視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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聞こえない声

ちょっとズレた警告

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「でも警察の人は積極的に動いてくれませんでした。成人した女性の家出と見られたんです。荷物はそのままだけどお金と大事な犬は連れて行ったし、家出することをほのめかす連絡があったからって。あんな文、簡単に偽造できるのに」

「……そうだったんですか……」

 想像するだけて辛い。大事な家族がいなくなったのに頼れる人もいなく、一人ぼっちになってしまった辛さ。もどかしく、自分の無力さを嘆いただろう。

 須藤さんが鼻を啜る音がやけに響いた。それでも健気に話を続けてくれる。泣いているためか、話し声は時折波打っていた。

「自分でなんとかならないかなって、姉がいなくなった時間はよく外を歩いて回っていろんな人に必死に話を聞いたりしてたんです。大福を連れてると目立つだろうし、誰かがいなくなった日のことを覚えてるだろうって。でもみんなそんなに他人のことは見てないものですね。なんの情報もなくて……。
 そんな時でした。いつも通り夕方歩いていると、大福の鳴き声が聞こえたんです。聞き間違えません、大福も家族なんですから。
 振り返った時目の前を歩いていたのは菊池正樹でした。そしてその足元に、一瞬だけど大福の姿が見えたんです」

「え……」

「その時思い出しました。姉は散歩でよく会う男性がいると以前話していたんです。どんな人かは聞いてませんでしたけど、その人に間違いないって確信しました」

「それでどうしたんですか? 菊池さんに声をかけたんですか?」

 私は尋ねる。でも菊池さんは須藤さんを知らない女性と言っていたけれど。

 彼女は首を振った。

「話しかけようとしてやめました。話しかけてもきっと無駄だって思ったんです。その時見た大福の姿は実体がなかった。それってつまり……そういうことですよね?
 でも姉はもしかしたら生きてるかもと希望は持っていました。どこかに監禁されてるとかなら、彼に見つからないようにその場所を探しださなきゃって思いました」

 なんと。まさかそれで菊池さんの尾行を?
 
 驚きで目を丸くした。行動力があるというか判断力があるというか。元々頭が回る人なのか、それとも弥生さんや大福が目には見えない力で彼女をそう動かしたんだろうか。後者の可能性も高い、とおもった。もし須藤さんが菊池さんに接触していたら、あの男この人にも何をしていたか分からない。

 須藤さんは頭をかきながら言う。

「ただ、なんせきっかけがきっかけなので。自分の見間違いとか頭がおかしくなったのかなとか、そういう事も思ったんですがそれ以外手がかりないし……。それで菊池正樹の名前や勤務先も調べたりして。こんな話警察も信じてもらえるわけないから一人でやりました。向こうにバレないように程度も考えて」

(尾行されてることには気が付いてたみたいだけど……)

「そしたらその、ある日見ちゃったんです。菊池が黒島さんに告白してるところを」

「え!」

 私がコンビニに行こうとして菊池さんに言われた時のことだ。やはり、気づかなかったけど見られていたのか。黙っていた隣の九条さんがやっと口を開いた。

「須藤さんは焦ったそうですよ。光さんと弥生さんはどこか似てるらしいんです」

 驚きで須藤さんを見る。彼女は両手で顔を覆って隠れてしまった。

「本当に菊池がやばいやつだったらどうしようって思ったけど、なんの証拠もないし困ってたんです……。
 でもあの朝、いつものように菊池のアパートに向かおうとした最中見たんです」

「え?」

「大福の姿を」

 あの朝、とは私と接触した時だろうか。彼女は手で顔を隠したまま続ける。

「ついておいでいって言われた気がして、大福のあとを追いました。そこに黒島さんがお一人でたってらして」

 あの時近くに大福がいたの? 驚きで目を丸くする。しかし思い出してみれば、あの時私は失恋で泣きながら歩いていたし、大福が近くにいても気づけなかったのかもしれない。

 なるほど、菊池さんの家から離れた場所にいた私を見つけ出せたのはそういうことなのか。

 須藤さんは小声で続ける。

「もうこれは、大福が導いてくれてるんだって確信して」

「もしかして、それで私に警告しようとしてくれたんですか?」

 彼女は両手を下ろして頷いた。なるほど、それで『彼に近づかないで』か。しかし理由もなくちょっと強引すぎる警告だったな。私は苦笑する。

 九条さんがフォローする。

「本当はそれなりにしっかり話すつもりだったらしいですよ。ところが、護身用に持っていたナイフを誤って落としてしまい、それを光さんに見られ逃げられてしまったんです。慌ててあとを追ったらしいですが光さんの足が速かったみたいです」

「そういえば逃げてる最中、背後で何か叫んでたのは気づいてたんですよねえ」

 腕を組んで唸る。そうか、あれは護身用のナイフだったのか。確かにお姉さんの失踪に関わってると見られる人を尾行するのに丸腰はないよね。あのナイフも、私が思い切り手を振り払った拍子に落ちちゃっただけで、彼女がそれを使って脅してきたわけではないのだ。

 そこまできて、須藤さんは再び勢いよく頭を下げた。テーブルに額がぶつかるんじゃないかと心配するほどだった。

「怖がらせてすみません! もっと考えて話しかけるべきだったのに、私も急いでたというか混乱してたというか! もうほんと、自分昔からバカで……。ちゃんともう一度事情を説明しようかとも思ったんですけど、怖がらせたならそれはそれで菊池に近づかなくなるかもって安易に考えてたんです!」

「い、いえ! 顔をあげてください、私ももう少しちゃんと話を聞けばよかったんですよね。お姉さんのことでいっぱいだったろうに私に警告までしてくれて、ありがとうございます!」

 私が慌ててそう言うと、須藤さんはふにゃふにゃの顔をしながら顔をあげた。あの時見たのとは全然イメージが違う可愛い女の子の顔だった。ついほっとする。


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