悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️

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「ほう…お荷物。宰相はそう申したのか?」

 ワシの怒りを含んだ問いかけに宰相は青ざめ言葉を失い、反対にエドガーは胸を張った。

「ああ、そうだ! この役立たずめ!!」

 お荷物、厄介払い、役立たず……。

 愚弄される度、怒りがワシの体内に眠る魔力を膨張させていく。抑えようとしても膨れ上がっていくその魔力の気配を感じ取ったのだろう……。

「殿下! それ以上は……!」

 宰相がガタガタ震えながら叫ぶと、エドガーを止めようと必死に手を伸ばす。

 だが当のエドガーはどこ吹く風。

 そうか……。此奴、王太子でありながら魔力を感じ取る事が出来ぬのか…? なる程、ダンケルがあれ程アルテミスを欲しがった理由はこれか。

 だが見た所、これだけ貴族ばかりが集まっている中で、ワシの膨れ上がった魔力に気付いている者は宰相を含めごく僅か。

 この国の魔法使いの数が減っている?

 ワシはこの国の現実を突きつけられた様な気がして愕然とした。

 だが、何故この様な事になっておる……?

 すると、人が考え事をしていると言うのに、王太子がまた空気を読まない発言をする。

「だいたいアルテミスは可愛い気が無いんだ。口を開けば小言ばかり。顔だけは良いんだ。ララの10分の1でも可愛げと愛嬌が有れば、夜の相手位はしてやったものを……」

 そう言ってイヤラしく笑った。

 此奴。この非常事態に何を下らない事をペラペラと…。

 それもアルテミスちゃんの夜の相手位してやるだと? 今すぐギタギタに切り刻んでソーセージにでもしてやろうか!!

 ワシは取り敢えずこの馬鹿を何とかする事にした。

「黙れ! また拘束魔法をかけられたいか? 娘を愚弄するなと申したであろう? それとも今度はこうして欲しいか?」

 指をピンと弾く。

 ドドドーン!!

 突然、大広間の窓から見える木に雷が落ち、真ん中から真っ二つに引き裂かれた。

「……ヒッ!!」

 エドガーは無様に腰を抜かし後退った。

「心配せずとも娘は今後一切、其方と関わる事はない!」

 ところが驚いた事にエドガーはそうは思ってはいない様だ。

「嘘をつけ! アルテミスは私の事が好きなんだ。だから嫉妬してララを虐めたんだ!!」

 エドガーのこの主張にワシは呆れ果て、娘に問い掛けた。

「そうなのか?」

 すると娘は身震いしながら叫んだ。

「そんな冗談、やめて下さい!! だいたい、ララ様は何時も私がララ様をいじめたと仰いますが、一体何のことですの?」

「……それはっ……。何時も私と殿下が一緒にいると睨んでくるじゃない!?」

「睨む? あの……他には?」

「そ……それだけだけど……とっても怖かったわ!!」

 ララは声を上げるが、その答えを聞いた娘はやれやれと言った風に呆れて首を振った。

「それはひとえに通行の邪魔だからですわ」

「え?」

「だってそうでしょう? 先程の様に体を密着させながら廊下を歩いていらっしゃるんですもの……。はっきり言って、邪魔な事この上ありませんわ!」

 娘はきっぱりと言い切った。

「それは……迷惑な話しだな」

 ワシも娘の話に相槌を打った。

「そうなんです。皆、迷惑しておりますわ」

 娘がそう言うと、その場にいた卒業生達も皆頷いた。

「殿下、皆と言うのはこう言う状態の事を言うんですのよ!」

 娘は勝ち誇った様な笑みを見せる。先程悪役令嬢と言われた意趣返しだろう。

 それを見たエドガーとララはばつが悪そうに目を分かりやすく逸らした。

「これで分かったか? やはり娘は其方を好きでもなんでもない様だ」

「……そんな……そんな訳はないっ!! アルテミスは私の事を愛している筈だ!!」

 今しがた明らかになった事実に、エドガーは戸惑いながら叫んだ。

 なんだ? 好きの次は愛しているか?

 全く、此奴の頭の中はどれだけ花が咲いておるのか? きっと春爛漫。一面満開のお花畑だろう。

 だが、こんな奴に何時迄も付き合ってはおれん。

「まぁ、そう言う事で我が家が出て行ったところでこの国には何の問題もない。そうなのであろう?」

 ワシはエドガーの顔を覗き込み笑みを浮かべた。

「……それは……」

 途端に狼狽え出したエドガーは、伺う様に宰相の方を見た。

 この様子を見るに、やはりエドガーは宰相にまんまと乗せられ踊らされたと言ったところだろう。

 ならばそれに乗ってやる事にした。

「さぁ、これで殿下の仰る通り、我が家と言う厄介者が出て行くのです。陛下もきっとお喜びになりますよ? 宰相も我が家をお荷物だと言ったのでしょう?」

「……そ、そうか」

 先程まで高圧的だったワシが、少し下手に出てそう言えば王太子は素直に頷いた。

 全く、馬鹿は扱い易くて助かる。

「ぐっ……」

 反対に宰相は苦虫を噛み潰した様な顔をして眉を寄せた。

 他の国は皆、少しでも多くの領地を得る為、血を流して戦うと言うのに……。

 さて、この後宰相はどう動くのか?

 流石に我がグランベルクが国を出て行くとまでは思っては居なかったであろう。それでも力ずくでワシを止めぬのは、今此処でワシと騒ぎを起こせば、多数の怪我人が出る事が分かっているからだ。

 それ位の分別はある様だな。

「では殿下のお許しが出たところで、ワシは娘を連れて辺境の地へと帰る事と致しましょう。それでは殿下、後日、独立の為の書類を整えて王宮にお伺い致します。さぁ、アルテミス、帰るぞ」

 ワシは娘に声を掛け、手を差し出した。

「はい」

 娘は頷き、ワシの手を取った。

 





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