この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら

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願いは宝石にではなく

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 瑠璃色の部屋で、黙ったまま向かい合う兄妹。
 状況を察して、ため息を一つついたベリアスは、ルナシェを再び抱き上げる。

「ベリアス様……」
「心配するな。すべてうまくいく」

 先ほど階段を降りるために抱き上げた時は小さな抵抗を見せたルナシェは、そんなそぶりも見せずに、不安そうにベリアスのたくましい首に、細い腕を回した。

「アベル殿? 俺の婚約者を悲しませるのは、やめていただきたいのですが」
「ああ、反省している」
「……ルナシェの幸せには、あなたが必要なのだと思います」
「……は。兄離れできない妹だ」

 そう言いながら、アベルこそ、今度こそルナシェのために、ミンティア辺境伯領も、貴族としての責務も、そしてその命すら捨ててしまいそうだとベリアスは思う。
 もちろん、ベリアスだって、ルナシェを思う気持ちは負けはしないが。

 ルナシェは、強くベリアスに抱きついている。
 おそらく、ベリアスが予想していることと、ルナシェが気がついてしまったこと、そしてアベルの覚悟は共通しているに違いない。

「――――俺は、ルナシェの大切なものを守ると、昔から決めています」
「ベリアス殿。その結果が、前回の悲劇だ」
「……生きているだけで幸せだとは思いません」

 もちろん、ベリアスはルナシェが生きるためであれば手段を選ばないだろう。
 アベルの犠牲がそのために必要ならば、それすら決断するに違いない。

「俺は、とても強欲なのですよ。ルナシェの笑顔のために、手段を選ばない程度には」
「……優先順位を間違えるな」
「わかっています。最終手段にとっておくというだけの話です」

 その会話を、どこか遠くで聞きながら、ルナシェは考えていた。
 きっと、ルナシェが思い出せていない何かに、ルナシェの兄、アベルは囚われている。

(瑠璃色の瞳なんて、ほしくなかった。たった一人の家族と、そして決して多くない周囲の大切な人に、幸せになってほしいだけなのに)

 そんなルナシェ背中を、ベリアスの手が安心させるようにそっと叩く。

「少し、ルナシェと話がありますので、一旦失礼します。くれぐれも、早まりませんように」
「……ああ」

 魔塔の階段を、ルナシェを抱き上げたままベリアスが昇っていく。
 その足取りには、迷いがない。

 ルナシェだけだ。ルナシェだけが、迷ってしまったように、自分が進む道筋を見つけられずにいる。
 階段を上りきった先、魔塔の最上階は、すでに夜の帳が降りようとしている。
 先ほどよりも冷たい風が、ルナシェの細い白銀の髪を揺らす。

「ルナシェは、もっと素直になればいい」
「……ベリアス様」
「泣きたいときには泣けばいいし、言いたいことは言えばいい」

 ボタボタとこぼれ落ちる涙を、そっと拭うと、ルナシェの細い体をベリアスは抱きしめた。
 
「そして、俺に願い事を言えばいい。こんな宝石にではなく、俺にだ」
「っ……、私が運命を変えたら、お兄様に何かが起こるなんて、嫌です」
「……わかった」

 短くそれだけを口にして、ベリアスはそっとルナシェの頭頂部に口づけを落とした。
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