この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら

文字の大きさ
60 / 67

胸に光る宝石の色

しおりを挟む


「ベリアス様」

 頭頂部から離れた唇は、頬に、まぶたに、そして唇へと落ちてくる。
 全身が、熱く燃えるようになるのを感じて、強くまぶたを閉じたルナシェは、ペンダントが急に外されたことに驚き、目を開ける。

「……何をしているのですか?」
「驚くほど、同じ形をしている……。偶然にしてはできすぎでいるな」

 ベリアスは、ナイフを使って器用に台座から瑠璃色の宝石を外し、代わりにくすんだ赤色の宝石をはめる。簡単な作りのペンダントは、色を変えてルナシェの胸元へと戻る。

「――――これ」
「ガストが見つけてくれた。礼は、この地に黒鷹商会の本拠地を、ということだ」
「魔塔に……本拠地ですか」

 まるで、元からそこにあったかのように、赤い色合いの宝石はルナシェの胸元で輝いている。
 何度も、ルナシェの涙を吸い取った瑠璃色の宝石は、代わりにベリアスの手の中だ。

「少なくとも、ジアスと俺は、生きている」
「…………ベリアス様」

 そう、本当であれば、副団長のジアス・ラジアルはもういないはずだ。
 それに、結婚式の後、ベリアスが命を落とすはずの戦いは、すでに終結している。

「方法は、あるはずだ」
「っ、そうですね」

 ようやく微笑んだルナシェに、ベリアスが笑顔を返す。

「ところで、その宝石はどうするつもりなのですか?」
「そうだな……。瑠璃色の瞳に魔力が宿るというなら、ルナシェの祈りを、この石に込めてくれないか?」
「……そんなの、ただのおまじないに、なってしまいますよ」
「俺にとっては最高のお守りだ」

 ベリアスの手のひらで輝く瑠璃色の宝石。
 台座を失った今、どこか寂しげに見える。
 ルナシェは、大きな手のひらにのっている宝石に、小さな白い手を重ねて目を閉じた。

「そうですね。……願いが叶って、もう一度会えたから。今度は何を願いましょうか」
「ずっと一緒に、それが俺の願いだ」
「奇遇ですね。私の願いも、同じです」

 重ねされた手のひらと、自然と寄せ合った唇。
 瑠璃色の宝石から現れた光が、二人の手の間からあふれだし、赤い宝石に吸い込まれていく。
 けれど、瞳を閉じた二人が、その光景を見ることはなく、目を開けたとき、塔の最上階には、ランプの明かりだけが輝いていた。

「ルナシェ? その瞳……」
「え?」

 暗闇のせいなのか、ルナシェの瞳の色が、いつもと違うように見えてベリアスは思わずつぶやいた。
 けれど、光の加減だったのだろうか。その言葉を発したときには、すでにルナシェの瞳はいつもの瑠璃色をしていた。

「気のせいか……」

 ベリアスは、軽く息を吐くと、もう一度ルナシェを抱き上げる。

「あの、本当に階段くらい降りられます!!」
「……夜が明けてしまうだろう?」
「そんなはず!! 明日、筋肉痛になってしまいますよ?!」
「なるはずがない。この程度で筋肉痛になるようだったら、訓練のたびに死んでしまうだろう」
「……え、騎士の訓練って、そんなに過酷なのですか?」

 黙り込んでしまったルナシェを愛しく思いながら、ベリアスはやはり軽快な足取りで、階段を降りていったのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~

瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】  ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。  爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。  伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。  まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。  婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。  ――「結婚をしない」という選択肢が。  格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。  努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。  他のサイトでも公開してます。全12話です。

「結婚しよう」

まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。 一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...