夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら

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第1章

新たな一歩

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 ――音楽が流れる。
 この音楽は、初めて一緒にダンスをした結婚式の思い出の一曲だ。

(覚えていてくださった)

 危うく泣きそうになりながら、グッと堪えて会場に歩み出る。
 会場が大きくざわめいた。
 すでに招待客たちをもてなしていたアシェル様が、目を見開き唖然としたように私を見つめた。

 一歩踏み出せば、重い真珠がジャラリと音を立るのと対照的に、アシェル様の色をした軽やかなリボンがフワリと空気をはらんだ。

 アシェル様が一歩踏み出す。
 立ち止まった私に近づく足取りはどんどん速くなる。

「アシェル様……」
「フィリア」

 アシェル様が力強く私を抱き上げた。
 これだけの重さのドレス、私が小柄だからといって相当重いはずなのに。

 音楽が変わった。
 誕生日を祝う音楽へと。

 アシェル様が歩んでいく先には、私の二人の兄がいる。

「なるほど、これがフィリアの答えか」
「……連れ帰るチャンスを逃して残念だ」

 上の兄はニヤリと笑い、下の兄は心底残念そうな顔をした。

「私、これからもアシェル様を支えていきたいのです」
「フィリア……」
「たとえ、愛されていなくても!」
「「「……ん!?」」」

 三人が揃って間の抜けた返事をした。
 私は何かおかしなことを言っただろうか。

「なあ……誤解が解けていないようだぞ」
「貴殿……フィリアに何を言った?」

 困惑したような上の兄と、額に青筋を立てている下の兄。

 だって、私とアシェル様は政略結婚なのだ。私が大好きでおそばにおいてほしいからといって、愛されることを強要するのは違うだろう。

「……」
「アシェル様?」
「……仕事柄、裏から手を回すことが多かったが、はっきり言わなければ伝わらないものだな」

 二人の兄の前で私を下ろし、アシェル様が私と向き合う。懐から取り出したのは、小さな小箱だ。パカリと開けば、そこに輝くのは濃い緑色の宝石が輝く指輪だった。

「アシェル様の瞳の色ですね」
「……許してほしい、君と結婚したときには、誰かがこんなにも自分のことを慕ってくれる日々が訪れるなんて想像もしなかったんだ」
「……アシェル様」
「誰かをこんなにも愛しく思う日が来ることも」

 輝く指輪がはめられて、口づけが落ちてきた。まるで、結婚式のやり直しみたいに。

 そしてアシェル様は兄たちに向き合った。

「一年間、全てから守り抜けたとは言えませんが、これから先の人生、全身全霊をかけてフィリアを守り抜きます」

 再び音楽が変わる。
 これは、結婚式の祝福の曲だ。

 私たちは手を繋ぐ。でもそれは、まだ夫婦としては遠慮がある。

(そうまるで恋人になりたてみたいな?)

 ダンスを踊るには少し重すぎるドレス。
 誕生会では家族やいつもお世話になっている人たちと踊るのにお断りせざるを得なかった。

 こうして私は、ベルアメール伯爵夫人として新たな一歩を踏み出した。
 アシェル様との新たな関係とともに……。
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