視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

文字の大きさ
238 / 450
家族の一員

話すだけでも

しおりを挟む


 九条さんにシャワーを借りて、今日は早々に寝ることにした。ドライヤーは自分の家から持ってきたので髪は乾かし寝る準備を行う。

 今日も九条さんはソファで過ごすと言い、人形は彼の隣で預かると言われた。昨晩も同じ状態だったのに私の隣に来ていたのだから、今日も同じことが起きる可能性がある。体はヘトヘトだったが、眠れるかどうかは心配だった。

 それでも眠らねばならない。人形に懐かれてしまった今、私の体力は非常に重要だ。人間は弱まれば弱まるほど、そういうものに喰われやすい。私は決して油断せず、自分を冷静に保持しなくてはならないのだ。

 おやすみの挨拶をした後、寝室へ入る。昨日と同じ乱れた布団が目に入った。カーテンも閉めっぱなしだ。朝バタバタしていたので、出てきたまんまなのだ。

 ベッド以外何もものがない寝室。私はそのままダイブした。昨日は邪な気持ちもあって緊張したりしていたが、流石に今日はそんなことを言っていられない。

 先ほどの夕飯のことをぼんやり思い浮かべた。

 いつもは事務所で三人だから、だから間違えたんだよね。疲れてたし、ヘロヘロなんだもん。だからに決まってる。間違いないんだから。

 枕に頭を乗せたままそう繰り返し呟くも、自分の心の中にあるモヤモヤは消えなかった。まだまだ眠れそうにないので、持っていたスマホで面白そうな動画や記事を読んでみる。少しでも気を紛らわしたかった。なるべく他のことに集中したいのに、やっぱり意識はあっちへ飛ぶ。

 麗香さんが帰ってくるまで、一週間。それまでに他に除霊できる人が見つかれば万々歳。見つからなくても、一週間だけ耐えられれば麗香さんが帰ってくるんだから。だから、平気だよ。

 何度も自分に言い聞かせているうちに、瞼が重くなってきた。まだスマホは稼働したままで、可愛い犬の動画が流れているところだった。ああ、このまま眠って体力回復しなきゃね。明日も色々調べたりして———

 そう目を閉じた時、すぐ近くで何か物音がした。それはフローリングの床を何かがそうっと歩くような音。私に気づかれないよう気をつけて移動する小さな足音だ。それがゆっくり私の枕元に近づいた瞬間、私は眠っていた脳が瞬時に覚醒し瞼を開いた。

「 ! 」

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

 私の顔を覗き込んできた人を見て、安心感に包まれた。

「い、伊藤さん……!?」

 慌てて起き上がる。伊藤さんはニコニコした顔で私に言った。

「ごめんね、起こしちゃったね」

「ぜ、全然大丈夫です。それよりどうしたんですか、なんでここに?」

「仕事終わった後、やっぱり心配だから僕も来ちゃったんだよね。九条さんと二人大丈夫かなって」

「そうだったんですか……! 遅くまでお疲れ様です」

 私がベッドから出ようとするのを、彼が慌ててとめた。

「いいよ、寝てて。ちょっと様子見にきただけなんだ」

「大丈夫です。色々考えて気分落ちてたから、伊藤さんの癒しパワーをもらって元気になりました」

「あは、癒しパワー?」

「そうです、パワースポットだと思ってます」

「面白いね」

 声を上げて笑う彼にホッとする。伊藤さんって、やっぱりどんな時も笑顔が素敵だな。本当に癒し系って感じ。

 彼は目を細めたままたずねる。

「大丈夫? 困ってない?」

「ええ、今のところ……九条さんの家で料理をしようとしたら、炊飯器やフランパンすら無くて挫折したぐらいです」

 私の話に、伊藤さんが大きな声で笑う。つられて私も笑ってしまう。

「そっか、残念だね。料理できなかったか」

「はい、結局レトルトを食べただけで」

 言いかけた時、自分が三人分の食事を用意してしまったことを思い出す。一瞬で表情に翳りを作ってしまい、それに気づいた伊藤さんが私の顔を覗き込んだ。

「どうしたの、なんかあったの?」

「い、いえ」

「話してほしいな」

「えっと……、夕飯のとき、私が準備したんですけど。無意識のうちに三人分用意してたんです」

「え?」

 伊藤さんが目を丸くして私をみる。慌てて笑顔を作ってみせた。

「でも、多分疲れてたから! 伊藤さんの分も用意しちゃっただけなんだと思います。ほら事務所はいつも三人だし」

「…………」

「ただタイミング的にちょっと悪かったですよね。少しだけ気になってて。でも大丈夫です」

 私がそう言うと、立っていた伊藤さんがしゃがみ込んだ。すぐ目の前に彼の顔が近づき、少しどきりとした。伊藤さんは真剣な眼差しで私をみる。

「無理しないで。怖いなら怖かったって言っていいんだよ。僕にはなんでも話してくれていいんだから」

「伊藤さん」

「一人で抱え込んじゃだめだよ。聞くだけしかできないけど、なんでも聞くから。話したいこと全て言って」

 私を包み込む優しい声色は、意識をぼうっとさせるほど柔らかで綺麗な声だった。恐怖の淵に立っていた自分は泣きそうになる。そんな私を、彼は見守ってくれていた。

 私は小さく頭を下げる。情けない顔を隠したい気持ちもあった。

「ありがとうございます……」

「怖い?」

「やっぱり、怖い、です」

「そうだよね、怖いよね。でもきっと大丈夫だよ。すぐによくなると思う」

「いい方へ行けばいいんですが……」

 伊藤さんが片方にエクボを浮かべる。幼い笑顔で言う。

「とにかくなんでも思ったことは言えばいいんだよ。抱え込むのはよくない、そうすればきっと君が楽になるから」

「そうですね、人に話すだけで楽になりますもんね」

「うん、話すことは重要だよ。いつだって聞くから。僕たち、もう家族みたいなものじゃない」

 彼の言ったセリフに顔をあげる。


しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。