英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら

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再会と家族の物語 1

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 ――魔石を鑑定し、納品する。
 鑑定した分の代金を受け取り、娘との平凡な日常を守る。
 王都から遠く離れた雪深いこの地で暮らしはじめてから、三年が経とうとしていた。

「お母さま~見て!!」

 愛娘シェリアは、淡い茶色の髪に珍しい紫色の瞳を持つ。
 三歳になった彼女は、最近魔石に興味を持ちはじめている。

 ――視線を向けた先で、平凡な日々が音を立てて崩れようとしていた。

 赤、青、緑、黄色、さらには黒と白銀……。
 鑑定待ちの魔石が、まるで夜に浮かぶ星々のように光り輝き、娘を取り囲んでいる。

 もちろん、あの日彼から受け取った紫の魔石も光り輝いていた。

 その光景は美しい。まるで、幻想的な空間に淡い茶色の髪と紫色の瞳を持つ小さな精霊が現れたかのようだ。

 魔石は同属性の魔力に反応し、光り輝く性質を持つ。
 魔力を溜め込んだり、増幅させたり……魔術師の杖やタリスマン、そして魔道具の動力源として活用される。

 魔石を光らせるだけなら、魔力を持っていさえすれば一般人でもできる。
 問題は、私の愛娘シェリアが光らせているのが、この部屋にある魔石全部であることだ。

「全属性の……魔力」

 私のように、魔力を持たない人間と同じくらい、全属性の魔力を持つ人間は少ない。
 現在、このガイフェルト王国で、全属性の魔力を持つのは……この国の英雄の一人である筆頭魔術師カナン・オルトただ一人だ。

 しかし、魔力を持たない私の娘であるシェリアが、全属性の魔力を持っていたとしてもそこまで驚くことではない。だって、彼女は英雄カナン・オルトの娘なのだ。

 ――しかし、住みやすい王都からこの雪に閉ざされた辺境リーゼに逃れてまで、私はその事実を隠し通してきた。彼女を利用されないために……。そして、彼女を守り通すために。

「お母さま、シェリーすごい?」
「ええ……素晴らしい力よ。でも……」

 ――誰にも言ってはいけないわ。
 そう続けようとしたとき、一際輝く白銀の魔石から一匹の生き物が現れた。

「ふふ……見つけたって言っているよ?」

 ふっくらとしたしっぽを持つ生き物は、白銀の毛並みを持つ。
 その瞳は、美しい銀色をしていた。

 ――とても小さくて可愛らしい小動物に見えるが……間違いなく魔石を介して現れた。

「光の精霊」
「ん~違うよ。マリル」
「名前を……教えてくださったの?」

 高位の存在である精霊は、人の子に名を教えたりしない。よほど気に入られでもしなければ……。

「そうだよ~お父さまの精霊さんだから、特別にだって。でも、急がなくちゃ」
「お父様って……ねえ、何を」
「悪いことをしていた竜をお父さまが倒したから、マリルも力を取り戻せたんだって。でも、急がなくちゃ、お父さまが死んじゃう」
「え……?」

 まるでぬいぐるみのようにシェリアに抱き締められた光の精霊マリル。
 銀色の瞳がこちらに向けられたと思った直後――部屋の床を埋め尽くすほどの魔法陣が展開された。

 精霊は人に力を貸すが魔法陣を描けるのは人だけ――描いたのはシェリアだ。
 しかし魔法陣は精密で歪みがなく……とても三歳の子どもが描き出したとは思えなかった。

 だが、彼女の父であるカナン様が精霊に力を借りて魔法陣を描き出したのも、わずか三歳のみぎりであったという。

 天才は存在する。そして、父から娘にその才能は受け継がれたようだ。

「お父さま、こっち向いて手を伸ばしてよ」

 魔法陣の上に浮かんだ大きな鏡。
 鏡は私の姿を薄ら映しているが……重なるように別の光景も映し出していた。
 血だらけになった男性が、よろめきながら立っている。

「カナン様!!」

 彼の目の前には、青い体躯の竜が伏していた。
 しかし、彼は今にも倒れてしまいそうだ。
 そうなったら、もう起き上がることはないように思えた。

 ――私がいる北端の反対側、南の防衛線に彼はいる。

 おそらく、目の前に倒れている竜こそが、知性を持ち、この王国を滅ぼそうとした邪竜なのであろう。

 振り返った彼の髪は漆黒で、瞳は紫色……シェリアと同じ色をしていた。
 無我夢中で駆け寄り、鏡面に手を差し伸べる。
 水に手を入れたように波紋が広がり、私の手は鏡面の向こう側へ……。

 ――彼は別れのあの夜のように、困ったような笑みを浮かべ……私の手を掴んだ。

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