視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

文字の大きさ
232 / 450
家族の一員

もう一件

しおりを挟む
 九条さんはなお話を続けた。

「一体入院はどれほどに?」

「正直まだわからないのです、申し訳ありません」

「では供養の受け付けがいつになるか目処が立っていないのですか?」

「はい、その状態です。我々も病状について詳しいことは聞いておりませんので……」

 九条さんは無言で頭を抱えた。ここを頼りにやってきた私たちからすれば、もはや死刑宣告もいいところ。どうしよう、とオロオロ慌てる。

 黙っていた九条さんが口を開いた。

「仕方ありませんね。では、供養再開となった日には連絡をいただけますか、こちら連絡先です」

 着ている黒いジャケットから名刺を取り出し渡した。僧侶はそれを受け取り了承してくれる。

「九条様、ですね。確かに」

「ここの住職には何度か世話になってますので、名前をいえば伝わるかもしれません」

「かしこまりました、ご足労いただいたのにすみませんでした」

 丁寧に頭を下げる彼に私たちもお辞儀しかえす。九条さんは踵をかえすと、元きた道をさっさと進んで行ってしまった。その後ろ姿を急いで追いながら、私は小声で尋ねる。

「ど、どうするんですか……ここを頼りに来たのに」

「大丈夫です。もう一件心当たりがあります」

「え?」

「人形供養は一番はここですが、他にも頼りになる寺があります。また移動に時間はかかりますが、そちらへ持っていきましょう。ここの住職ほど力は強くないですが、人形供養に長けています」

「あ……よかった」

 とりあえずまだ希望があると知りほっと胸を撫で下ろす。ここを断られて一体どうしようかと思っていた。でもそうだよね、日本にそういうお寺はいくつかあるはずだもの、他をあたってみればいいんだよね。

 再び駐車場に戻ってきた私たちは、人形を後部座席に戻した。意味があるのかわからないバスタオルでしっかり包んでおく。まだ暖房の暖かさが残っている車内に入り込んだ。

 朝早くからこんなところまで来たのに振り出しとは。私は車に乗ってるだけだけど九条さんは運転してるし。昨日の夜はよく眠れなかったし……。

 再びエンジンをかけて車を動かす。慎重に運転しながら九条さんが言った。

「次のところはまあ四十分くらいでしょうかね」

「どんどん遠くなっていく……」

「法閣寺の住職は人形の供養なら間違いなく日本一だと思っていたので残念です。ここなら確実だったんですが……まあ次のところも歴史ある寺ですので」

「そちらも住職さんが力あるんですか?」

「多少は。まあ麗香や法閣寺には及びませんが、祓う能力は間違いなしですね」

 彼の説明を聞いてほっとする。今度こそ、この人形を渡して解放されたい。ゆっくり眠りたいよ、自分の部屋で。

 フロントガラスをぼんやり眺めながらそう考えている時、赤信号で停車する。そのタイミングで、車内に携帯が鳴り響く音が聞こえた。私は一瞬自分のハンドバッグを見たが、動いたのは九条さんだった。

 彼はポケットからスマホを取り出し一瞬画面を見ると、すっと私に差し出した。そこには『伊藤陽太』の文字が表示されている。

「モーニングコールの時間です。すみませんが出てもらえますか」

「あ、はい」

 私はスマホをお借りしてスピーカーにして電話に出た。明るい癒しの声が耳に入ってくる。

『あっれ、九条さん一発ですか!? めずらしーおはようございまーす』

「伊藤さんおはようございます」

『もしかして起きてました? 声がはっきりしてますね』

「ええ、緊急事態で」

 九条さんはハンドルを握ったまま話す。ちょうど信号が青に変わり再び ゆるゆるとスピードが上がっていく。私は声をだした。

「おはようございます伊藤さん」

『あれっ、光ちゃん?』

「実は昨晩、嫌なことが起こりまして……」

 私は運転中の九条さんに変わりそのまま伊藤さんに説明した。家に人形がついてきてしまったことや、麗香さんに連絡し九条さんの住所を教えてもらったこと。今朝仲良くも人形が布団の中から見つかり、即法閣寺に来たが住職が不在のこと。

 私の説明に、伊藤さんはなんとも重い声を出した。

『それはまた……散々だったね光ちゃん……』

「随分気に入られちゃったみたいで……」

『そういうことだったんだね。了解しました、僕は事務所で留守番してますから、とにかく無事に人形を預けられることを祈ってますね。くれぐれも気をつけてくださいね二人とも!』

「はい、伊藤さんありがとうございます」

 彼と会話を終えて電話を切る。隣の九条さんが不満げに言った。

「こんな尻拭いをさせらる羽目になったあの依頼人をなんとかして見つけ出したいですが、いくら伊藤さんとは言え藤原の苗字だけであの人を探し出すのは困難でしょうね……」

「そうですね、今頃何してるんでしょう藤原さん」

 人にこんな人形を置いていったあの人。いくら怖くても、普通出来ないと思うんだけどなあ。

 私は深いため息をついた。






 通勤ラッシュに巻き込まれたのか、今度は四十分のところが一時間以上かかって目的地に到着した。法閣寺より規模は小さめのお寺だったが、歴史は感じられる場所だった。

 今度も人形は逃げ出さずちゃんと車に乗っていた。私たちはまたそれを持って住職さんへ会いにいく。

 また入院中だなんて言われたらどうしよう、と緊張していた。もしそうだったら偶然とは思えない、とてもやばい流れになるからだ。

 が、杞憂に終わりそうだった。寺につき供養してほしい人形があることを告げると、あっさりと住職さんに会う流れになったのだ。

 私は胸を撫で下ろしながら案内される。本堂の方に連れて行かれ、やや緊張しながら靴を脱いだ。いつ来ても思うけど、こういった場所ってやっぱり自然と背筋が伸びちゃうんだよね。

 九条さんと共に中に入ると、少しの間待つように言われたので二人正座した。二人の間に人形は置いておく。少し寒い中、端にあるストーブの温もりが流れてくるのを感じた。

 私は小声で隣の九条さんに言う。

「よかったですね、住職さんと会えそうで……」

「ええ、今回も会えなかったらどうしようかと思いました」
 
 そう会話しているところに、一人の男性が訪れた。反射的に姿勢を正す。見えたのは思ったより柔らかな表情をした住職さんだった。年は六十後半ぐらいだろうか。優しそうな目尻の皺が印象的で、こちらの力が抜けてしまいそうな人だった。袈裟を着たその人はゆっくり私たちの前に座り込む。

「お待たせしました、九条さん、ご無沙汰しております」


しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。