本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら

文字の大きさ
11 / 23

番と恋人 1

しおりを挟む


 それからも、ミリアはアーロンの屋敷を訪れては、本を読んだ。
 はじめに読み始めた本だけでは飽き足らず、古代語で書かれていた本を読み終えてからも、置いてある竜人についての本を片っ端から読んだ。

 今読んでいるのが、最後の一冊だ。
 この本には、竜人の番が相手に使う魔法の詳細が書かれている。
 普通の人間でしかないミリアには、使えそうもない。

「やっぱり、番というものがよくわかりません」

 ため息をつきながら、ミリアは最後の一冊を閉じた。
 アーロンは、討伐に出ていて、王都を離れている。

「――――だって、番であれば、なんとしてもアーロン様は私のことも連れて行くはず」

 本に書かれている番というものは、人間が一般的に考える恋人というものとは違うようだ。
 出会った瞬間から、お互いを番だと認識し、それからはずっと一緒に過ごしていく。
 ともに戦い、命を分け合い、子どもが自分の番を見つけるまで育てる。

 そして、決して離れない。
 番から引き離された竜人は、眠ることも食べることもできないという。

 だが、いつもアーロンはミリアを置いて討伐に出かける。
 確かに、三日と経たずに魔獣の討伐を終えて帰ってくるけれど……。

「――――眠れないのも、食べられないのも、なぜか私」

 アーロンと出会って三ヶ月。
 読書仲間として過ごす二人は、一緒にいる時間は長いけれど、何の進展もない。
 それでも、アーロンはミリアと一緒に過ごせることが、さもうれしいとでも言うように微笑んでくれる。

『ここで、待っていて?』

 アーロンが討伐のため遠征している間も、ミリアはアーロンにもらった鍵を使って、図書室で過ごしている。
 アーロンがいない屋敷に入るなんて、と遠慮したのだが、「ほかの場所で過ごすなんて危険だから、図書室にいてほしい」とお願いされたので、お言葉に甘えることにしたのだ。

「…………アーロン様、今回はもう一週間ですよ?」
「そう? ……待っていてくれたのならうれしいな」

 その声にミリアが勢いよく振り返ると、アーロンが図書室の入り口に立っていた。

 帰還したなんて聞いていないのに、いつの間に帰ってきたのだろうか。

「アーロン様!」

 ミリアは、駆け寄って抱きついた。
 抱きついてから、無意識でしてしまったことに気がついて身をよじったが、すでにミリアの体は、鳥かごの中のようにアーロンの腕の中だった。

「――――逃げないで」
「…………逃げないので、離してください」
「なんだか痩せた?」
「――――気のせいです」

 アーロンは、離してくれる気がないようだ。
 けれど、うつむいたミリアは気がついてしまった。

「怪我、したのですか?」

 ミリアの声は、ひどく震えていた。
 
「ん? ああ、傷が開いたか。……汚してしまうな」

 たいしたことはないとでも言うように、そう言って距離をとろうとしたアーロンの手を、ミリアは掴んだ。

「――――早く部屋に行きましょう!」
「…………部屋」
「アーロン様、早く! 寝室はどこですか?!」

 これだけ通っていながら、実はミリアは食堂と図書室にしかお邪魔したことがない。
 けれど、アーロンが怪我をしていることに気がついてしまったミリアは、自分でも訳が分からないくらい必死になっていた。

 そんなミリアの様子に、逆に戸惑うアーロン。入ったその部屋は、ベッド以外何もない。
 ミリアのために、日に日に花が増えていく図書室と正反対だ。

「…………早くベッドに座ってください」
「ミリア、これくらいの怪我、どうってことない。自分で処置できるから」

 どう見ても、これくらいで済ませられるように見えなくて、ミリアはアーロンの上着を脱がせ始める。

「この状況、よくないって分かっている?」
「黙っていてください」

 そっと上着を取り払い、シャツをまくり上げる。
 細身に見えるアーロンだが、その体は鍛え抜かれて美しい。そして傷だらけだった。

「清潔な布は……」
「……そこに、一式あるが」

 深い傷が、左脇腹についていた。
 簡単に処置されただけなのだろうか、ガーゼの上に血がにじんでいた。

 ミリアは、黙って立ち上がると、薬箱を持ってくる。
 消毒をして、布を当てると止血した。
 どうしてなのだろう、ミリアの左脇腹まで、ズキズキと痛くなってきたようだ。

「うっ……」
「ミリア? ……っ、まさか」
「アーロン様……」

 その痛みは、確実に幻などではない。
 けれど、ミリアはきゅっと唇をかみしめて、当てていたガーゼを包帯で固定した。

 その表情を見て、アーロンは何が起きたのか察したのだろう。顔色を悪くして、口元を押さえミリアから距離をとろうとする。

「今日は、もう帰ってくれ……。いや、しばらく来てはいけない。……ここにいるのは、ミリアにとってよくない」

 番は、近くにいるほど感覚を共有する。
 傷が移ることはないが、苦痛は片割れに流れ、片割れの回復力は怪我をした番に流れる。
 命を共有するとは、そういうことだ。最後に読んだ本の中には、そう書かれていた。

 不思議なことに、痛い思いをしているのに、ミリアはアーロンのそばを離れたいと思えなかった。

 ――――本当に番なんだ。

 そのことが、はじめて実感できて、なぜかわからないのに、うれしくて。
 痛いのに、幸せで。首をぶんぶん振ると、ミリアはもう一度アーロンに抱きついた。

 三日過ぎたあたりから、いつもより遅いアーロンが心配すぎて眠れなくて、まともに食べられなくて、それに加えて今まで感じたことのない激痛。

「ミリアッ!」

 泣き出しそうなアーロンの声が、遠くから聞こえる。

 ミリアの目が覚めたのは、なんと真夜中になってからだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

処理中です...