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真実 側妃イヴァンナ⑥
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「勿論、王弟一家を落石事故に見せかけて殺めたのは伯爵本人ではないがな。そんな芸当、素人になんて出来るはずがない。やったのはシルベールが雇ったその道のプロさ。だが伯爵家は、王弟一家を言葉巧みに領地へと誘い出し、夕餉の中に眠り薬を入れた。後は口裏合わせだな。エラルド陛下は王弟一家の死に疑問を抱き、調査していたみたいだから。今回、伯爵は家族の命と引き換えにその事実を証言したよ」
彼はそう説明してくれたが、私は彼の話しを聞きながらも、ふと疑問に思った。
この人は私の事を憎んでいるはずだ。現に今も彼の私を見る瞳はとても鋭い。きっと本当は私の顔なんて見たくもないはずだし、まして話などしたくもないはずだ。
それなのにどうして……。
「ん? どうかしたか?」
私の戸惑いに気付いたのか、彼は私に問いかけた。
「いえ…あの…先程からどうしてそんな大切な話を私にして下さるのかなと思って…」
「何だ? 俺が話し掛けるのは不服か?」
私が恐る恐る答えると、彼は少しだけ苛ついた様な表情を浮かべながらそう言った。
「いえ、そんな事は決して御座いません。だだ…貴方は私の事が憎いでしょう?」
何故こんな当たり前の事を、本人に面と向かって聞いてしまったのか…? 彼からどんな答えを求めていたのか…?
つい、本当につい口を突いて出たのだ。
でも、彼から放たれたのは当たり前の答えで…。
「憎い? ああ、憎いなんて簡単なものじゃない。今すぐにでもこの手で八つ裂きにしてやりたい位だ」
彼はまた、私に射殺さんばかりの眼差しを向けた。
「……っ!」
でも次の言葉で、何故彼が私にこんな話をしてくれるのかの謎が解けた。
「だがな、カイザードに頼まれたんだ…。彼はお前をずっと気に掛けていたよ」
「…カイザードさんが…?」
駄賃だとパンをくれた時の、私に向けてくれた笑顔を思い出す。彼の言葉を聞いて、こんな私の事を気に掛けてくれた人がいた事が嬉しかった。
「ああ、お前はシルベールに言ったんだろう? 何も知らないまま死んでいくのは嫌だと。だからカイザードは、これから死出の道を歩むお前に責めてもの花向けとして、真実を教えてやって欲しいと俺に頭を下げた。そうでなければ、俺はこの馬車にすら乗ってはいないさ」
あの時やっぱりカイザードさんは、私とシルベールの会話を聞いていたんだ。
だから、私のためにこの人に頭を……。
カイザードさんの思いやりに触れ、私は彼に貰ったハンカチを手に握り締めた。目の前の男は続ける。
「俺はカイザードもまた、俺たちと同じ様にシルベールに運命を翻弄された犠牲者だと思っている。だからカイザードの願いを聞き入れてやりたかったんだ。前にも話したと思うが、アイツはいきなり攫われ、あの何もない部屋で何年もの間、ずっと閉じ込められていた。あんな場所に何年もだ。勿論、お前達の様に食事を与えられていない訳ではなかった。だが、それはイーニアに言う事を聞かせるための人質として、アイツを生かしておかなければならなかったからだ。その証拠に、アイツには逃げられない様に常に見張りが付いていたらしい。そしてイーニアが死ぬと、アイツは森の中に置き去りにされた。獣達の餌として、跡形もなく、アイツと言う存在をこの世から消し去るために…な」
私があの部屋にいたのはほんの数日の間だ。それでも、何もないあの部屋にいるのは、息が詰まりそうで本当に辛かった。
そんな所にいきなり攫われ何年も監禁された。
然もそれは、愛する人を自分を使って脅す為。
それを知った時のカイザードさんの気持ちを考えるだけで、胸が締め付けられる様な思いがした。
「カイザードは言ったよ。あの小屋の中で、自分の唯一の心の支えがイーニアだったと。彼女にもう一度会いたい。ただその思いだけで、彼はあの何もない虚無な時間を耐え抜いたんだと。だから森に置き去りにされた後も、彼は必死に獣達と戦った。そうして命からがら逃げて、彼は2人が暮らした家を目指したそうだ。だが、そこに辿り着く前に、カイザードはイーニアの死を知った。それもそうだろう。イーニアはエラルド陛下の寵妃だったんだからな。王子を産んだ彼女の死は、当時、市囲でもかなりの話題になっていたらしいからな」
「……そんな…」
思わず溜息が出た。
「アイツは其れを知った時、これから先、何の為に生きれば良いの分からなくなったと言ったよ。だが、そのうち思ったそうだ。何故、自分達のささやかな幸せが壊されなければならなかったのか、その理由が知りたいと。イーニアが死んでからの自分はただそれだけを糧に生きて来た。だからお前にも真実を教えてやって欲しい。そうカイザードは言ったよ」
『なぁ、何故イーニアだったんだ。教えてくれよ』
カイザードさんの言葉を思い出す。
「それで…本当の理由は分かったんですか?」
私は縋る様な気持ちで彼に問いかけた。
「ああ、分かったよ。その理由は俺からカイザードに伝えた。」
彼は私にも事のあらましを教えてくれた。
それが全ての元凶だったからと。
前国王エラルド陛下と王妃ミカエラ様は非常に仲睦まじいご夫婦だったが子に恵まれなかった。仕方なく陛下は周りの勧めもあり側妃を娶った。
だが、側妃との間にも子を成す事が出来ない。
すると周りは、陛下は子が成せぬ体なのではないかと訝しむ。陛下は確かめたかったのだ。原因は本当に自分なのかと。
何故なら陛下が心から愛するミカエラ様は、ずっと石女だと揶揄されて来たから。彼女はその周りからの心ない中傷に耐え続け、挙句自分は側妃を迎えた。
陛下は、ミカエラ様が仕方のない事だと気丈に振る舞ってはいたが、その実、陰で涙を流していた事を知っておられた。
これが最後。3度目の正直。陛下は第二側妃を迎える事が決まった時、そう仰ったらしい。
そんな陛下にシルベールが囁いた。
それならば子を産んだ経験のある女性を娶られてはどうか。そうすれば真実がはっきりするでしょうと。陛下はシルベールのその言葉に頷いてしまった。彼もまた真実が知りたかった1人だったのだ。そうして選ばれたのか第二側妃アイリス様だった。
「そんな…。血統を重んじる王家に嫁ぐには純潔である事が求められるはずです。それに側妃とは言え王家に嫁ぐのです。身元は徹底的に調べられる筈です」
私もジュリアスに嫁ぐ時調べられた。
「ああ、そうだ。だからシルベールは死人を甦らせると言う手段を使った。周りの沢山の者達を巻き込んで…な」
「死人を甦らせた?」
私は彼の話をとても信じられない思いで聞いていた。
彼はそう説明してくれたが、私は彼の話しを聞きながらも、ふと疑問に思った。
この人は私の事を憎んでいるはずだ。現に今も彼の私を見る瞳はとても鋭い。きっと本当は私の顔なんて見たくもないはずだし、まして話などしたくもないはずだ。
それなのにどうして……。
「ん? どうかしたか?」
私の戸惑いに気付いたのか、彼は私に問いかけた。
「いえ…あの…先程からどうしてそんな大切な話を私にして下さるのかなと思って…」
「何だ? 俺が話し掛けるのは不服か?」
私が恐る恐る答えると、彼は少しだけ苛ついた様な表情を浮かべながらそう言った。
「いえ、そんな事は決して御座いません。だだ…貴方は私の事が憎いでしょう?」
何故こんな当たり前の事を、本人に面と向かって聞いてしまったのか…? 彼からどんな答えを求めていたのか…?
つい、本当につい口を突いて出たのだ。
でも、彼から放たれたのは当たり前の答えで…。
「憎い? ああ、憎いなんて簡単なものじゃない。今すぐにでもこの手で八つ裂きにしてやりたい位だ」
彼はまた、私に射殺さんばかりの眼差しを向けた。
「……っ!」
でも次の言葉で、何故彼が私にこんな話をしてくれるのかの謎が解けた。
「だがな、カイザードに頼まれたんだ…。彼はお前をずっと気に掛けていたよ」
「…カイザードさんが…?」
駄賃だとパンをくれた時の、私に向けてくれた笑顔を思い出す。彼の言葉を聞いて、こんな私の事を気に掛けてくれた人がいた事が嬉しかった。
「ああ、お前はシルベールに言ったんだろう? 何も知らないまま死んでいくのは嫌だと。だからカイザードは、これから死出の道を歩むお前に責めてもの花向けとして、真実を教えてやって欲しいと俺に頭を下げた。そうでなければ、俺はこの馬車にすら乗ってはいないさ」
あの時やっぱりカイザードさんは、私とシルベールの会話を聞いていたんだ。
だから、私のためにこの人に頭を……。
カイザードさんの思いやりに触れ、私は彼に貰ったハンカチを手に握り締めた。目の前の男は続ける。
「俺はカイザードもまた、俺たちと同じ様にシルベールに運命を翻弄された犠牲者だと思っている。だからカイザードの願いを聞き入れてやりたかったんだ。前にも話したと思うが、アイツはいきなり攫われ、あの何もない部屋で何年もの間、ずっと閉じ込められていた。あんな場所に何年もだ。勿論、お前達の様に食事を与えられていない訳ではなかった。だが、それはイーニアに言う事を聞かせるための人質として、アイツを生かしておかなければならなかったからだ。その証拠に、アイツには逃げられない様に常に見張りが付いていたらしい。そしてイーニアが死ぬと、アイツは森の中に置き去りにされた。獣達の餌として、跡形もなく、アイツと言う存在をこの世から消し去るために…な」
私があの部屋にいたのはほんの数日の間だ。それでも、何もないあの部屋にいるのは、息が詰まりそうで本当に辛かった。
そんな所にいきなり攫われ何年も監禁された。
然もそれは、愛する人を自分を使って脅す為。
それを知った時のカイザードさんの気持ちを考えるだけで、胸が締め付けられる様な思いがした。
「カイザードは言ったよ。あの小屋の中で、自分の唯一の心の支えがイーニアだったと。彼女にもう一度会いたい。ただその思いだけで、彼はあの何もない虚無な時間を耐え抜いたんだと。だから森に置き去りにされた後も、彼は必死に獣達と戦った。そうして命からがら逃げて、彼は2人が暮らした家を目指したそうだ。だが、そこに辿り着く前に、カイザードはイーニアの死を知った。それもそうだろう。イーニアはエラルド陛下の寵妃だったんだからな。王子を産んだ彼女の死は、当時、市囲でもかなりの話題になっていたらしいからな」
「……そんな…」
思わず溜息が出た。
「アイツは其れを知った時、これから先、何の為に生きれば良いの分からなくなったと言ったよ。だが、そのうち思ったそうだ。何故、自分達のささやかな幸せが壊されなければならなかったのか、その理由が知りたいと。イーニアが死んでからの自分はただそれだけを糧に生きて来た。だからお前にも真実を教えてやって欲しい。そうカイザードは言ったよ」
『なぁ、何故イーニアだったんだ。教えてくれよ』
カイザードさんの言葉を思い出す。
「それで…本当の理由は分かったんですか?」
私は縋る様な気持ちで彼に問いかけた。
「ああ、分かったよ。その理由は俺からカイザードに伝えた。」
彼は私にも事のあらましを教えてくれた。
それが全ての元凶だったからと。
前国王エラルド陛下と王妃ミカエラ様は非常に仲睦まじいご夫婦だったが子に恵まれなかった。仕方なく陛下は周りの勧めもあり側妃を娶った。
だが、側妃との間にも子を成す事が出来ない。
すると周りは、陛下は子が成せぬ体なのではないかと訝しむ。陛下は確かめたかったのだ。原因は本当に自分なのかと。
何故なら陛下が心から愛するミカエラ様は、ずっと石女だと揶揄されて来たから。彼女はその周りからの心ない中傷に耐え続け、挙句自分は側妃を迎えた。
陛下は、ミカエラ様が仕方のない事だと気丈に振る舞ってはいたが、その実、陰で涙を流していた事を知っておられた。
これが最後。3度目の正直。陛下は第二側妃を迎える事が決まった時、そう仰ったらしい。
そんな陛下にシルベールが囁いた。
それならば子を産んだ経験のある女性を娶られてはどうか。そうすれば真実がはっきりするでしょうと。陛下はシルベールのその言葉に頷いてしまった。彼もまた真実が知りたかった1人だったのだ。そうして選ばれたのか第二側妃アイリス様だった。
「そんな…。血統を重んじる王家に嫁ぐには純潔である事が求められるはずです。それに側妃とは言え王家に嫁ぐのです。身元は徹底的に調べられる筈です」
私もジュリアスに嫁ぐ時調べられた。
「ああ、そうだ。だからシルベールは死人を甦らせると言う手段を使った。周りの沢山の者達を巻き込んで…な」
「死人を甦らせた?」
私は彼の話をとても信じられない思いで聞いていた。
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