彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️

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侯爵セオドリク・ウィルターン⑤

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「義父様…どう言う事ですの? 義父様には此処が何処だかお分かりになりますのね?」

「………」

 先程からシルベールに縋り付いているイヴァンナが、不安気に尋ねるが、彼は答えようとはしなかった。

 ただ真っ青になって震えているだけ。体は大きくても気の小さい男だ。

 そんなシルベールの態度を他所に、彼に体を密着させ、上目遣いに奴を見上げるイヴァンナの姿からは、2人の距離の近さが伺い知れた。

 もしかしたら2人は男女の関係にあるのかも知れない…その時、俺はそんな予感がした。

「…随分と仲が良いんだな。だが、それが何時迄続くかな? その男は此処に連れて来られたと知った時点で既に気付いている様だぞ。これから自分達がどんな目に遭うのかが…」

「え?」

 イヴァンナが俺を見る。その目は恐怖からなのか大きく見開かれていた。

 俺は壁を叩いて合図を送った。

 すると、カイルが扉をノックして部屋に入って来て俺の隣に並んだ。

「何も答えないそいつに代わって俺が教えてやるよ。ここはな、シルベール領内にある森に建てられた小屋だ。シルベールは何年もの間、この小屋にこの男を監禁していた。」

 俺は分かり易く、隣に並ぶカイルに手を翳した。

「監禁…?」

 イヴァンナが驚いた様に俺の言葉をなぞった。

「お! 漸くお前達を此処に連れて来た理由に気付いた様だな? そうだよ。お前達2人は今日から此処で仲良く一緒に暮らすんだ。どうだ? 嬉しいだろう?」

「…そんな…」

 彼女の顔が絶望に染まる。

 俺は更に目の前の女を絶望の淵へと追い込む。

「この男、名をカイザードと言うんだが、自分がお前達の見張りをすると名乗り出てくれてな。ありがたく任せる事にしたよ。彼は誰よりこの場所に詳しいからな」

 すると今度はシルベールがガタガタと震え始めた。自分がカイザードに何をしたのか、自覚はあるらしい。

「彼がお前達をどう扱うのか、俺は知らない。だが、彼も夜は眠るだろうから、逃げ出すのはお前達の自由だ。しかし、此処は昼は静かな森だかそれは仮の姿。獣の活動が活発になる夜にはその辺りを腹をすかした獣達が、獲物を求めて所狭しと歩き回る。命が惜しいなら、逃げると言う選択は余りお勧めは出来ない。まぁ、その男はそんな事、百も承知だろうがな」 

 2人は俺の話を聞きながらガタガタ震え、身を寄せ合う様に抱き合っている。

 本当に仲の良い事だ。

 俺はそんな2人を見据えながら、更に言葉を続ける。

「安心しろ。簡単には死なない様に、水だけはたっぷり用意するように伝えた。だが、食い物は3日に1度。パン1つだけだ。なぁイヴァンナ、お前にならこの意味が分かるよな?」

「あ…」

 イヴァンナが息を飲む音が聞こえた。

「ああ、やっと思い出した様だな。お前には彼女が味わったのと同じ苦しみを味わってもらう。だがな、安心しろ。俺はお前と違って優しいから、パンに薬なんて盛ってはいない」

「彼女…。ああ、そう。私からジュリアスを奪ったあの女の事ね! 貴方、どう見ても異国人ぽいものね? そう。貴方ジルハイムの人なの?あの女の仇撃ちって訳ね?」

 すると、先程までのあの弱々しい態度は何処へやら…。イヴァンナは納得した様に頷くと、俺をキッと睨みつけた。これがこの女の本性と言う事だろう。

「良い機会だから教えてあげるわ。あの女はね、死んで当然だったの。だって私からジュリアスを奪った泥棒猫なのよ。その上、私より先に彼の子を身籠ったの。ねぇ、こんな事許されると思う? ジュリアスだってあの女の事は疎ましく思っていたんだから。貴方の国から押し付けられた妻…。彼は何時も私にそう言っていたわ」

「死んで当然…だと?」

 イヴァンナの口から出るアルテーシアへの暴言に、俺は腑が煮えくり帰る思いがした。

 このままこの女を八つ裂きにしてやりたい…。

 そんな衝動に駆られた。

 だがカイルが、怒りに震え我を忘れそうになった俺に気付き、必死に抑えた。

「堪えて下さい。このまま此処でこいつらを殺しても、こいつらは何の後悔も反省もしない! それで良いのですか!」と。

 俺を抑えながら、カイルはイヴァンナに語り掛けた。

「ジュリアス? それは一体誰の事だ?」

 イヴァンナは彼を馬鹿にした様に答えた。

「貴方、そんな事も知らないの? ジュリアスはね、この国の王様よ? 彼は私を愛しているの。だから直ぐに助けが来るわ! そうに決まっている!!」

 彼女は勝ち誇った様に告げた。

「ふっ。お前を助ける? だったら何故お前達は王都から逃げて来た? 俺たちが何も知らないとでも思っているのか? それより、お前の方こそ何も知らないんだな。ジュリアスはな、王などではない。彼には王家の血なんて一滴も流れてはいないんだからな。彼はな、俺の血を分けたたった1人の息子だ。だからこそ、その男は俺を此処に閉じ込め殺そうとしたんだ。嘘だと思うなら隣にいるお前の義父とやらに聞いてみるが良い。何しろ、お前達は此処でずっと共に暮らすんだ。話を聞く時間はたっぷりあるさ」

 カイルの話を聞いたイヴァンナは、また、シルベールに抱き付き、甘える様に問いかけた。

「ねえ、義父様。嘘でしょう? こんな男の言う事なんか嘘に決まっているわよね?」

「……」

 彼は何も答えなかった。

「また、ダンマリの様だな。だが、何も答えないのは認めた証拠だ!」

 カイルはそう言ってイヴァンナに哀れみの目を向けた。

「だが、だんまりは許さない!」

 彼は今度は彼女の隣にいるシルベールに言い放った。

「なぁ、何故イーニアだったんだ? 教えてくれよ。彼女じゃなくても、他に独身の令嬢なんていくらでもいただろう?」

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