243 / 450
家族の一員
無意識
しおりを挟む
モニターから映像が再生された。私は正座しその画面に齧り付く。九条さんは肩が触れるほど私に近く座り直した。普段より距離も近い気がする。私の恐怖心を抑えようとしてくれているのだろうか。
画面は部屋全体が映るようになっている。右側に私が寝ているソファがある。その反対側にあるテレビのすぐ横にはモニターが置かれており、床に座る九条さんの後ろ姿が映っていた。
モニターから何も音は聞こえなかった。マイクが壊れているのではなく、私はすやすや眠りにつき、九条さんも無言で画面をチェックしているためだった。静かなリビングは平和そのもので、幸せそうに寝ている自分の寝顔を見るのが恥ずかしいなと感じた。
しばらくそんな時間が過ぎる。私は完全にソファに横たわって爆睡だ。画面の中の九条さんは何やら機械を操作した後、近くに置いてあるスマホに手を伸ばした。
すると突然その手が床に落ちた。同時に首もガクンと垂れる。床に座った状態のまま器用にも、彼は眠ってしまったようだった。少し長めの髪がだらりと垂れている。
一瞬のその光景に瞬きを忘れる。調査中に九条さんがこんな形で寝るなんてありえない、見たことがない。これは完全に、眠らされているんだ。
ドキドキする心臓を抑えるように両手を胸に抱いた。どこから来るの、一体あの人形は。
眠った二人の映像がしばし続く。するとその画面に少しずつノイズが入っていく。映像が揺れ、耳障りな音がスピーカーから溢れた。じいっとそれを見つめていると、ノイズとはまた違う音が耳に入ってくるのに気がついた。
機械的な音とはまた別に、人の声が聞こえる。高い声だ。途切れながらで小さな音だが確実に聞こえる。私は必死に耳を澄ました。相手は何かを喋っている感じじゃない。これは、
笑い声?
そう、小さな笑い声だった。鼻から息が抜けるような「ふふふ」、という声で、それは徐々に徐々に大きくなってくる。
来る。ついに、来るんだ。
途端、揺れていた画面がぴたりと止まり正常に戻った。静止画かと錯覚するほどの動きのない映像が流れる。眠る九条さん、眠る私。だがそこに、先ほどよりはっきりとした音で笑い声がした。
そこで気がついた。
私は画面右側に注目する。
黒いソファに寝ている私の肩がわずかに揺れている。黒髪がサラリと肩からこぼれ落ちる。
「あ……」
そう声を漏らした時だった。画面の中の自分がゆらりと起き上がる。酷く俯いていて顔はよく見えなかった。全く記憶にない行動に息が止まる。笑っていたのは私だったのだ。
私はソファから降り、そのままペタリペタリとゆっくり歩きながら九条さんの後ろを通り過ぎる。フラつくこともなく、非常にしっかりした足取りだった。
かチャリとリビングの扉を開ける音がする。そのまま私は画面から見えなくなる。
そのままほんの数十秒。再び自分の姿は現れた。そしてその両手に抱いているものを見て、私は卒倒してしまいそうになる。
そう、赤い着物を着た人形だった。
それはそれは大事そうに、宝物を抱くように人形を抱えた自分は鼻歌を歌っていた。幸せでたまらないという様子の歌は自分の知らない歌だった。人形を持ったままソファに腰掛けると、それを高く掲げる。親が子供をあやすような光景だった。
次に膝に乗せ、人形の黒髪を愛おしそうに撫で続けた。ゆっくりした速さで何度もその頭を撫でる。
映像を前に全身が小刻みに震える。
目の前に映る自分が自分ではないように思えた。幸せそうに人形をあやす女は誰? 自分が自分ではない絵、それはただ混乱と不快感だった。
人形をぎゅうっと抱きしめて何やらボソボソと話しかけている。内容までは聞き取れなかった。でも確実に人形に何かを言っている。
座っていた自分は立ち上がり、人形を横抱きにしてゆらゆらと揺らす。赤ん坊を寝かしつける母親の姿のようだった。自分の表情は幸福感に満ちていた。
その時、画面の私がカメラに背を向けた。瞬間、自分の背中に何かが張り付いているのが見えた。
子供だ。肩までの黒髪を揺らす小さな子供の後ろ姿。その子はしっかりと私の背中にしがみついている。気づかない自分はただ人形を気持ちよさそうに揺らしている。
そして。
私にしがみつく子供が突如、ぐるんとこちらを振り返った。体はそのままで、首だけが不自然に曲がっている。カメラに向かってアピールするように口を開けて笑った。
目は窪んで真っ黒だった。灰色の肌にくすんだ歯。笑う口から見える真っ赤な舌が、あまりに目立っていた。
画面越しに少女と目が合う。
そこでふっと、子供は消えた。同時に映像の中の自分もピタリと動きを止める。
抱いていた人形をそうっとソファの上に置くと、そこの隣に自分も横たわった。そして何事もなく、再び私は夢の中へと旅立っていったのである。
画面は部屋全体が映るようになっている。右側に私が寝ているソファがある。その反対側にあるテレビのすぐ横にはモニターが置かれており、床に座る九条さんの後ろ姿が映っていた。
モニターから何も音は聞こえなかった。マイクが壊れているのではなく、私はすやすや眠りにつき、九条さんも無言で画面をチェックしているためだった。静かなリビングは平和そのもので、幸せそうに寝ている自分の寝顔を見るのが恥ずかしいなと感じた。
しばらくそんな時間が過ぎる。私は完全にソファに横たわって爆睡だ。画面の中の九条さんは何やら機械を操作した後、近くに置いてあるスマホに手を伸ばした。
すると突然その手が床に落ちた。同時に首もガクンと垂れる。床に座った状態のまま器用にも、彼は眠ってしまったようだった。少し長めの髪がだらりと垂れている。
一瞬のその光景に瞬きを忘れる。調査中に九条さんがこんな形で寝るなんてありえない、見たことがない。これは完全に、眠らされているんだ。
ドキドキする心臓を抑えるように両手を胸に抱いた。どこから来るの、一体あの人形は。
眠った二人の映像がしばし続く。するとその画面に少しずつノイズが入っていく。映像が揺れ、耳障りな音がスピーカーから溢れた。じいっとそれを見つめていると、ノイズとはまた違う音が耳に入ってくるのに気がついた。
機械的な音とはまた別に、人の声が聞こえる。高い声だ。途切れながらで小さな音だが確実に聞こえる。私は必死に耳を澄ました。相手は何かを喋っている感じじゃない。これは、
笑い声?
そう、小さな笑い声だった。鼻から息が抜けるような「ふふふ」、という声で、それは徐々に徐々に大きくなってくる。
来る。ついに、来るんだ。
途端、揺れていた画面がぴたりと止まり正常に戻った。静止画かと錯覚するほどの動きのない映像が流れる。眠る九条さん、眠る私。だがそこに、先ほどよりはっきりとした音で笑い声がした。
そこで気がついた。
私は画面右側に注目する。
黒いソファに寝ている私の肩がわずかに揺れている。黒髪がサラリと肩からこぼれ落ちる。
「あ……」
そう声を漏らした時だった。画面の中の自分がゆらりと起き上がる。酷く俯いていて顔はよく見えなかった。全く記憶にない行動に息が止まる。笑っていたのは私だったのだ。
私はソファから降り、そのままペタリペタリとゆっくり歩きながら九条さんの後ろを通り過ぎる。フラつくこともなく、非常にしっかりした足取りだった。
かチャリとリビングの扉を開ける音がする。そのまま私は画面から見えなくなる。
そのままほんの数十秒。再び自分の姿は現れた。そしてその両手に抱いているものを見て、私は卒倒してしまいそうになる。
そう、赤い着物を着た人形だった。
それはそれは大事そうに、宝物を抱くように人形を抱えた自分は鼻歌を歌っていた。幸せでたまらないという様子の歌は自分の知らない歌だった。人形を持ったままソファに腰掛けると、それを高く掲げる。親が子供をあやすような光景だった。
次に膝に乗せ、人形の黒髪を愛おしそうに撫で続けた。ゆっくりした速さで何度もその頭を撫でる。
映像を前に全身が小刻みに震える。
目の前に映る自分が自分ではないように思えた。幸せそうに人形をあやす女は誰? 自分が自分ではない絵、それはただ混乱と不快感だった。
人形をぎゅうっと抱きしめて何やらボソボソと話しかけている。内容までは聞き取れなかった。でも確実に人形に何かを言っている。
座っていた自分は立ち上がり、人形を横抱きにしてゆらゆらと揺らす。赤ん坊を寝かしつける母親の姿のようだった。自分の表情は幸福感に満ちていた。
その時、画面の私がカメラに背を向けた。瞬間、自分の背中に何かが張り付いているのが見えた。
子供だ。肩までの黒髪を揺らす小さな子供の後ろ姿。その子はしっかりと私の背中にしがみついている。気づかない自分はただ人形を気持ちよさそうに揺らしている。
そして。
私にしがみつく子供が突如、ぐるんとこちらを振り返った。体はそのままで、首だけが不自然に曲がっている。カメラに向かってアピールするように口を開けて笑った。
目は窪んで真っ黒だった。灰色の肌にくすんだ歯。笑う口から見える真っ赤な舌が、あまりに目立っていた。
画面越しに少女と目が合う。
そこでふっと、子供は消えた。同時に映像の中の自分もピタリと動きを止める。
抱いていた人形をそうっとソファの上に置くと、そこの隣に自分も横たわった。そして何事もなく、再び私は夢の中へと旅立っていったのである。
26
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。