視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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待ち合わせ

違和感

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 いつのまにか自分の目からこぼれていた涙を服の袖で乱暴に拭いた。黙っていた伊藤さんが苦しそうな声を出す。

「そんな……駄菓子屋の人の話じゃ、仲良さそうな普通の親子だって話だったのに。幸せそうな、どこにでもいる母親と子供だって。虐待していただなんて」

「私も信じられません。エレベーターで会った明穂さんは、悲しそうにまことちゃんを探していたんです。だから、大事に育てているもんだと……」

 自分も馬鹿だった。お母さんは私をすごく大切にしてくれたからそのことでいっぱいだった。いや、ある意味それがお母さんの素晴らしいところなのだ、私から不幸の人生を忘れさせてくれるほどの愛情だったから。

 お父さんはそんな愛をくれなかったこと、忘れていた。

 今現代も、親から子へ行われる虐待は後を絶たない。テレビを付ければそういったニュースはいやでも目にする。最悪の場合命を奪われた子供たちも大勢いる。

 誰かに助けを求める術さえ知らず、ただ苦痛に耐え続けた挙句殺されている。きっと最期まで親を信じながら。

 私たちは忘れるべきではない。いつだって、無償の愛をくれるのは親から子ではなく、子から親へなのだ。

「まことちゃんを明穂さんに会わせるべきじゃありません、まことちゃんは安らかに眠れなくなってしまいます」

 私が涙ならがに訴えると、九条さんは頷いた。だが、どこか腑に落ちない、といった顔で、だ。

 彼はどこか一点を眺めながら考えるようにいう。

「それに関しては同意です。このままでいけば明穂さんの浄霊は不可能なので除霊になるでしょう。しかしどうもしっくりこない。虐待するような親は、子供をアクセサリーや都合のいい道具として見ていることもあるので、生前は虐げておきながら、一人で寂しくなった今まことさんを探している、という展開はまあ分からなくもないです。
 それより、そんな酷い虐待をしてる母と子が幸せそうに待ち合わせをするなんて不自然です。それに駄菓子屋にも頻繁に通っていたという事実も」

 確かにと思う。伊藤さんが答えた。

「カモフラージュとかじゃないですか? たまには外で幸せアピールして、虐待の真実を隠そうとしてたとか」

「なるほど、まあ、ありえなくはないですが」

「現に駄菓子屋の人は虐待についてはまるで気づいていなかったみたいですし。それか、実は明穂さんの方は加担してなかった、とかですかねえ」

 その言葉に反論したのは聡美だ。強くいう。

「そりゃ夢に女の人は出てきてなかったけど! あの口ぶりじゃ加担はともかく黙認はしてたよ、黙ってるならやってるのと同罪だって!」

 言いながら彼女の目も真っ赤になっている。私はその背中にそっと手を置いてさすりながら言った。

「まあ、黙認しててやばいと思ってたから、伊藤さんの言うようにカモフラージュしてたんでしょうか。時々幸せ親子を演じるとか。普通にしてれば虐待されているとは分かりにくいのかな、思えば腕とかかなり細かったけど、階段で見た時は長袖着てて気づかなかったし」

 そう言いかけたとき、はたと自分で止まる。

 白い服には汚れが多く付着していた。最初見た時は事故に遭った時汚れたんだと思っていたけど、さっき見た映像もあの服だった、多分清潔にしてもらえなかった汚れた。

 それに鼻血も目元のアザも事故による外傷だと思ってた、でも男に投げ飛ばされた後鼻血を出して目の周りを真っ赤にしていた。

 階段で現れた姿は全部、事故によるものじゃなくて……

「光さん、長袖を着てたんですかまことさん」

「え?」

 突然言われて顔を上げる。九条さんはどこか驚いたような顔をしていた。私はとりあえず頷く。

「はい、言ってませんでしたっけ。ちょっとサイズ大きめな白い長袖服です。今思うとちゃんと体に合った服を買ってもらえなか」

「あなたは明穂さんの霊を見た時こう言ったはずですよ。

 『半袖から見える腕も血まみれで痛そうだった』と」

「あ!」

 言われて思い出した、確かにそうだ。明穂さんは半袖の涼しげなブラウスを身に纏っていた。対してまことちゃんは長袖の服。
 
 季節が違う??

 ぶわっと違和感が糸で結ばれていく。もしかして根本的に大きな勘違いをしていた?

 今までの疑問の答えが繋がっていく。私が勢いよく上を見上げると、九条さんも気づいたように一つ頷いた。それは伊藤さんも同じだったようで、大きく息を吐き天井を仰ぐと、すぐさま控室からノートパソコンを持ってきて床に座り込む。何かを調べ始めた。

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