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第1章
本当の夫婦になるのは難しい
しおりを挟む思い浮かぶのは、結婚初日にアシェル様から投げかけられた言葉だ。
『一回りも上の男との王命での結婚、君は不本意だろう。君が十八歳になるまでの1年間、白い結婚にしよう。君を全力で守るが、こんなに年が離れているんだ。本当の夫婦になるのは難しいだろう』
(年が離れているから、子どもみたいな私のことは恋愛対象に見れない、という意味かと思っていた)
いや、それは事実だったのだろう。
今思えば、結婚当初、アシェル様は誰かと一緒に過ごすのをひどく苦手としているように見えた。
毎日、お見送りをして別れを惜しみ、帰ってくれば子犬のように駆けよって出迎える。
初めのうちは、困惑が表に出ていたし、よそよそしかったけれど、いつしか戸惑いながらも兄のように接してくれるようになった。
でも、確かに結婚初日、十八歳になるまでの一年間全力で守ると……そう、アシェル様は口にしていた。
貴族社会では、政略結婚も十二歳程度の年の差婚もよく聞く話だ。
それなのにアシェル様は一年間と言った。
先ほどと一年前の言葉の意味を確認しようとしたとき、来訪が告げられた。
「やあ、フィリア」
「イディアルお兄様! それに、カインお兄様も!」
上の兄には最近会ったが、下の兄に会うのは王都に来てから一年ぶりだ。
懐かしさに駆け寄ろうとしたけれど、ドレスが重すぎてそれはできなかった。
「おや、駆けてくると思ったが、フィリアはこの一年でずいぶん大人びてしまったんだな」
「まあ……私も十八歳になりましたから」
「そうだな」
ドレスが重すぎたとは口にせず、曖昧に笑っておく。
下の兄の淡いピンク色の髪の毛は、私とお揃い。少し垂れ目がちの濃い紫の瞳は神秘的で捉えどころがない印象を受ける。
私から逸らされた途端に、紫水晶みたいな目がスッと細められた。
「お久しぶりです。ベルアメール伯爵」
「ええ、ご無沙汰しております」
二人は冷たい目をして見つめ合っている。
まるで、腹の中を探り合っているみたいだ。
「まだ、誕生会の開催まで時間がありますね。終わり次第、領地に戻らねばなりません……この機会に隣国との情勢など話すお時間を頂戴できますか?」
「もちろんです」
二人が笑みを浮かべて手を握り合ったのを見て、ホッと息を吐く。
そのとき、肩が叩かれた。
「誕生日おめでとう、フィリア」
「ありがとうございます。カインお兄様」
上の兄が私と同じ空色の目を細めた。
ワシワシと頭を撫でようとする気配に気がつき、整えてもらった髪型を乱されまいと大きなその手を握る。
(アシェル様に比べてゴツゴツしているし、温かいわね)
アシェル様の手のひらには、上の兄のような剣だこはない。そして、私の手よりも少し冷たい。
無意識に比べてしまっていたことに気がついて、アシェル様に視線を向ける。
アシェル様は、よそ行きの笑みを浮かべたまま下の兄とともに別室に向かうところだった。
「俺も話に参加してくる。一人で待てるか?」
「子ども扱いにもほどがありますよ」
「はは、そうかそうか」
父と母を亡くしてから、上の兄は私の親代わりだった。子ども扱いしてくることに少し反発しながらも、いつも甘えていた。
足早に去って行く三人の後ろ姿を見送る。
(確かに、まだ始まるには一時間ほどあるわね)
誕生会の受付が始まるのは、十五時からだという。
一人取り残された私は、完璧にコーディネートされた会場を見て回ることにした。
「ねえ、どうしてこの重要局面でまだ夫の色を身につけていないわけ!?」
そのとき、ひどく呆れたような少々甲高い声が会場に響き渡った。
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