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待ち合わせ
恋の終わり
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私が声をかけると、彼は無言で立ち上がった。目で外に出るように促される。それについて一旦廊下へ出ると、九条さんは私を困った顔で見下ろした。
「いいのですか、依頼を受けても」
「はい、本当に困ってるようですし」
「私があなたの立場ならお引き取り願います」
「確かに気まずいですけど……もしこのあと信也たちがどっかの除霊師のとこに行って、麗香さんみたいな本物だったらいいけど偽物のところに行っちゃったら。また二人は霊に対して嫌なイメージを持つでしょう?
うちで見た方がいいかなと思うんです。解決できるとは限りませんが……それに、二人とも、私の人生において重要な人たちであるのには間違いないんです」
私の言葉を聞いて九条さんははあとため息を漏らす。
「あなたは人が良すぎます」
「そうですかね?」
「まあ、光さんが言うのなら受けましょう。その代わり、公私混同と言われようと、あなたが嫌な気持ちになったら依頼は断ります。うち以外も依頼を受けてくれるところはたくさんありますから、そっちを紹介すればいいだけのこと。無理はしないでください」
それだけ言った九条さんは、再び扉を開けて事務所へと入っていった。彼の白い背中を見つめ、今もらった言葉がとてつもなく嬉しくて微笑む。
一番に私の気持ちを聞いてくれるの、優しいなほんと。
私も戻ろうとしたとき、にゅっと伊藤さんの顔が中から出てきて驚きの声を上げる。彼はささっと外に出てくると、しっかり扉を閉めて心配そうに私に声をかけたのだ。
「光ちゃん大丈夫!? 別に無理せず断ればいいんだよ」
九条さんと同じことを鼻息荒く言ってきた彼に、私はつい笑ってしまった。勿論面白くてじゃなく、嬉しくて、だ。
伊藤さんは不満げに口をへの字にし、腕を組む。
「先に謝っておくけどごめんね。人の家族や友人を悪く言うのは嫌いなんだけどさ、光ちゃんの立場を考えずにここに直接来るっていうのはちょっと配慮が足りないと思うんだよ。一緒にいたら嫌な思いするかもよ」
「ありがとうございます。でも今九条さんにも言ったんですけど、やっぱりうちで受けてみたらどうかなって。霊を信じてないからこそ、誠心誠意働きたいです」
私の答えに伊藤さんは仕方ないとばかりに息を吐いた。軽く頭を掻いたあと、私に言い聞かせるように言う。
「無理だって思ったら言うこと! すぐにやめちゃえばいいんだから!」
これまた九条さんとおんなじこと言ってる。私は目を細めて微笑んだ。
聡美と信也が並んでいる光景を見て、平気だとは言えない。思い出が蘇るし、胸の奥がどこか痛い。それでも、九条さんや伊藤さんの顔を見るだけで落ち着ける気がする。きっとそれなりに乗り越えられたのだ、と思う。
伊藤さんは渋々事務所に戻る。私もそれに続いて中に入ると、九条さんが信也たちに調査の進め方について説明していた。二人は頷きながら聞いている。
「……という流れですのでよろしくお願いします。住所は伊藤さんに伝えてください、準備が出来次第伺います」
立ち上がろうとした九条さんに、聡美が明るい声で話しかけた。
「あの! 九条さん、何かあったとき連絡取れたら楽なので、連絡先教えてください!」
彼女はニコニコしながらスマホを取り出す。隣の信也は特に何も言わずに黙っている。聡美は続ける。
「九条さんみたいなかっこいい人の連絡先とかテンション上がっちゃいますね! あ、伊藤さんも教えてください! いーなーお姉ちゃんこんな人たちに囲まれて仕事してて。代わってほしーい」
突然そんなことを言い出した妹に慌てる。私とは性格が真逆だとは思っていたが、それにしてもこんなに奔放だっただろうか? 隣に彼氏がいるのにその言動はいかがなものか。
私が口を出すより前に、九条さんが心底めんどくさそうな顔で答えた。
「事務所用の電話番号を伊藤さんから聞いてください」
「プライベートでもいいんですよー?」
「そもそも我々ではなくまず光さんに聞くのが筋なのでは。まあ、第一に依頼人である原さんと連絡が取れればいいのであなたの連絡先は不要です」
ピシャリと断られ聡美は膨れた。だがすぐにデスクに座りパソコン操作をしている伊藤さんの方を向いた。
「じゃー伊藤さん! 事務所の電話番号とー、お友達になりたいので伊藤さんのばん」
「あ、僕携帯持ってないから」
彼はパソコンから目を離さずにっこり笑ったまま答えた。この時代にありえない断りの文句に、聡美は再び膨れた。
信也が立ち上がり話を切るように頭を下げる。
「では俺は家に帰ってます。よろしくお願いします。住所はこのメモに」
「あ、ちょっと待ってよー」
聡美も慌ててソファから立ち信也を追いかけていく。私は迷ったが、聡美の背中を追った。事務所の扉を開けた信也はさっさとエレベーターに向かって歩いてく。
外に出たところで私は聡美の腕を掴んだ。長い髪を揺らしながらこちらを振り返った彼女は首をかしげる。
「何?」
私は信也がだいぶ先を歩いていることと、背後のドアがしっかり閉まっていることを確認し小声で言った。
「聡美、信也の前でああいうの大丈夫なの? 怒ってない?」
「え?」
「だって、彼氏の前で他の男の人のプライベートな連絡先聞くなんて」
私がそう言うと、聡美はああ、と何かを思い出したように声を漏らす。そして笑いながら言った。
「もう別れてるから私たち」
「…………え」
「一年近く経つんだよ? 別に不自然じゃないでしょ。いい友達としてうまくやってるの、気まずくなりたくないから昔の話は蒸し返さないでね。あ、復縁したいなら今のうちかもよ」
「復縁なんて、そんな」
「あーそっか彼氏いたんだっけ。でも二人ってあんまりそれっぽくないよね。信也の方が合ってると思うよ」
それだけ言い残すと、聡美は私から離れた。聡美の巻き髪の向こうに見える信也の背中を見て、不思議な気分になる。
そっか、別れたんだ。そりゃカップルにはよくあることだよね。
人と人はずっと歩んでいくのは難しい。だからこそ、結婚とまで言ってくれた時は嬉しかった。あの頃は彼とそうなることを信じて疑わなかった。
ズキズキと痛む体の奥底の古傷を隠すように手を胸元で握ると、私は事務所に戻って行った。
「いいのですか、依頼を受けても」
「はい、本当に困ってるようですし」
「私があなたの立場ならお引き取り願います」
「確かに気まずいですけど……もしこのあと信也たちがどっかの除霊師のとこに行って、麗香さんみたいな本物だったらいいけど偽物のところに行っちゃったら。また二人は霊に対して嫌なイメージを持つでしょう?
うちで見た方がいいかなと思うんです。解決できるとは限りませんが……それに、二人とも、私の人生において重要な人たちであるのには間違いないんです」
私の言葉を聞いて九条さんははあとため息を漏らす。
「あなたは人が良すぎます」
「そうですかね?」
「まあ、光さんが言うのなら受けましょう。その代わり、公私混同と言われようと、あなたが嫌な気持ちになったら依頼は断ります。うち以外も依頼を受けてくれるところはたくさんありますから、そっちを紹介すればいいだけのこと。無理はしないでください」
それだけ言った九条さんは、再び扉を開けて事務所へと入っていった。彼の白い背中を見つめ、今もらった言葉がとてつもなく嬉しくて微笑む。
一番に私の気持ちを聞いてくれるの、優しいなほんと。
私も戻ろうとしたとき、にゅっと伊藤さんの顔が中から出てきて驚きの声を上げる。彼はささっと外に出てくると、しっかり扉を閉めて心配そうに私に声をかけたのだ。
「光ちゃん大丈夫!? 別に無理せず断ればいいんだよ」
九条さんと同じことを鼻息荒く言ってきた彼に、私はつい笑ってしまった。勿論面白くてじゃなく、嬉しくて、だ。
伊藤さんは不満げに口をへの字にし、腕を組む。
「先に謝っておくけどごめんね。人の家族や友人を悪く言うのは嫌いなんだけどさ、光ちゃんの立場を考えずにここに直接来るっていうのはちょっと配慮が足りないと思うんだよ。一緒にいたら嫌な思いするかもよ」
「ありがとうございます。でも今九条さんにも言ったんですけど、やっぱりうちで受けてみたらどうかなって。霊を信じてないからこそ、誠心誠意働きたいです」
私の答えに伊藤さんは仕方ないとばかりに息を吐いた。軽く頭を掻いたあと、私に言い聞かせるように言う。
「無理だって思ったら言うこと! すぐにやめちゃえばいいんだから!」
これまた九条さんとおんなじこと言ってる。私は目を細めて微笑んだ。
聡美と信也が並んでいる光景を見て、平気だとは言えない。思い出が蘇るし、胸の奥がどこか痛い。それでも、九条さんや伊藤さんの顔を見るだけで落ち着ける気がする。きっとそれなりに乗り越えられたのだ、と思う。
伊藤さんは渋々事務所に戻る。私もそれに続いて中に入ると、九条さんが信也たちに調査の進め方について説明していた。二人は頷きながら聞いている。
「……という流れですのでよろしくお願いします。住所は伊藤さんに伝えてください、準備が出来次第伺います」
立ち上がろうとした九条さんに、聡美が明るい声で話しかけた。
「あの! 九条さん、何かあったとき連絡取れたら楽なので、連絡先教えてください!」
彼女はニコニコしながらスマホを取り出す。隣の信也は特に何も言わずに黙っている。聡美は続ける。
「九条さんみたいなかっこいい人の連絡先とかテンション上がっちゃいますね! あ、伊藤さんも教えてください! いーなーお姉ちゃんこんな人たちに囲まれて仕事してて。代わってほしーい」
突然そんなことを言い出した妹に慌てる。私とは性格が真逆だとは思っていたが、それにしてもこんなに奔放だっただろうか? 隣に彼氏がいるのにその言動はいかがなものか。
私が口を出すより前に、九条さんが心底めんどくさそうな顔で答えた。
「事務所用の電話番号を伊藤さんから聞いてください」
「プライベートでもいいんですよー?」
「そもそも我々ではなくまず光さんに聞くのが筋なのでは。まあ、第一に依頼人である原さんと連絡が取れればいいのであなたの連絡先は不要です」
ピシャリと断られ聡美は膨れた。だがすぐにデスクに座りパソコン操作をしている伊藤さんの方を向いた。
「じゃー伊藤さん! 事務所の電話番号とー、お友達になりたいので伊藤さんのばん」
「あ、僕携帯持ってないから」
彼はパソコンから目を離さずにっこり笑ったまま答えた。この時代にありえない断りの文句に、聡美は再び膨れた。
信也が立ち上がり話を切るように頭を下げる。
「では俺は家に帰ってます。よろしくお願いします。住所はこのメモに」
「あ、ちょっと待ってよー」
聡美も慌ててソファから立ち信也を追いかけていく。私は迷ったが、聡美の背中を追った。事務所の扉を開けた信也はさっさとエレベーターに向かって歩いてく。
外に出たところで私は聡美の腕を掴んだ。長い髪を揺らしながらこちらを振り返った彼女は首をかしげる。
「何?」
私は信也がだいぶ先を歩いていることと、背後のドアがしっかり閉まっていることを確認し小声で言った。
「聡美、信也の前でああいうの大丈夫なの? 怒ってない?」
「え?」
「だって、彼氏の前で他の男の人のプライベートな連絡先聞くなんて」
私がそう言うと、聡美はああ、と何かを思い出したように声を漏らす。そして笑いながら言った。
「もう別れてるから私たち」
「…………え」
「一年近く経つんだよ? 別に不自然じゃないでしょ。いい友達としてうまくやってるの、気まずくなりたくないから昔の話は蒸し返さないでね。あ、復縁したいなら今のうちかもよ」
「復縁なんて、そんな」
「あーそっか彼氏いたんだっけ。でも二人ってあんまりそれっぽくないよね。信也の方が合ってると思うよ」
それだけ言い残すと、聡美は私から離れた。聡美の巻き髪の向こうに見える信也の背中を見て、不思議な気分になる。
そっか、別れたんだ。そりゃカップルにはよくあることだよね。
人と人はずっと歩んでいくのは難しい。だからこそ、結婚とまで言ってくれた時は嬉しかった。あの頃は彼とそうなることを信じて疑わなかった。
ズキズキと痛む体の奥底の古傷を隠すように手を胸元で握ると、私は事務所に戻って行った。
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