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雪に閉ざされた楽園 4
しおりを挟む「なんだ……カナン君じゃないか」
「ご無沙汰しております」
叔父様はデッキブラシを下ろし、ホッと息を吐いた。
「そうか――ここにいるということは、ようやく邪竜を倒したのか」
「ええ」
「おかえり、苦労したな……」
叔父様が、まるで我がことのように泣き出した。
彼は普段からお金がすべてで、この世にお金で買えない物はほとんどないなどと言っているけれど、人情肌で涙もろい。
そんな叔父様だからこそ、私たちは彼を頼りこの場所にいるのだが……。
「すまない……まさか、カナン君だとは思わずに」
「いいえ……ここまで、シェリアとフィアーナを保護していただいたこと、心から感謝しております」
「他人行儀だなぁ……結婚するんだろう? そうしたら君は俺の甥だ」
「結婚」
カナン様の頬がみるみる赤くなった。
戦っている姿は鬼神のようで、魔獣たちも尻尾を巻いて逃げ出すと言われている人と同一人物とは思えない。
「変わらないなぁ。それで、王都に二人を連れて行くのかい?」
「それは」
「――君がこれ以上、フィアーナを待たせる気なら、全力で結婚に反対させてもらう」
「叔父様……!」
叔父様は手を差し出し、私を制止した。
「シェリアの成長を見守ることもせず、魔獣と戦うだけの人生でいいのか?」
カナン様は少しの間黙り込んでから、ゆっくりと口を開いた。
「――少しだけ、シェリアを見ていていただけますか?」
「いいよ。シェリア、叔父さんと一緒にいようね?」
「シェリー、叔父さまといいこにしてる!」
カナン様が、私の手を引いた。
「少しだけ外に行こう」
「ええ……」
「お父さま、がんばってね~!!」
「ああ、待っていてくれ」
もしかして、シェリアより私のほうが状況を理解できていないのだろうか……。
外に出れば、いつの間にか、夜の帳が下りて空一面に星が輝いていた。
カナン様は私と向き合うと、少し緊張しているような表情を浮かべた。
「戦うとか、戦わないとか……王都に行くとか行かないとか、それ以前に、君に伝えなければいけないことがある」
「カナン様」
「あの夜は、生きて戻れないと思っていたから……君を求めていたのに、言えなかった」
カナン様は、ゆっくりと私の手を握った。
跪いた彼の唇が、私の手の甲に触れる。
ここまでは、あの夜と同じだ。
――美しい紫色の瞳は、今宵の星を映したかのように輝いている。
「愛している。王都に一緒に来てくれないか。君たちは俺が守るから」
私の手を握り、カナン様が頬を寄せる。
「――もう、君に会えないのは、嫌だ」
カナン様は、あの日の言葉を打ち消す。
それは、私の願いでもあった。
「待っていたんです……もう会えないなんて、耐えられないから」
私たちは見つめ合い、ゆっくりと距離を縮めた。
柔らかい感触が触れ合う。
四年ぶりの口づけは、少し塩辛い。
「答えをくれないか。君がどう答えようと、二人のことを守り抜いてみせる」
カナン様は吹っ切れたように力強く笑った。
もちろん、解決しなければいけないことは山ほどあるだろう。
でも、私の答えは決まっている。
私だって、カナン様に会えないのは、もう嫌なのだ。
「連れて行って下さい。王都へ」
「……ああ、ついてきてくれ」
こうして私たちは、王都に戻ることになった。娘が天才であることを隠しながら。
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