視えるのに祓えない~九条尚久の心霊調査ファイル~

橘しづき

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憧れの人

知っている人

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 九条さんもすぐに、そのことに気がついた。

「影山さん?」

「……まさか、いや、そんな。でも、時期も」

 小声で一人呟いた。九条さんが鋭い声で問いかけた。

「あなたここを知っているのですか? 一体ここはどこですか、誰か知り合いが?」

 質問に、影山さんはゆっくり首を振った。乾いた唇を少し舐め、彼はいう。

「知り合い、ではありません。ですが私は知っている。いえ、あなた方も」

「え?」

 私たち三人の声が重なった。影山さんは目に戸惑いの色を見せながらこちらを見る。

「日比谷 輝明」

 その名前が耳に入った時、どこかで聞いた名前だと思った。だがすぐには思い出せず、はて、と首を傾げる。だが伊藤さんと九条さんは瞬時に反応した。大きな声でまず伊藤さんが言う。

「日比谷輝明!?」

 私一人だけ追いつけていないことに慌てる。そんな様子に気がつかないようで、九条さんは影山さんに言った。

「まさかあの日比谷輝明ですか? なぜ彼が?」

「あ、あの、どなたでしたっけ、日比谷さんって……」

 恐る恐る声を上げた。聞いたことはあるはずだけど分からない。自分の記憶力の悪さを恨んだ。

 伊藤さんが真剣な顔で私に答えてくれた。

「光ちゃん、テレビで目にしてなかった? 死刑執行前に死刑囚が病死したニュース。ここ最近それで持ちきりだったよ」

「あ!」

 私は声を上げた。その説明で一気に理解したからだ。

 日比谷輝明、それは確かにニュースで何度も耳にした死刑囚の名だった。

 死刑確定していた日比谷が、執行前に突然病死してしまったというもの。結構昔に起こった事件なので、内容自体は詳細を知らなかったのだが、日比谷が死亡してしまったことでよくニュースで取り扱われるようになり私も認識していた。

 そうだ、彼は確か……

「若い女性を無差別に殺していた人、でしたよね?」

 私の言葉に三人が頷いた。九条さんが続けて説明する。

「今からもう十四、五年は前だったかと思います。若い女性の死体が次々発見され、合計五人の犠牲者が出た事件でした。そのうち四人は絞殺で、同一犯であると始めから言われていましたが、なぜか逮捕までに結構な時間を要してしまった。その犯人が日比谷輝明です」

 体がつい強張った。そうだ、世間を大きく騒がせた事件だったという記憶だけはある。影山さんが変わり説明を続けた。

「被害者たちは完全に無差別に選ばれた女性たちだったそうです。面識もなく、若く清楚という共通点があっただけ。残忍なことに、女性を連れ去った後もすぐには殺さず、監禁し恐怖を植え付け、数日後殺害していました。そうか、思えば今回の被害者たちも、怪奇な現象が起きて数日は無事だった……同じ手法です。彼は相手が恐怖に怯える状態に、快感を覚えるらしいですから。
 日比谷は裁判の末、死刑が確定されていましたが、執行はまだだった。
 当時世間をかなり騒がせた事件の犯人が、結局は法の裁きではなく突然病死したということで、今再度注目された事件だったのです」

 さらに伊藤さんが嫌悪感剥き出しの表情で言った。

「しかも日比谷の何が異常って、逮捕当時二十一歳だった彼は随分綺麗な顔をしていたってことで、未だに根強いファンがいるってことだよ。まあ、ああいう残忍な殺人を犯した人間に憧れる人は、いつの時代も少なからずいるもんだけどさ、日比谷は熱狂的ファンが特に多いらしい。理解できないけどね」


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