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王都への旅 1
しおりを挟む精霊の姿は、通常は光り輝く小さな球体に見える。
しかし、光の精霊マリルは、狐というか栗鼠というか……見たことのない小動物の姿をしている。
精霊は本来それぞれに姿形があるのだという。けれど、通常は人間界より高位の次元にある精霊界にいるときの姿を顕現することはない。
「マリル!」
シェリアがマリルを追いかけている。
これだけ見れば、幼い少女が小動物を追いかける微笑ましい姿に見えるが……。
――光の精霊と闇の精霊は、火、水、風、土の四大元素を司る精霊たちよりも格が高いのだという。
闇の中に光が生まれた。それが、創世神話の始まりなのだから。
――カナン様が強力な力を持っている理由の一つは、精霊たちの力を使うことができるからだ。
カナン様は火、水、風、土と闇の精霊から名前を教えられているという。
精霊が人に名前を教えるというのは特別なことなのだ。
「捕まえた~!」
シェリアがマリルを捕まえて抱きしめた。
力加減がわからない幼児が抱きしめるもので、マリルはちょっと苦しそうにも見えるが……。
ゆらゆらと楽しそうに尻尾を振っているのだから、機嫌がいいのかもしれない。
馬車が到着したようだ。
私たちは今日、王都へと帰還する。
馬車の前にはカナン様がいる。
右目を失い、黒い眼帯をしているが、その美貌は相変わらずだ。
私と一緒にいるときは、へにゃりと笑う可愛い人なのだが、今の彼は英雄魔術師としての厳しい表情を浮かべている。
カナン様が邪竜を倒したという情報は、すぐに王国中を駆け巡ったが……肝心の英雄が帰還しないことで様々な憶測が飛び交ってもいた。
どの場所にいるのかは、秘匿されていた。
王家から英雄が生きていることは確実であると報じられたため、怪我をして救護所で傷を癒しているのだと考える者が多かった。
「半分事実ではあるけれど……真実でもないわね」
魔力を持つ者は持たざる者より強靭な体を持つ。
魔力がなくなると命に関わるという欠点以外は、魔力によって傷の治癒も早く、力も強く、何よりも魔法陣を描くことができれば魔力量と属性に応じた魔法が行使できる。
――カナン様がこちらに近づいてきた。
叔父様の服を借りているため、平民の出立だ。しかし、その威厳は隠し通せていない。
彼は、魔術師爵という一代限りの特別な爵位を持っている。
また、国王にすら膝をつくことが強要されない筆頭魔術師の地位にいる。
――筆頭魔術師ほどの者が力を振るえば、王都など一夜で消えるという。
その力は、王国にとっての脅威であると同時に他国やすべての魔術師に対しての抑止力でもある。
だからこそ、筆頭魔術師は国王陛下の直属という扱いなのだ。
「さて、王都へ向かうか……」
「ええ、久しぶりに戻ります」
「――君には苦労を」
カナン様の口がそれ以上を告げるのを私の指が阻んだ。
柔らかい唇に指先が触れる。
「それは言わない約束です」
「――わかった。君たちにはこれからその分まで幸せになってもらうとしよう」
「お父さま、お母さま~!」
シェリアはすでに馬車に乗り込んで、こちらに手を振っている。
三歳児を連れての旅なのだから、余裕を持った日程を組んでいる。
シェリアはあまり物怖じしない性格ではあるが、カナン様には特にすぐに懐いた。
同じ魔力が流れていることを感じるからなのだろうか……それとも。
二人の瞳はお揃いの紫色。
私はまだ、二人の他には紫色の瞳の持ち主を見たことがない。
「ほら、行くよ」
「叔父様……」
叔父様もすでに馬車に乗り込んでいる。
どうして彼が一緒にいるのかといえば、今回の馬車が彼の持ち物だからだ。
貧乏男爵家の末息子であった彼は、強い魔力を持っているが魔力ではなく金こそ尊ばれるべきという信念で商会を立ち上げた。
彼の名であるアルフレド商会は、ここ三年で急速に大きくなっているらしい。
今や、質のいい魔石が欲しければアルフレド商会に行けばいい、と言われるほど拡大しているのだが……。
そこに自分が一枚噛んでいるなんて、今の私が知る由もない。
馬車はゆっくりと走り始めた。
光の精霊マリルが機嫌よく光を放つたび、馬車の轍が通り過ぎた場所には、小さな花が咲くのだった。
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