この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら

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瑠璃色の瞳の姫、東端の地

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 翌朝、ベエアスに瑠璃色の宝石のイヤリングを返してもらおうと意気込んだルナシェは、ベリアスの執務室を訪れた。
 早朝だというのに、ベリアスはすでに大量の書類を前に、仕事を始めていた。

 まだ十分にブラッシングされていないのか、いつもより癖が強いような髪の毛に寝癖がついている。

「ルナシェ、早いな?」
「――――おはようございます。ベリアス様」

 ルナシェは、ベリアスのそばに歩み寄る。
 そこで、信じられない物を見た。

「ベリアス様、それ」
「ああ、よくできているだろう?」

 ベリアスの腰にいつでも差されている剣。第一騎士団長であるベリアスは、特例として王族の前や、夜会の席でも、帯剣を許されている。

 そのベリアスの愛剣に、瑠璃色の宝石が飾られている。
 そして、ベリアスの胸元の飾り紐にも……。

「どういうことですか、加工するの早すぎませんか。昨日の今日ですよ?!」

 けれど、それらの加工、宝石の枠も繊細な意匠で、とても短時間で用意されたようには思えなかった。
 つまり、ベリアスの昨日の発言は、思いつきなどではなく以前から準備されていたと言うことだ。

「君の色を身につけることが出来て、うれしいよ」
「うっ、そんな」

 笑顔のベリアスが、ルナシェを抱きしめる。
 ルナシェの色がまとえるのだと、こんなにもうれしそうに笑うベリアスに、ルナシェはそれ以上なにもいえなくなってしまった。

 そのまま、ベリアスの手が、ルナシェの首に掛かったままの瑠璃色の宝石で彩られたネックレスに添えられる。

「これは……。ダメですよ? 大切な思い出なんですから」
「そう? まあ、確かにこれは君が持っていた方がいいだろう。なかなか、俺と同じ色合いの石を見つけるのは難しくて……。このサイズが用意できるのは、先になりそうだ」
「……そうですか」

 ベリアスが手にしたままの宝石を見つめる。

(本当に、この宝石が、やり直しの元になったのかしら?)

 断頭台を前にした時の記憶は、今も薄らぐことなくルナシェの心を締め付ける。
 その恐ろしさは、それを前にしたことがある人間にしかわからないだろう。

「ベリアス様」
「王国の東端、ギアードを賜ることが、正式に決まった」

 ギアード自体には、大きな産業もなく、人口も少なく、大きな価値はない。
 ただ、魔塔に行くにはギアードを通る必要があると言われているだけで。

「なあ、グレイン」

 部屋の端に控えていたグレイン。
 商人ガストから、紹介された黒い髪と瞳の執事グレインは、ルナシェがベリアスの屋敷に住み始めることになったときに、当然のようについてきた。
 切れ長の目、そつのない行動、完璧な執事として、屋敷の従業員達は、なぜかすでにグレインの指示に従って行動している。

 そして、いつの間にかベリアスの仕事の補佐までしている。

「はい。旦那さま」
「グレインは、東方の出身だったな? そして、魔法についても詳しい」
「……そうですね」
「瑠璃色の宝石には、グレインの魔力が込められているという認識でいいか?」

 部屋の端に控えていたグレインが、ベリアスの横に立つ。

「旦那さま。あなたも、俺の出身地について、深く詮索しませんでしたね。あなたのお力なら、調べることだって出来たでしょうに」
「――――ルナシェが信じるといった人間を疑うつもりはない」
「……まあ、そうでなければ、俺はとっくに魔塔に帰ったでしょうが」

 薄々、ルナシェもベリアスも気がついていた。
 グレインの存在は、あまりに優秀で、異質だ。

「姫様」
「……グレイン、話してほしいの。だめかしら?」

 グレインの背丈は、長身なベリアスと同じくらいある。
 ルナシェが話をするには、見上げなければいけない。

「まさか、ギアードを手に入れるとは、思いませんでした」
「あの地を手に入れることが、魔塔との接触の唯一の手段だ」
「そうですね。あの場所は特別で、そして瑠璃色の瞳を持っておられる姫様にこそふさわしい」

 その手から現れた青い炎は、ベリアスとルナシェ、グレインを中心に円を描くように広がった。
 ほのかな青い光を放ち、たちどころに消える。

「――――これで、誰にもこの会話は聞かれないでしょう」

 グレインは、話し始める。
 それは、魔塔に伝わる、瑠璃色の宝石と瞳にまつわる物語だった。
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