最強で美人なお飾り嫁（♂）は無自覚に無双する

受付嬢のユリ

大手化粧品メーカーの受付嬢である私、花沢百合はモテていた。

自慢じゃないけど、私は美人だし。
この会社の社長令嬢だし。



毎年入ってくる新入社員。

向こうから靡いてくる男なんて、ごめんよ。


そう思いながら私好みの男性を物色する。


酒田襷くん。

植物に関する研究をしていたのね。

開発研究部か。




身長はそこそこ高いけど、ひょろっとして猫背気味。

髪の毛は時々切りに行ってそのまま伸ばしっぱなし、って感じで無造作。

そして黒縁眼鏡。


アニメとかゲームとかラノベとか好きなのね。

うんうん、私も好きよ。


眼鏡をとって猫背をシャキンとさせてちゃんとした格好をすれば、酒田くんはカッコイイと思う。

でも、かっこよくなっちゃったら私の酒田君が他の人にも見つかっちゃう。



この手の男の子はじっくり、攻めていかないとね。

わたしみたいな美人が突然話しかけたらびっくりしちゃうわね。



そう、思っていたのに。





「酒田～！メシ行こうぜっ。」

何よ。

あんたみたいな陽キャと私の酒田君は住む世界が違うのよ！

酒田君を虐めてるんじゃないでしょうね？


「今度実況するんだ！一緒にプレイ動画獲ろうぜ？」

「ええぇ～。」

「顔出ししねーし、名前も出ないよ。声だけっ！」

「ならいいか。」


鳥居千歳……！


私の酒田君を染めないで！

酒田君は今のままが素敵なの！



憎くて憎くて、ある日駅のホームから突き飛ばした。



酒田君は一人になって憔悴していたけど、私が助けてあげる。



でも、酒田君はいなくなってしまった。




酒田くんがいない世界なんて意味がない。




私も――――――――。








そこで『ユリ』としての意識は途切れる。

よほど強い思いだったのか、私は前世の記憶を覚えていた。


そしてある日、私の勤める教会に『酒田君』が来てくれた。

母の実家に遊びに行く途中で寄ったのだと。

可哀そうに、上位アルファなのに継ぐ家がないなんて。

調べたら本家にはオメガの子どもが一人。


しかもあいつだった。



私の魔法で酒田君の前世の記憶を呼び覚ます。

そして、今度こそ酒田君と結ばれようと思った。