夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら

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第2章

宰相の妻は紅茶をたしなむ

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 アシェル・ベルアメール伯爵の名を知らないものなど、ミラベル王国にはいないに違いない。

 ――王国内ばかりでなく、大陸全土において彼の影響は絶大だ。

「この国と西諸国の境に流れる大河にかかる橋も旦那様のお力なくてはかからなかったでしょうし、そもそも紅茶を毎日飲むこともできないでしょう」
「アシェル様はすごいのね……」
「それだけではございませんよ。氷の国フィルダーが近年稀に見る豪雪に閉ざされたときも、砂漠の国ミーツの水源が次々涸れたときも、いち早くこの国が手を差し伸べられたのはアシェル様のお力です」
「噂には聞いていたけれど……」

 お茶会の準備の合間に紅茶を一口。
 この紅茶は遠い東の国から仕入れられたものだ。
 長年国交がほとんどなかった東の国と縁を繋いだのもアシェル様だという。

(本当にすごいお方の妻になってしまったのねぇ……)

 そんなアシェル様の妻は、妖精のように愛らしいと兄たちだけに褒められる、ごく平凡な私、フィリア・ベルアメールなのだ。

 そんな私たちの距離は、夫婦と堂々と言うにはまだまだ遠い。
 でも、そのお話はまたあとで。

 ――これから始まるのは、仕事に生き、仕事に死ぬはずだった宰相が、初恋のため我慢をやめてしまい、人らしく生きるための物語なのだ。
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