは簡単。
大福は菊池さんのそばにいるのではなく、首なし女のそばにいる」
「首なしの……。確かに、いつでも二人は一緒でしたね。さっき事務所で私が見た時も大福がいた。あ、私の部屋で出た時は」
「その時光さんは就寝中でベッドの上でしたよね。そして足元に首なしを見たと。視界に入らなかっただけで、ベッドの下に大福はいたのでは」
「あ、そうかも」
「その仮説が正しいとしたら最大の疑問が残る。『なぜ菊池さんは大福を自分の犬だと偽ったのか、そして大福の名前を知っていたのか』」
九条さんは菊池さんを睨みつける。伊藤さんはようやく菊池さんの髪から手を離していたが、もう暴れることはなかった。何も言わず顔を床に乗せている。その表情は見えない。
「まあ簡単ですよね。彼は始めから首なしの正体を知っていた。でも大福が首なしの犬だとバレればその身元が判明するヒントになるかもしれない。だから自分の犬だと偽ったのです。思惑通り我々の調査は困難を極めました。
彼は首なし女の体のありかを知っている」
私も考えていた答えだった。ごくりと唾を飲み込み喉が動く。
最悪のパターンだ。これまでの中でも一番の最悪パターン。
「恐らくトンネルの心霊スポットに行ったなど真っ赤な嘘。光さんも不思議がってましたがその情報を後出ししたのは、軽薄だと思われたくないなどではなく、後から付け加えたからです。とりあえず調査を混乱させるためでしょうね」
黙っていた伊藤さんが話し出す。ちなみに彼はまるで椅子の上にでもいますといった顔で未だ菊池さんの上に座っている。
「こういうことだね。原因に心当たりのある霊障をなんとかしたくてうちに来た。除霊かと思ったら浄霊と言われて一旦は引こうとした。だって霊の心残りなんてバレちゃったらやばいもんね。けどそこで運悪く次のターゲットを見つけちゃった。光ちゃんだね」
「私、ですか……」
「接点なくなっちゃうから致し方なく家に招いたんだろうね。随分危険な賭けに出たよねえ、首なし女と意思疎通できたら自分の悪行全部バレちゃうのにさ、そうまでして光ちゃんと接点欲しかったんだろうね。それとも本当に死者の意思を汲み取るなんてできっこないと思ってたのかな?
菊池さんにとっては幸運なことに女は喋れなかった。顔も見えないし話せないんじゃ調査は超難航。僕らを錯綜させて、自分は光ちゃんに近づきましたーってとこだね」
はあと伊藤さんのため息が漏れる。なるほど、ようやく物事の流れが理解できてきた。そういうことだったのか、菊池さんは答えをずっとわかっていたんだ。あの首なしが誰なのか、そしてどうして菊池さんの元に訪れるのか……。
寒気が全身を襲う。明確には誰も口に出していなかったけど。
つまり菊池さんは……。
「あ、あの。どうしてその真実がわかったんですか? それにここの居場所も」
まだ残る疑問をぶつけようとした時、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえ出した。私たちは同時に音に集中した。少しずつだがこちらに近づいてくる。
九条さんが再び菊池さんの方を見た。彼は顔をこちらに向けていた。おぞましい目で私と九条さんを見ている。落ち着いていた恐怖心が再び襲い、つい手先が震えた。
九条さんがいう。
「とりあえず説明はまた後にしましょう。この怪物を警察に引き渡さなくては」
冷たい声の九条さんは、心底軽蔑した目で菊池さんを見ていた。
そのまま到着したパトカーに、菊池さんは連行されていった。私は同時に到着した救急車で搬送された。主に手足にできた擦過傷や首を絞められた跡、それに気絶させれた時に殴られた後頭部の治療だった。
もちろん命には別状なく軽傷なのだが、色々検査をされ、経過観察のため入院。そして大変だったのはなんと言っても警察からの事情聴取だった。
実は以前も調査のために警察にお世話になったことはあるのだが、その時よりさらに大きな事件だったため特に細かく聞かれた。まあ、今回は被害者になってしまったので仕方ない。
病院はすぐに退院の運びとなった。当日には伊藤さんも九条さんも迎えにきてくれて嬉しかった。
そして後日。菊池さんからの証言で、隣の市のある場所の土の下から女性の遺体が発見された。そこには一緒に小さな犬の遺体もあったそうだ。
死後一ヶ月ほど。紺色のワンピースを纏った若い女性で、その体は首から上が存在しなかった。
首のありかも、彼は正直に話した。
それは白と茶色でデザインされたおしゃれでよくあるアパートのある一室。
綺麗に片付けられたよくある部屋の奥に広めのクローゼットがある。中は整理整頓されておりぱっと見なんの変哲のないのだが、一角Tシャツなどが乱雑に積み上げられた場所がある。急な来客のために部屋を大急ぎで片付けました、という名目のものだった。
その下に、鍵付きの小型冷凍庫が置いてあった。
防臭処置もかなりしっかりされており、完璧と言えた。
彼女の首はずっと私たちのすぐそばにあったのだ。
「お部屋ですか?」
「彼の部屋にペットを飼っていた名残が何一つない」
あ、と思う。確かに菊池さんの部屋には大福を連想させるものは何一つなかった。綺麗でおしゃれなワンルームだ。
「例えばリードだとか水入れだとか、写真だとかあってもいいとは思いませんか。まあ死んで心を痛めているならそういったものを見ると思い出して辛い、という理由から仕舞い込むかもしれませんが、ぱっと見クローゼットにもそれらしきものはなかった。
同時に、大福が菊池さんを首なし女から守るために現れていると我々は結論づけていましたが、それにしては大福は首なしに威嚇したことは一度もない」
「確かに……!」
思い出してみる。首なしと同時に現れる可愛らしいビジュアル。決して首なしに敵意を向けることはなかった。菊池さんを守りたいなら、少しくらいの威嚇はあってもいい。
九条さんは一つ頷く。
「そうなれば答えは簡単。
大福は菊池さんのそばにいるのではなく、首なし女のそばにいる」
「首なしの……。確かに、いつでも二人は一緒でしたね。さっき事務所で私が見た時も大福がいた。あ、私の部屋で出た時は」
「その時光さんは就寝中でベッドの上でしたよね。そして足元に首なしを見たと。視界に入らなかっただけで、ベッドの下に大福はいたのでは」
「あ、そうかも」
「その仮説が正しいとしたら最大の疑問が残る。『なぜ菊池さんは大福を自分の犬だと偽ったのか、そして大福の名前を知っていたのか』」
九条さんは菊池さんを睨みつける。伊藤さんはようやく菊池さんの髪から手を離していたが、もう暴れることはなかった。何も言わず顔を床に乗せている。その表情は見えない。
「まあ簡単ですよね。彼は始めから首なしの正体を知っていた。でも大福が首なしの犬だとバレればその身元が判明するヒントになるかもしれない。だから自分の犬だと偽ったのです。思惑通り我々の調査は困難を極めました。
彼は首なし女の体のありかを知っている」
私も考えていた答えだった。ごくりと唾を飲み込み喉が動く。
最悪のパターンだ。これまでの中でも一番の最悪パターン。
「恐らくトンネルの心霊スポットに行ったなど真っ赤な嘘。光さんも不思議がってましたがその情報を後出ししたのは、軽薄だと思われたくないなどではなく、後から付け加えたからです。とりあえず調査を混乱させるためでしょうね」
黙っていた伊藤さんが話し出す。ちなみに彼はまるで椅子の上にでもいますといった顔で未だ菊池さんの上に座っている。
「こういうことだね。原因に心当たりのある霊障をなんとかしたくてうちに来た。除霊かと思ったら浄霊と言われて一旦は引こうとした。だって霊の心残りなんてバレちゃったらやばいもんね。けどそこで運悪く次のターゲットを見つけちゃった。光ちゃんだね」
「私、ですか……」
「接点なくなっちゃうから致し方なく家に招いたんだろうね。随分危険な賭けに出たよねえ、首なし女と意思疎通できたら自分の悪行全部バレちゃうのにさ、そうまでして光ちゃんと接点欲しかったんだろうね。それとも本当に死者の意思を汲み取るなんてできっこないと思ってたのかな?
菊池さんにとっては幸運なことに女は喋れなかった。顔も見えないし話せないんじゃ調査は超難航。僕らを錯綜させて、自分は光ちゃんに近づきましたーってとこだね」
はあと伊藤さんのため息が漏れる。なるほど、ようやく物事の流れが理解できてきた。そういうことだったのか、菊池さんは答えをずっとわかっていたんだ。あの首なしが誰なのか、そしてどうして菊池さんの元に訪れるのか……。
寒気が全身を襲う。明確には誰も口に出していなかったけど。
つまり菊池さんは……。
「あ、あの。どうしてその真実がわかったんですか? それにここの居場所も」
まだ残る疑問をぶつけようとした時、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえ出した。私たちは同時に音に集中した。少しずつだがこちらに近づいてくる。
九条さんが再び菊池さんの方を見た。彼は顔をこちらに向けていた。おぞましい目で私と九条さんを見ている。落ち着いていた恐怖心が再び襲い、つい手先が震えた。
九条さんがいう。
「とりあえず説明はまた後にしましょう。この怪物を警察に引き渡さなくては」
冷たい声の九条さんは、心底軽蔑した目で菊池さんを見ていた。
そのまま到着したパトカーに、菊池さんは連行されていった。私は同時に到着した救急車で搬送された。主に手足にできた擦過傷や首を絞められた跡、それに気絶させれた時に殴られた後頭部の治療だった。
もちろん命には別状なく軽傷なのだが、色々検査をされ、経過観察のため入院。そして大変だったのはなんと言っても警察からの事情聴取だった。
実は以前も調査のために警察にお世話になったことはあるのだが、その時よりさらに大きな事件だったため特に細かく聞かれた。まあ、今回は被害者になってしまったので仕方ない。
病院はすぐに退院の運びとなった。当日には伊藤さんも九条さんも迎えにきてくれて嬉しかった。
そして後日。菊池さんからの証言で、隣の市のある場所の土の下から女性の遺体が発見された。そこには一緒に小さな犬の遺体もあったそうだ。
死後一ヶ月ほど。紺色のワンピースを纏った若い女性で、その体は首から上が存在しなかった。
首のありかも、彼は正直に話した。
それは白と茶色でデザインされたおしゃれでよくあるアパートのある一室。
綺麗に片付けられたよくある部屋の奥に広めのクローゼットがある。中は整理整頓されておりぱっと見なんの変哲のないのだが、一角Tシャツなどが乱雑に積み上げられた場所がある。急な来客のために部屋を大急ぎで片付けました、という名目のものだった。
その下に、鍵付きの小型冷凍庫が置いてあった。
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彼女の首はずっと私たちのすぐそばにあったのだ。
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