36 / 36
それぞれの道 公爵セオドリク・ウィルターン⑧
しおりを挟む
今度は、シルヴィア様の隣に座るミカエラ様が口を開いた。
「情けない男…。確かにそうね。でもね、アルドベリク、貴方は当初の私の反対を押し切ってジルハイムに真実を伝えたの。それにより、貴方はこの国の民を巻き込んだ。その責任は貴方自身が取らなければいけないのではなくて? それに例えシルヴィア様がお産みになった王子だとしても、ジルハイム出身の新たな王には、貴族や民からの反発もあるでしょう。まして民達は、ジュリアスが王位を退く本当の理由を知らされていないのです。先程シルヴィア様が仰っていた様に、このままではシリウス様もアルテーシアの2の前になってしまうかもしれない。それならば今度こそ、シリウス様をどんな事があっても守り抜く。それが貴方の責務ではないの? アルテーシアやエリスを守れなかったと嘆くのは簡単。愛する人の墓を守って生きていきたい。それも反対はしません。でもね。全ての職を退きたい…。それはただの責任逃れなのではなくて?」
ミカエラ様は諭す様にアルドベリクにそう語りかけると、今度は俺に視線を移した。
「セオドリク様、貴方もそうです。貴方はシルベールの領民達を煽って暴動を起こさせた。それならば、収拾してあの領を元の平穏な状態に戻すのは、煽った貴方の責務ではないのですか?」
そして…
「シリウス様にはこの国に心から頼れる者はいません。でも、今回の事で分かったでしょう? 上に立つ者が誤った判断を下せば、それだけで国は簡単に揺らぎ、それに寄って苦しむ人が出るのです。だったら、これからこの国の王となるシリウス様が、決して間違った判断を下さない様に貴方達大人2人が力を合わせて、まだ年若いシリウス様をお支えしてはくれないかしら? それは貴方達の新たな生きる糧にはならない?」
俺たちを真っ直ぐに見据え、ミカエラ様は話を締め括った。
******
あの時は暫く考えたいと即答を避けた俺たちだったが、結局俺は、この国でシリウス様をお支えする事に決めた。
それから暫くしてシルベールとイヴァンナの処刑が終わった後、俺は彼女にその報告がしたいと言ったアルドベリクから、エリスの墓へと誘われた。きっと彼も自分の中で答えを出したのだろう。
「ジュリアスの助命を議会に認めさせたらしいな」
エリスの墓へと向かう馬車の中、俺はアルドベリクに問いかけた。
「ええ、イヴァンナからの最期の願いでした。自分が悪事に手を染めたのは自業自得。でも、ジュリアスは何も知らなかった謂わば犠牲者だと彼女は言いました。実際にはジュリアスは事を隠蔽する為に侍女長の命を奪っています。ですがその反面、侍女長は彼から妻と子を奪った実行犯でもあります。難しい所でしたが何とか幽閉で議会を通しました。ただ、私が地位を失えば彼の命もどうなるか分からないと言う、不安定なものですが…」
彼は俺の問いにそう説明した。俺はアルドベリクのその言葉で彼が宰相として、シリウス様をお支えする決意を固めたのだと悟った。
「だが、君がイヴァンナの願いを叶えるなんてな。彼女の事を恨んでいたんだろう?」
「ええ、勿論です。ですが、私は今回の事で彼女の生い立ちを調べました。ただほんの少しイーニアに容姿が似ていた。ただそれだけで、彼女は幼少期、実の母親と祖母から虐げられて育った。もう2度とあんな生活には戻りたくない…。その思いが、彼女の人格形成に大きな影響を与えていた事は紛れもない事実でしょう。現に彼女は処刑前、深く反省の態度を見せていた。だから1つ位、彼女の願いを聞いてやろうと思ったのです。強いて言うならば最期の花向けですよ」
最期の花向け。
俺もイヴァンナにそう言って、彼女の願いを叶えた。案外、俺とアルドベリクは似ているのかも知れない。
だからなのか…? エリスが彼を好きになったのは…。俺はそんな事を考えた。
「私への恨みや憎しみがもし貴方様の生きる糧になるのならば、私の事を永遠に恨み続けて下さい。イヴァンナは俺に最期にそう言ったよ」
俺はアルドベリクに伝えた。
「恨み続けて下さい…。そうですか…」
アルドベリクは頷きながら、視線を落とした。
イヴァンナとジュリアスは従兄妹同士だった。もし、違う出会い方をしていたら、2人は今も互いに笑い合っていたのかも知れない。
そう考えると、ミカエラ様の仰った言葉の重みを感じた。
「上に立つ者が誤った判断を下せば、それだけで国は簡単に揺らぎ、それに寄って苦しむ人が出るのです…か」
すると、前に座るアルドベリクもまた、俺と同じ事を考えたのかそう呟いた。
やはり俺たちは似ている様だ。
「ジュリアスの幽閉されている塔に見張りの騎士を雇いました。彼は命を狙われる恐れもありますので…」
「そうか…。そうだな…」
俺が頷くと彼は告げた。
「その騎士の名はカイザード・ロッシと言います。腕の立つ騎士です。天国のイヴァンナも安心する事でしょう」と…。
暫くすると馬車が止まった。
「ここにエリスが眠っています。セオドリク様が来てくださって彼女も喜んでいるでしょう。私も良く貴方の話を彼女から聞きました。向日葵は兄がアルテーシア様の輿入れに当たり、彼女に送った花だと。そう彼女は教えてくれました。向日葵は自分も大好きな花だと…。彼女はそう言っていました」
アルドベリクに教えられ馬車の扉を開いた先には、一面の向日葵畑が広がっていた。
終わり
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
年末からのインフルエンザの流行により、本業の方が忙しくなり、(医療関係の仕事をしています)思うように更新が出来なかったにも関わらず、最後までこの作品にお付き合い頂いた読者の皆様に心からの感謝を申し上げます。
本当にありがとうございした。
今回はかなり暗い作品でしたので、仕事が落ち着きましたら、次はハッピーエンド作品を書きたいです。
もし宜しければ、またお付き合い願えたら嬉しく思います。
最後にもう一度。
本当に最後まで私の拙い小説を読んで頂き、本当にありがとうございました🙇🙇
まるまる⭐️
「情けない男…。確かにそうね。でもね、アルドベリク、貴方は当初の私の反対を押し切ってジルハイムに真実を伝えたの。それにより、貴方はこの国の民を巻き込んだ。その責任は貴方自身が取らなければいけないのではなくて? それに例えシルヴィア様がお産みになった王子だとしても、ジルハイム出身の新たな王には、貴族や民からの反発もあるでしょう。まして民達は、ジュリアスが王位を退く本当の理由を知らされていないのです。先程シルヴィア様が仰っていた様に、このままではシリウス様もアルテーシアの2の前になってしまうかもしれない。それならば今度こそ、シリウス様をどんな事があっても守り抜く。それが貴方の責務ではないの? アルテーシアやエリスを守れなかったと嘆くのは簡単。愛する人の墓を守って生きていきたい。それも反対はしません。でもね。全ての職を退きたい…。それはただの責任逃れなのではなくて?」
ミカエラ様は諭す様にアルドベリクにそう語りかけると、今度は俺に視線を移した。
「セオドリク様、貴方もそうです。貴方はシルベールの領民達を煽って暴動を起こさせた。それならば、収拾してあの領を元の平穏な状態に戻すのは、煽った貴方の責務ではないのですか?」
そして…
「シリウス様にはこの国に心から頼れる者はいません。でも、今回の事で分かったでしょう? 上に立つ者が誤った判断を下せば、それだけで国は簡単に揺らぎ、それに寄って苦しむ人が出るのです。だったら、これからこの国の王となるシリウス様が、決して間違った判断を下さない様に貴方達大人2人が力を合わせて、まだ年若いシリウス様をお支えしてはくれないかしら? それは貴方達の新たな生きる糧にはならない?」
俺たちを真っ直ぐに見据え、ミカエラ様は話を締め括った。
******
あの時は暫く考えたいと即答を避けた俺たちだったが、結局俺は、この国でシリウス様をお支えする事に決めた。
それから暫くしてシルベールとイヴァンナの処刑が終わった後、俺は彼女にその報告がしたいと言ったアルドベリクから、エリスの墓へと誘われた。きっと彼も自分の中で答えを出したのだろう。
「ジュリアスの助命を議会に認めさせたらしいな」
エリスの墓へと向かう馬車の中、俺はアルドベリクに問いかけた。
「ええ、イヴァンナからの最期の願いでした。自分が悪事に手を染めたのは自業自得。でも、ジュリアスは何も知らなかった謂わば犠牲者だと彼女は言いました。実際にはジュリアスは事を隠蔽する為に侍女長の命を奪っています。ですがその反面、侍女長は彼から妻と子を奪った実行犯でもあります。難しい所でしたが何とか幽閉で議会を通しました。ただ、私が地位を失えば彼の命もどうなるか分からないと言う、不安定なものですが…」
彼は俺の問いにそう説明した。俺はアルドベリクのその言葉で彼が宰相として、シリウス様をお支えする決意を固めたのだと悟った。
「だが、君がイヴァンナの願いを叶えるなんてな。彼女の事を恨んでいたんだろう?」
「ええ、勿論です。ですが、私は今回の事で彼女の生い立ちを調べました。ただほんの少しイーニアに容姿が似ていた。ただそれだけで、彼女は幼少期、実の母親と祖母から虐げられて育った。もう2度とあんな生活には戻りたくない…。その思いが、彼女の人格形成に大きな影響を与えていた事は紛れもない事実でしょう。現に彼女は処刑前、深く反省の態度を見せていた。だから1つ位、彼女の願いを聞いてやろうと思ったのです。強いて言うならば最期の花向けですよ」
最期の花向け。
俺もイヴァンナにそう言って、彼女の願いを叶えた。案外、俺とアルドベリクは似ているのかも知れない。
だからなのか…? エリスが彼を好きになったのは…。俺はそんな事を考えた。
「私への恨みや憎しみがもし貴方様の生きる糧になるのならば、私の事を永遠に恨み続けて下さい。イヴァンナは俺に最期にそう言ったよ」
俺はアルドベリクに伝えた。
「恨み続けて下さい…。そうですか…」
アルドベリクは頷きながら、視線を落とした。
イヴァンナとジュリアスは従兄妹同士だった。もし、違う出会い方をしていたら、2人は今も互いに笑い合っていたのかも知れない。
そう考えると、ミカエラ様の仰った言葉の重みを感じた。
「上に立つ者が誤った判断を下せば、それだけで国は簡単に揺らぎ、それに寄って苦しむ人が出るのです…か」
すると、前に座るアルドベリクもまた、俺と同じ事を考えたのかそう呟いた。
やはり俺たちは似ている様だ。
「ジュリアスの幽閉されている塔に見張りの騎士を雇いました。彼は命を狙われる恐れもありますので…」
「そうか…。そうだな…」
俺が頷くと彼は告げた。
「その騎士の名はカイザード・ロッシと言います。腕の立つ騎士です。天国のイヴァンナも安心する事でしょう」と…。
暫くすると馬車が止まった。
「ここにエリスが眠っています。セオドリク様が来てくださって彼女も喜んでいるでしょう。私も良く貴方の話を彼女から聞きました。向日葵は兄がアルテーシア様の輿入れに当たり、彼女に送った花だと。そう彼女は教えてくれました。向日葵は自分も大好きな花だと…。彼女はそう言っていました」
アルドベリクに教えられ馬車の扉を開いた先には、一面の向日葵畑が広がっていた。
終わり
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
年末からのインフルエンザの流行により、本業の方が忙しくなり、(医療関係の仕事をしています)思うように更新が出来なかったにも関わらず、最後までこの作品にお付き合い頂いた読者の皆様に心からの感謝を申し上げます。
本当にありがとうございした。
今回はかなり暗い作品でしたので、仕事が落ち着きましたら、次はハッピーエンド作品を書きたいです。
もし宜しければ、またお付き合い願えたら嬉しく思います。
最後にもう一度。
本当に最後まで私の拙い小説を読んで頂き、本当にありがとうございました🙇🙇
まるまる⭐️
3,388
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
【完結】貴方の傍に幸せがないのなら
なか
恋愛
「みすぼらしいな……」
戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。
彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。
彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。
望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。
なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。
妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。
そこにはもう、私の居場所はない。
なら、それならば。
貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。
◇◇◇◇◇◇
設定ゆるめです。
よろしければ、読んでくださると嬉しいです。
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。
紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。
学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ?
婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。
邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。
新しい婚約者は私にとって理想の相手。
私の邪魔をしないという点が素晴らしい。
でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。
都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。
◆本編 5話
◆番外編 2話
番外編1話はちょっと暗めのお話です。
入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。
もったいないのでこちらも投稿してしまいます。
また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。
愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。
梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。
ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。
え?イザックの婚約者って私でした。よね…?
二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。
ええ、バッキバキに。
もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる