視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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聞こえない声

謝罪

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「弥生さんって……優しそうな人ですね。涙ボクロが可愛らしい」

 私がつい声に出して言うと、驚いたように須藤さんが顔をあげた。私は目を細めていう。

「大福を抱っこしてましたよ。仲良しですね。須藤さんを励ますように頭を撫でながら消えました。ようやく眠ったんでしょうか」

「お姉ちゃん……?」

「大福がそばにいてくれたのはよかったですね。きっと一人より寂しくないから」

 私の言葉に、須藤さんは答えなかった。ただそっと自分の髪を触り、唇を震わせながら止まらない涙をこぼし続けた。

(姉妹、か……)

 弥生さんのために必死に泣く須藤さんを見て、私はぼんやりと思う。幼い頃は仲の良かった、今はもう会うことのないあの子のことを。








 落ち着いた須藤さんを駅まで送っていく、と伊藤さんが気をきかせてくれたので、そのまま二人を見送った。須藤さんはかなり落ち込んでいたけれど、どうか時間をかけてでも立ち直ってくれることを祈る。まあ、これからがまだまだ大変なんだろうけど……遺体も見つかってそんなに経ってないしな。

 私と九条さんはそのままソファに腰掛けたまま黙り込んでいた。ぼんやりと今回の調査を振り返る。

 なんて悲しく恐ろしい展開だったんだろう。命の危機にあったんだと今更震え上がってしまう。

 私は腕を摩りながら言った。

「まさか、私たちが滞在していたあの部屋に弥生さんの首があったなんて……考えられません」

 全く気づけなかった、弥生さんごめんなさい。菊池さんの演技にまんまと騙されていたのだ。

 九条さんも苦々しく言う。

「まるで映画の中の世界ですね。彼と弥生さんは大福の散歩の途中で時々会う仲だったそうです。安易に想像できますが片想いを拗らせ、あの日告白し断られたのを逆上して犯行に至ったと。光さんと全く同じ流れです」

 げんなりする。人に好かれてそれを断っただけであんなことになるなんて、弥生さんが哀れすぎる。そんなことで人の命を奪ったあの人を、一体どう憎めばいいんだろう。

 最初に開けたクローゼット。その隅に山になっていた服たち。菊池さんが耳を赤くして、急いで片付けたから、と言い訳していたのをすっかり信じ込んでいた。

 私は深い深いため息をつく。もう少しで私もそうなるはずだったんだ。あの頭がイカれた人にノコギリで首を……これ以上は想像するのはやめておこう。ただでさえ事件後食欲も無くなっているのに。

 私が一人で考えを巡らせていると、ふと隣に座る九条さんがこちらを見ているのに気がついた。やけに真っ直ぐ見てくるので不思議に思い首を傾げる。

「どうしました?」

 私が尋ねると、彼は何も言わず無言でゆっくり頭を下げた。突然のことに飛び上がって私は驚いてしまう。

「九条さん?」

「すみませんでした、あんな目に遭わせて」

「ま、またそれですか……! やめてください九条さんは何も悪くないんですから。あんなの見抜けって言う方が無理ですよ、菊池さん自体はぱっと見普通のちゃんとした人でしたし。頭を上げてください」

 私は慌ててそう答えた。九条さんは長めの髪を揺らしながら顔を上げる。その表情はいつになく暗く見えた。いつだって能面な九条さんがそんな顔をしているのを初めて見た気がする。

 でも本当に九条さんが責任を感じることはないのだ。悪いのは犯人なのに。

「ていうか、九条さんと伊藤さんが来てくれなかったら私は今生きてませんし、こっちがお礼を言わなきゃいけないんですよ。本当にありがとうございました」

 今度は私が頭を下げるが、彼の表情は晴れなかった。私から目を逸らしたまま言う。

「いいえ。あれは弥生さんと大福の霊が誘導してくれたから間に合ったのです。その力が無くては私は何もできていなかった。初めから何か違和感を感じていたのに正体に気づけず、あなたを一人にした私の責任です」

「そんな、だって九条さんも伊藤さんも私のために色々してくれたじゃないですか……! 須藤さんをストーカーだと思っていた頃、伊藤さんは必死に調べてくれたし九条さんはそばについててくれたし、私本当に嬉しかったです。だからそんなこと言うのやめてください」

 私が言うと、ようやく九条さんはこちらを見た。正面で目が合うと途端私の心は大きく波打つ。やけに澄んだ九条さんの瞳はあまりに綺麗だった。

 彼は突然私に手を伸ばした。驚きで固まっていると、その大きな手が私の首に触れた。少しひんやりしているはずの九条さんの手なのに、触れられたところが熱を持ったように熱い。
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