本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら

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番は読書仲間 3

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 不思議なことに、今日は昨日よりも本がわかりやすくなっている気がする。
 なぜなのだろう。まるで、実体験したことのようにすらミリアには思えた。

 集中して読んでいるミリアのことを、アーロンは黙って見つめていた。
 昨日、ミリアに竜騎士は暇なのかと尋ねられたアーロン。
 だが、人の手に負えないほどの魔獣が現れたとき、常に最前線で戦っているアーロンが暇というのなら、それは王国が平和だということだ。

「――――いっそ、ずっと戦っていたい、とすら思っていたのが嘘みたいだな」

 ミリアに出会う直前まで、アーロンは魔獣との討伐戦が終わってしまったことに、むしろ苦痛を感じていた。
 戦うことでしか、自分の存在を確かに感じることができなかった。

 そんな感傷に浸っていたアーロンは、真剣に本を読んでいたはずのミリアが、本に向けていた顔をこちらに向けて、見つめていることに遅ればせながら気がついた。

「――――ミリア?」

 なぜか、ミリアの頬がほんのり染まっている。
 どうしたのだろう、とアーロンが不思議に思っていると、本にしおりを挟んだミリアが、向かいの席から立ち上がり近づいてきた。

「アーロン様、私」
「どうしたんだ? そんな顔……」

 なぜか、ミリアがそっとアーロンを抱きしめた。
 時間が止まったように、アーロンは体を硬直させて身動きがとれなくなる。
 決して隙なんて見せたことがないアーロンを、こんな風にできる存在は、世界にたった一人、ミリアしかいないに違いない。

 アーロンは、古代語が読めるわけではない。
 むしろ、読むことができるミリアのほうがおかしいくらいだ。
 古代語はすでにそのほとんどが失われてしまい、研究対象になっている位なのだから。

「――――ミリア?」

 ようやく発せられた声は、低くかすれている。
 その言葉を聞いたミリアは、ようやくアーロンに抱きついていることに気がついたみたいに、パッと離れた。その頬は、今度こそ真っ赤に染まっている。

「はっ! 私は一体何を?!」

 体温が感じられなくなったせいで、暖かいはずの室内が妙に寒く感じる。
 アーロンは、そのことに強い喪失感を感じた。

「どうしたんだ? 何かよくないことでも書いてあった?」

 もし、本の内容がミリアを傷つけるようなものならば、読んでほしくはないとアーロンは思う。

「番って、命を分け合う存在だって、本当ですか?」

 竜人は強い。けれど、それは番と命をともにしているからだ。
 竜人は、番がともに戦う。そして、助け合う。

 けれど、ミリアは戦うことができない。
 そういう意味では、アーロンの足を引っ張ることしかできない。
 しかも、番という認識を持つことすらできない。

「…………ああ。なるほど、それについて書いてあったのか」

 確かに、アーロンの父と母はいつも一緒にいて、戦っていた。
 竜の王国があるのは、魔獣の森の中だ。だから、王国のように時々魔獣が現れるのではなく、日々の中に戦いが存在する。

 それでも、竜人は戦うことが本能だ。それが日常だ。
 魔獣達の頂点に位置する竜すら統べる存在。それが竜人なのだから。

「ミリアが、戦えないことについて気にしたの?」
「――――だって、番が戦えなかったら、竜人は力の半分も出せないって。やっぱり私が、番なんて言うのは何かの間違いなのではないですか?」

 アーロンは、ミリアをまっすぐに見つめる。
 今日もミリアから香ってくる魔力は、酩酊感を感じるほどに甘くて濃厚だ。
 ミリアからだけしか、感じることができない感覚。

 だから、ミリアがアーロンの番なのは間違いないだろう。

 そもそも、旅をしていたアーロンが、王都にとどまることを決めたのは、本当にわずかなこの香りをこの場所に感じたからなのだから。

「私は……アーロン様に、何も感じないんです。あ、嫌いと言うことではないんですよ?」

 言い訳をしながら告げられたミリアの言葉。
 その言葉は、アーロンがミリアに感じる番としての本能を真っ向から否定しているようだ。

「――――ミリアが、俺に番だという認識を持っていないことが、今はうれしいよ」
「…………え?」

 意味が分からずに、眼鏡に隠されたすみれ色の瞳を瞬いたミリア。
 微笑んだアーロンは、本気でそう言っているようだ。

「俺と命を共有するなんて、ミリアがする必要はない」

 竜騎士には、危険が伴う。
 番が、命を共有するというのは、比喩ではなく事実だ。
 それが当たり前だと思っていたアーロンだが、ミリアを前にして考えが変わった。

「ミリアは、そのままでいいんだ」

 ミリアを番だと認識しているアーロンと、認識できないミリア。
 二人の関係は、どこか歪なのかもしれない。

「それに、番とか番でないとか、こだわっていたのが嘘みたいに、昨日よりも今日の君がもっと好きだ」

 番の気持ちは、恒常的なものだ。
 出会った瞬間から、番だと認識して、運命も命も共有する。
 そして、その気持ちは生涯平坦なまま変わることがない。

 では、アーロンの中で、昨日よりも今日、ミリアのことをより愛しいと思う気持ちは何という名前なのだろうか。
 少なくともそれは、番だからという理由ではないに違いない。

「そのまま……ですか」

 ――――このまま変わらないなんて嫌。だって私は、アーロン様のことを。

「少なくとも、昨日より今日の方が、アーロン様のこと好きみたいです」
「えっ、では今すぐに結婚式を……」
「読書仲間としてですよ」
「うん、知っていた……」

 ごまかしてしまったけれど、ミリアの心の奥底では、今日も小さな箱がゴトゴトと音を立てて揺れている。
 その中に収まっているものが何かは、ミリアには分からない。
 けれど、それはミリアが、社交界になじむことができずに本ばかり読んでいた理由の一つなのだ。

 アーロンと同じ、ミリアも一人でいることが当たり前だと、どこか諦めて過ごしてきたのだから。
 
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