夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら

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第1章

誕生会の準備

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 あれから毎朝、アシェル様のためにお昼ごはんを作っている。
 毎回完食してくれるし、おいしかったと言ってもらえるのでとても励みになる。
 今までは、何を作っても無表情で受け取り、感想すらくれなかったのが嘘のようだ。

(でも、あとから味付けを失敗したことに気がついても何一つ文句を言わずに完食してくれていたわね……)

 けれど、以前のように子犬のように駆け寄って『お帰りなさい!』と出迎えるのは恥ずかしくなってしまった。

(むしろ、今までどうしてあんなに真っ直ぐに好きという気持ちをぶつけることができていたのかしら。そう、あれはアシェル様の反応がほとんどなかったからできたのよ……)

 今、同じような行動をしたらアシェル様はどんな反応を見せるのだろう。考えただけで赤面してしまう。
 両手で赤くなってしまった頬を押さえながら少し前の自分の行動を猛省していると、セバスチャンが一通の手紙を持って現れた。

「失礼致します。手紙が届いておりますのでご確認ください」
「あら、どなたからお茶会の招待状が届いたの……?」

 急を要さない手紙は、自室の机の上に置かれている。つまり、届いたのは身分の高いお方からのお誘いか、急ぎ確認する必要がある手紙ということだろう。

「いいえ、イディアル・フォルス様からの手紙です」
「イディアルお兄様から!?」

 先日、お屋敷を訪れた上の兄、カイン・フォルス。
 上の兄は剣の腕では誰にも負けず、熱血で、周囲に好かれ、正義を貫き通すタイプだ。
 それに対して下の兄、イディアル・フォルスは麗しい見た目で女性たちに囲まれているが、物事を成し遂げるためには裏で何でもするタイプだ。

 そして私がアシェル様と結婚することになった時、誰よりも反対したのが下の兄なのだ。
 手紙を開けてみると、一週間後に上の兄と共に誕生日を祝うため屋敷に来ると書かれていた。

「そういえば、私の誕生日まであと一週間ね……」

 そう、私はもうすぐ十八歳になる。
 この国では貴族のほとんどは王立学園に通い、在学中に十八歳になり、卒業後に結婚することが多い。
 だから、まだ十七歳である私は、今までは子どもであると周囲に見なされて社交も免除されることが多かった。

「……そういえば、私の誕生会の準備は進んでいるのかしら」

 本来であれば誕生会は両親や兄弟が準備する。
 けれど、すでに結婚している場合は配偶者が用意するのが慣例だ。

 ――ただし、十八歳の誕生日に行われるのは、普通の誕生会ではない。この国における成人のお披露目も兼ねているので、高位貴族になるほどたくさんの人を招き、特別盛大に行うものなのだ。

(まさか……お仕事が忙しくて、アシェル様はお忘れになっている可能性が!?)

 背中にどっと冷や汗が流れた。
 アシェル様は、いつだって早朝から深夜まで働いている。
 どう考えたって、私の誕生日の準備をする時間なんてない。
 それどころか、準備をすすめている様子すらない。

 フォルス家では両親が亡くなってからも、毎年兄たちが私の誕生会を盛大に執り行ってくれていた。
 それなのに、特に重要な位置づけの十八歳の誕生会がアシェル様に忘れられていたら、下の兄は即刻私を領地に連れ帰ってしまう可能性すらある。

「た……大変! セバスチャン、私の誕生会の準備は」
「心配ございません」
「え、でも……」
「こればかりは、旦那様にお任せしておけばよろしいと思います」
「でももしお忘れになっていたら、もし準備が間に合わなかったら」
「――準備が間に合わない? ――奥様の十八歳の誕生日の? そのような事態になった場合、使用人一同、旦那様にこの屋敷の門を二度とくぐらせないでしょう」
「は……!? 逆に大事になってしまった!?」

 セバスチャンは柔和に笑っているけれど、普段そんなに過激な冗談を言う人ではないことをこの一年間のお付き合いでよく理解している。

(つまり本気……セバスチャンは本気だわ)

 アシェル様が帰ってきたら、私の誕生会の準備の進捗について確認をしなくては……。
 私はそう心に誓った。

 けれど、アシェル様の帰宅は一週間あまりに遅すぎて、昼ごはんを作るために早起きをしている私が起きている時間に帰ってくることは一度もなかった。
 むしろ、朝に私に挨拶するためだけに帰ってきていたようにすら見えた。

(聞けない……こんなに隈を作ってお忙しく過ごされているのに、自分の誕生日の準備がどうなっているのかなんて、とてもじゃないけれど聞けない……!)

 結局、何一つ解決しないまま、私の誕生日は当日を迎えてしまったのだった。
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