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侯爵セオドリク・ウィルターン②
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さて、俺が半年前から始めたこの炊き出し。始めた頃は1日に数人が訪れるだけだったが、この国の食糧事情が悪化し、物の値段が高騰している今では、その日の食を求めて長蛇の列が出来るまでになった。
これだけの人が集まり、共に食事を摂っていると、そこは町の大きな社交場となる。
この場では毎日、耐える事なく噂話と言う名の情報が飛び交う様になった。そしてこの場で流れた噂は、あっと言う間に領地内に広まって行くのだ。
そう…。俺は此処でこの社交場を作りたかった。
俺は此処でシルベールの情報を集め、自分にとって都合の良い噂話を故意に流していく。これが俺がこの地に来て、炊き出しをしている本当の目的だ。
曰く、シルベールは屋敷の食物庫に、たんまり食糧を備蓄しているらしいぞ。彼は領主であるにも関わらず、空腹に喘ぐ領民に何の手も差し伸べてはくれない…。
曰く、他領では、食物庫を開放して領民の生活を支えている貴族もいるのにな。
曰く、シルベールは食物庫の食料を他領の貴族に信じられない様な高値で売り捌き暴利を貪っているらしいぞ。
曰く、ジルハイムから名指しされたって言うのにな。彼の国を怒らせたのは領主様なんだろう? そのせいで俺らはこんな苦しい目に遭っているって言うのにな…。
言っておくが嘘を垂れ流している訳じゃ無い。これらは全て真実だ。
とはいえ、その噂のお陰で領民達からのシルベールへの不満は日に日に大きくなって、もはや爆発寸前だ。
まぁ、自業自得って奴だな。
そんな日々が続いたある日、俺は皆の前で頭を下げた。
「すまない。これだけ此処に来てくれる仲間が増えると、俺の国から送られて来る食料だけではもう賄いきれなくなった。限界だ。仕方なくこれからは、炊き出しの回数を減らそうと思う…。毎日はとても無理だと思う…」
無くすでは無い。減らすのだ。そう言った。それでも、俺からのその報告を聞いた領民達の間には動揺が広がり、皆、悲痛な表情を浮かべた。
「そんな…。此処での炊き出しが1日のうちでありつける唯一の食事だって奴もいるんだぞ!」
「そうよ。此処に来れば食事が出来る。それが私達の心の支えだったのに…」
軈て、皆が口々に声をあげる。
「本当にすまない」
俺は頭を下げ、謝り続けた。
そのうち、誰かが俺に声を掛けてくれた。
「いや、だが悪いのはあんたじゃ無い。寧ろこれだけの人に今までタダで飯を食わせてくれたんだ。俺たちはあんたには感謝しかないよ」
「そうだ。本来なら領主様がすべき事を、あんたがやってくれていたんだ」
「まてよ。確か他領では食物庫を開放しているんだよな? だったら此処でも食物庫を開放して貰えは良いんじゃないか?」
「馬鹿ね。あの領主様がそんな事してくれる訳がないじゃない。何しろ領主様は本来なら私達に配るはずの食べ物を、他所に横流ししてお金にしているのよ! 守銭奴よ。守銭奴」
「そうだ! 奴は金の亡者だ!」
いつの間にか、その場はシルベールへの不満の言葉で溢れた。
さて、そろそろだな。俺は最後の導火線に火を着けた。
「ですが、その食物庫の食べ物が有れば明日からも毎日、炊き出しが出来るんですがね。だって本来なら、皆さんのものじゃないですか?」
俺は領民達を煽った。
「俺たちのもの…?」
「そうですよ。こんな時に助けて貰えないのなら、皆さんは何の為に税を納めているんですか?」
「確かにそうだ! 元はと言えば俺たちが納めた税で買った物だ…」
「ええ、皆さんのものを返して貰うだけです」
「そうだ! 俺たちの為に何もしてくれない領主から、自分達の物を返して貰うだけだ!」
「そうだ!」
「そうだ! 自分達の物を返して貰って何が悪い!」
軈て、領主シルベールに対する怒りの声が、渦となってその場を飲み込んでいった。
次の日、領主邸前には数千人の領民達が集まり、屋敷を取り囲んだ。
因みにだが、今、この屋敷にはシルベールの家族は1人も住んではいない。それは確認済みだ。
恐らく彼らは今頃、此処に向かう馬車の中。
こんな時、指示を出すべき領主のいない屋敷はあまりにも脆かった。これが今、俺が暴動を煽った理由だ。領民達に沢山の血を流させる訳にはいかない。俺の狙いはこうだ。恐らく、屋敷に勤める者達にとって、領地内で暴動が起き、然も領主屋敷が襲われるなんて想定外の出来事だろう。
それに重ねて、タウンハウスとは違い此処は領地。屋敷に勤める者達の大半はこの領地で生まれ育った者達だ。
その者達が、もしかしたら自分達の肉親や友人がいるかも知れない群衆に向かって、刃を向ける事は出来ないだろうと。
案の定、主人のいない領主屋敷は、あっという間に領民達によって制圧された。
直ぐに食物庫を確認した俺たちは目を見張った。そこが信じられない程の食料で埋め尽くされていたからだ。
俺たちはその食料を飢えに苦しむ者達に分け与えると領内全てに触れを出した。
その数日後の事だ。何も知らないシルベールから屋敷に戻るという先ぶれがあった。
この状況だと言うのに呑気な物だ。だが俺とカイルはこの時を待ち侘びていた。
「じゃあ行くか。カイル」
「ええ。セオドリク様」
俺たちは剣を携え、屋敷を後にした。
これだけの人が集まり、共に食事を摂っていると、そこは町の大きな社交場となる。
この場では毎日、耐える事なく噂話と言う名の情報が飛び交う様になった。そしてこの場で流れた噂は、あっと言う間に領地内に広まって行くのだ。
そう…。俺は此処でこの社交場を作りたかった。
俺は此処でシルベールの情報を集め、自分にとって都合の良い噂話を故意に流していく。これが俺がこの地に来て、炊き出しをしている本当の目的だ。
曰く、シルベールは屋敷の食物庫に、たんまり食糧を備蓄しているらしいぞ。彼は領主であるにも関わらず、空腹に喘ぐ領民に何の手も差し伸べてはくれない…。
曰く、他領では、食物庫を開放して領民の生活を支えている貴族もいるのにな。
曰く、シルベールは食物庫の食料を他領の貴族に信じられない様な高値で売り捌き暴利を貪っているらしいぞ。
曰く、ジルハイムから名指しされたって言うのにな。彼の国を怒らせたのは領主様なんだろう? そのせいで俺らはこんな苦しい目に遭っているって言うのにな…。
言っておくが嘘を垂れ流している訳じゃ無い。これらは全て真実だ。
とはいえ、その噂のお陰で領民達からのシルベールへの不満は日に日に大きくなって、もはや爆発寸前だ。
まぁ、自業自得って奴だな。
そんな日々が続いたある日、俺は皆の前で頭を下げた。
「すまない。これだけ此処に来てくれる仲間が増えると、俺の国から送られて来る食料だけではもう賄いきれなくなった。限界だ。仕方なくこれからは、炊き出しの回数を減らそうと思う…。毎日はとても無理だと思う…」
無くすでは無い。減らすのだ。そう言った。それでも、俺からのその報告を聞いた領民達の間には動揺が広がり、皆、悲痛な表情を浮かべた。
「そんな…。此処での炊き出しが1日のうちでありつける唯一の食事だって奴もいるんだぞ!」
「そうよ。此処に来れば食事が出来る。それが私達の心の支えだったのに…」
軈て、皆が口々に声をあげる。
「本当にすまない」
俺は頭を下げ、謝り続けた。
そのうち、誰かが俺に声を掛けてくれた。
「いや、だが悪いのはあんたじゃ無い。寧ろこれだけの人に今までタダで飯を食わせてくれたんだ。俺たちはあんたには感謝しかないよ」
「そうだ。本来なら領主様がすべき事を、あんたがやってくれていたんだ」
「まてよ。確か他領では食物庫を開放しているんだよな? だったら此処でも食物庫を開放して貰えは良いんじゃないか?」
「馬鹿ね。あの領主様がそんな事してくれる訳がないじゃない。何しろ領主様は本来なら私達に配るはずの食べ物を、他所に横流ししてお金にしているのよ! 守銭奴よ。守銭奴」
「そうだ! 奴は金の亡者だ!」
いつの間にか、その場はシルベールへの不満の言葉で溢れた。
さて、そろそろだな。俺は最後の導火線に火を着けた。
「ですが、その食物庫の食べ物が有れば明日からも毎日、炊き出しが出来るんですがね。だって本来なら、皆さんのものじゃないですか?」
俺は領民達を煽った。
「俺たちのもの…?」
「そうですよ。こんな時に助けて貰えないのなら、皆さんは何の為に税を納めているんですか?」
「確かにそうだ! 元はと言えば俺たちが納めた税で買った物だ…」
「ええ、皆さんのものを返して貰うだけです」
「そうだ! 俺たちの為に何もしてくれない領主から、自分達の物を返して貰うだけだ!」
「そうだ!」
「そうだ! 自分達の物を返して貰って何が悪い!」
軈て、領主シルベールに対する怒りの声が、渦となってその場を飲み込んでいった。
次の日、領主邸前には数千人の領民達が集まり、屋敷を取り囲んだ。
因みにだが、今、この屋敷にはシルベールの家族は1人も住んではいない。それは確認済みだ。
恐らく彼らは今頃、此処に向かう馬車の中。
こんな時、指示を出すべき領主のいない屋敷はあまりにも脆かった。これが今、俺が暴動を煽った理由だ。領民達に沢山の血を流させる訳にはいかない。俺の狙いはこうだ。恐らく、屋敷に勤める者達にとって、領地内で暴動が起き、然も領主屋敷が襲われるなんて想定外の出来事だろう。
それに重ねて、タウンハウスとは違い此処は領地。屋敷に勤める者達の大半はこの領地で生まれ育った者達だ。
その者達が、もしかしたら自分達の肉親や友人がいるかも知れない群衆に向かって、刃を向ける事は出来ないだろうと。
案の定、主人のいない領主屋敷は、あっという間に領民達によって制圧された。
直ぐに食物庫を確認した俺たちは目を見張った。そこが信じられない程の食料で埋め尽くされていたからだ。
俺たちはその食料を飢えに苦しむ者達に分け与えると領内全てに触れを出した。
その数日後の事だ。何も知らないシルベールから屋敷に戻るという先ぶれがあった。
この状況だと言うのに呑気な物だ。だが俺とカイルはこの時を待ち侘びていた。
「じゃあ行くか。カイル」
「ええ。セオドリク様」
俺たちは剣を携え、屋敷を後にした。
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