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家族の一員
もう一件
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九条さんはなお話を続けた。
「一体入院はどれほどに?」
「正直まだわからないのです、申し訳ありません」
「では供養の受け付けがいつになるか目処が立っていないのですか?」
「はい、その状態です。我々も病状について詳しいことは聞いておりませんので……」
九条さんは無言で頭を抱えた。ここを頼りにやってきた私たちからすれば、もはや死刑宣告もいいところ。どうしよう、とオロオロ慌てる。
黙っていた九条さんが口を開いた。
「仕方ありませんね。では、供養再開となった日には連絡をいただけますか、こちら連絡先です」
着ている黒いジャケットから名刺を取り出し渡した。僧侶はそれを受け取り了承してくれる。
「九条様、ですね。確かに」
「ここの住職には何度か世話になってますので、名前をいえば伝わるかもしれません」
「かしこまりました、ご足労いただいたのにすみませんでした」
丁寧に頭を下げる彼に私たちもお辞儀しかえす。九条さんは踵をかえすと、元きた道をさっさと進んで行ってしまった。その後ろ姿を急いで追いながら、私は小声で尋ねる。
「ど、どうするんですか……ここを頼りに来たのに」
「大丈夫です。もう一件心当たりがあります」
「え?」
「人形供養は一番はここですが、他にも頼りになる寺があります。また移動に時間はかかりますが、そちらへ持っていきましょう。ここの住職ほど力は強くないですが、人形供養に長けています」
「あ……よかった」
とりあえずまだ希望があると知りほっと胸を撫で下ろす。ここを断られて一体どうしようかと思っていた。でもそうだよね、日本にそういうお寺はいくつかあるはずだもの、他をあたってみればいいんだよね。
再び駐車場に戻ってきた私たちは、人形を後部座席に戻した。意味があるのかわからないバスタオルでしっかり包んでおく。まだ暖房の暖かさが残っている車内に入り込んだ。
朝早くからこんなところまで来たのに振り出しとは。私は車に乗ってるだけだけど九条さんは運転してるし。昨日の夜はよく眠れなかったし……。
再びエンジンをかけて車を動かす。慎重に運転しながら九条さんが言った。
「次のところはまあ四十分くらいでしょうかね」
「どんどん遠くなっていく……」
「法閣寺の住職は人形の供養なら間違いなく日本一だと思っていたので残念です。ここなら確実だったんですが……まあ次のところも歴史ある寺ですので」
「そちらも住職さんが力あるんですか?」
「多少は。まあ麗香や法閣寺には及びませんが、祓う能力は間違いなしですね」
彼の説明を聞いてほっとする。今度こそ、この人形を渡して解放されたい。ゆっくり眠りたいよ、自分の部屋で。
フロントガラスをぼんやり眺めながらそう考えている時、赤信号で停車する。そのタイミングで、車内に携帯が鳴り響く音が聞こえた。私は一瞬自分のハンドバッグを見たが、動いたのは九条さんだった。
彼はポケットからスマホを取り出し一瞬画面を見ると、すっと私に差し出した。そこには『伊藤陽太』の文字が表示されている。
「モーニングコールの時間です。すみませんが出てもらえますか」
「あ、はい」
私はスマホをお借りしてスピーカーにして電話に出た。明るい癒しの声が耳に入ってくる。
『あっれ、九条さん一発ですか!? めずらしーおはようございまーす』
「伊藤さんおはようございます」
『もしかして起きてました? 声がはっきりしてますね』
「ええ、緊急事態で」
九条さんはハンドルを握ったまま話す。ちょうど信号が青に変わり再び ゆるゆるとスピードが上がっていく。私は声をだした。
「おはようございます伊藤さん」
『あれっ、光ちゃん?』
「実は昨晩、嫌なことが起こりまして……」
私は運転中の九条さんに変わりそのまま伊藤さんに説明した。家に人形がついてきてしまったことや、麗香さんに連絡し九条さんの住所を教えてもらったこと。今朝仲良くも人形が布団の中から見つかり、即法閣寺に来たが住職が不在のこと。
私の説明に、伊藤さんはなんとも重い声を出した。
『それはまた……散々だったね光ちゃん……』
「随分気に入られちゃったみたいで……」
『そういうことだったんだね。了解しました、僕は事務所で留守番してますから、とにかく無事に人形を預けられることを祈ってますね。くれぐれも気をつけてくださいね二人とも!』
「はい、伊藤さんありがとうございます」
彼と会話を終えて電話を切る。隣の九条さんが不満げに言った。
「こんな尻拭いをさせらる羽目になったあの依頼人をなんとかして見つけ出したいですが、いくら伊藤さんとは言え藤原の苗字だけであの人を探し出すのは困難でしょうね……」
「そうですね、今頃何してるんでしょう藤原さん」
人にこんな人形を置いていったあの人。いくら怖くても、普通出来ないと思うんだけどなあ。
私は深いため息をついた。
通勤ラッシュに巻き込まれたのか、今度は四十分のところが一時間以上かかって目的地に到着した。法閣寺より規模は小さめのお寺だったが、歴史は感じられる場所だった。
今度も人形は逃げ出さずちゃんと車に乗っていた。私たちはまたそれを持って住職さんへ会いにいく。
また入院中だなんて言われたらどうしよう、と緊張していた。もしそうだったら偶然とは思えない、とてもやばい流れになるからだ。
が、杞憂に終わりそうだった。寺につき供養してほしい人形があることを告げると、あっさりと住職さんに会う流れになったのだ。
私は胸を撫で下ろしながら案内される。本堂の方に連れて行かれ、やや緊張しながら靴を脱いだ。いつ来ても思うけど、こういった場所ってやっぱり自然と背筋が伸びちゃうんだよね。
九条さんと共に中に入ると、少しの間待つように言われたので二人正座した。二人の間に人形は置いておく。少し寒い中、端にあるストーブの温もりが流れてくるのを感じた。
私は小声で隣の九条さんに言う。
「よかったですね、住職さんと会えそうで……」
「ええ、今回も会えなかったらどうしようかと思いました」
そう会話しているところに、一人の男性が訪れた。反射的に姿勢を正す。見えたのは思ったより柔らかな表情をした住職さんだった。年は六十後半ぐらいだろうか。優しそうな目尻の皺が印象的で、こちらの力が抜けてしまいそうな人だった。袈裟を着たその人はゆっくり私たちの前に座り込む。
「お待たせしました、九条さん、ご無沙汰しております」
「一体入院はどれほどに?」
「正直まだわからないのです、申し訳ありません」
「では供養の受け付けがいつになるか目処が立っていないのですか?」
「はい、その状態です。我々も病状について詳しいことは聞いておりませんので……」
九条さんは無言で頭を抱えた。ここを頼りにやってきた私たちからすれば、もはや死刑宣告もいいところ。どうしよう、とオロオロ慌てる。
黙っていた九条さんが口を開いた。
「仕方ありませんね。では、供養再開となった日には連絡をいただけますか、こちら連絡先です」
着ている黒いジャケットから名刺を取り出し渡した。僧侶はそれを受け取り了承してくれる。
「九条様、ですね。確かに」
「ここの住職には何度か世話になってますので、名前をいえば伝わるかもしれません」
「かしこまりました、ご足労いただいたのにすみませんでした」
丁寧に頭を下げる彼に私たちもお辞儀しかえす。九条さんは踵をかえすと、元きた道をさっさと進んで行ってしまった。その後ろ姿を急いで追いながら、私は小声で尋ねる。
「ど、どうするんですか……ここを頼りに来たのに」
「大丈夫です。もう一件心当たりがあります」
「え?」
「人形供養は一番はここですが、他にも頼りになる寺があります。また移動に時間はかかりますが、そちらへ持っていきましょう。ここの住職ほど力は強くないですが、人形供養に長けています」
「あ……よかった」
とりあえずまだ希望があると知りほっと胸を撫で下ろす。ここを断られて一体どうしようかと思っていた。でもそうだよね、日本にそういうお寺はいくつかあるはずだもの、他をあたってみればいいんだよね。
再び駐車場に戻ってきた私たちは、人形を後部座席に戻した。意味があるのかわからないバスタオルでしっかり包んでおく。まだ暖房の暖かさが残っている車内に入り込んだ。
朝早くからこんなところまで来たのに振り出しとは。私は車に乗ってるだけだけど九条さんは運転してるし。昨日の夜はよく眠れなかったし……。
再びエンジンをかけて車を動かす。慎重に運転しながら九条さんが言った。
「次のところはまあ四十分くらいでしょうかね」
「どんどん遠くなっていく……」
「法閣寺の住職は人形の供養なら間違いなく日本一だと思っていたので残念です。ここなら確実だったんですが……まあ次のところも歴史ある寺ですので」
「そちらも住職さんが力あるんですか?」
「多少は。まあ麗香や法閣寺には及びませんが、祓う能力は間違いなしですね」
彼の説明を聞いてほっとする。今度こそ、この人形を渡して解放されたい。ゆっくり眠りたいよ、自分の部屋で。
フロントガラスをぼんやり眺めながらそう考えている時、赤信号で停車する。そのタイミングで、車内に携帯が鳴り響く音が聞こえた。私は一瞬自分のハンドバッグを見たが、動いたのは九条さんだった。
彼はポケットからスマホを取り出し一瞬画面を見ると、すっと私に差し出した。そこには『伊藤陽太』の文字が表示されている。
「モーニングコールの時間です。すみませんが出てもらえますか」
「あ、はい」
私はスマホをお借りしてスピーカーにして電話に出た。明るい癒しの声が耳に入ってくる。
『あっれ、九条さん一発ですか!? めずらしーおはようございまーす』
「伊藤さんおはようございます」
『もしかして起きてました? 声がはっきりしてますね』
「ええ、緊急事態で」
九条さんはハンドルを握ったまま話す。ちょうど信号が青に変わり再び ゆるゆるとスピードが上がっていく。私は声をだした。
「おはようございます伊藤さん」
『あれっ、光ちゃん?』
「実は昨晩、嫌なことが起こりまして……」
私は運転中の九条さんに変わりそのまま伊藤さんに説明した。家に人形がついてきてしまったことや、麗香さんに連絡し九条さんの住所を教えてもらったこと。今朝仲良くも人形が布団の中から見つかり、即法閣寺に来たが住職が不在のこと。
私の説明に、伊藤さんはなんとも重い声を出した。
『それはまた……散々だったね光ちゃん……』
「随分気に入られちゃったみたいで……」
『そういうことだったんだね。了解しました、僕は事務所で留守番してますから、とにかく無事に人形を預けられることを祈ってますね。くれぐれも気をつけてくださいね二人とも!』
「はい、伊藤さんありがとうございます」
彼と会話を終えて電話を切る。隣の九条さんが不満げに言った。
「こんな尻拭いをさせらる羽目になったあの依頼人をなんとかして見つけ出したいですが、いくら伊藤さんとは言え藤原の苗字だけであの人を探し出すのは困難でしょうね……」
「そうですね、今頃何してるんでしょう藤原さん」
人にこんな人形を置いていったあの人。いくら怖くても、普通出来ないと思うんだけどなあ。
私は深いため息をついた。
通勤ラッシュに巻き込まれたのか、今度は四十分のところが一時間以上かかって目的地に到着した。法閣寺より規模は小さめのお寺だったが、歴史は感じられる場所だった。
今度も人形は逃げ出さずちゃんと車に乗っていた。私たちはまたそれを持って住職さんへ会いにいく。
また入院中だなんて言われたらどうしよう、と緊張していた。もしそうだったら偶然とは思えない、とてもやばい流れになるからだ。
が、杞憂に終わりそうだった。寺につき供養してほしい人形があることを告げると、あっさりと住職さんに会う流れになったのだ。
私は胸を撫で下ろしながら案内される。本堂の方に連れて行かれ、やや緊張しながら靴を脱いだ。いつ来ても思うけど、こういった場所ってやっぱり自然と背筋が伸びちゃうんだよね。
九条さんと共に中に入ると、少しの間待つように言われたので二人正座した。二人の間に人形は置いておく。少し寒い中、端にあるストーブの温もりが流れてくるのを感じた。
私は小声で隣の九条さんに言う。
「よかったですね、住職さんと会えそうで……」
「ええ、今回も会えなかったらどうしようかと思いました」
そう会話しているところに、一人の男性が訪れた。反射的に姿勢を正す。見えたのは思ったより柔らかな表情をした住職さんだった。年は六十後半ぐらいだろうか。優しそうな目尻の皺が印象的で、こちらの力が抜けてしまいそうな人だった。袈裟を着たその人はゆっくり私たちの前に座り込む。
「お待たせしました、九条さん、ご無沙汰しております」
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