穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ

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3年1学期

58話:ミチル先生とのお話

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「ペア監督を引き受けてくれてありがとう。フレン君のおかげであの子達はもう大丈夫そうだわ」

 ルカとエリオ君のわだかまりが少し解消したペア授業の後、3年棟に戻ろうとした俺を呼び止めてミチル先生がそうお礼の言葉を告げる。

「いえ!俺もルカの事は気になってましたし、エリオ君とも仲良くなれて良かったです」

 正直言うと大変な事の方が多かったけど、それでも俺はペア授業の監督を引き受けて良かったと思っている。カイのサポートで授業の遅れも殆ど出てないしね。

「そう言ってくれるとこちらとしてもありがたいわ……、フレン君の前向きな姿勢を私も見習わないと!」

 小さくガッツポーズをしながらミチル先生が自分に喝を入れる様にそう呟く。巻き込まれた俺が言うのもなんだけど、今回の件は新人のミチル先生が抱えるには若干大きすぎる騒動だったと思う。いくら先生といっても、この多種多様な種族が生徒として通う学校で大きなトラブルが起きない様にするのはきっと大変だ。特にミチル先生は人間で、特別魔力が高いわけじゃないからその苦労はきっと大きい。
 うちの国では先生になるには専門の学校に2年通った後実際に学校で研修教師として経験を積む必要があるんだけど、ミチル先生は去年まで研修中だったから初めて受け持つ生徒がルカっていうのは中々のくじ運だと思う。ていうか学校側ってそういうの配慮しないのかな?

「確かにルカ君は少し問題児だけど、授業には出てくれるし目立った素行の悪さもないいい子だから大丈夫よ」
「えっ、俺今言葉に出てましたか?」

 まるで俺の考えを読んだようなミチル先生の返事に驚いて俺は彼女の顔を見た。

「顔を見てたら言いたい事はわかるわ。ふふ、これね、先生の特技なの」

 メガネ越しの彼女のオレンジの瞳は少しいたずらっぽく笑っていて、その表情は新人のどこか頼りない先生というより年上の先輩という雰囲気がする。
 そういえばルカがエリオ君とトラブルを起こした時に事の詳細を説明してくれたのはミチル先生だった。あの時は事の次第に気を取られて気が付かなかったけど、ルカのあの少ない言葉から状況を推測して全貌を把握していたのもよく考えたら普通じゃない。

「魔法……とかですか?」
「ふふ、違うわ。昔からなんとなく、相手の考えてそうだなーって事がわかるの。全部じゃないし、いいことばっかりじゃないけどね」
「せ、先生って皆そうなんですか?」

 別に俺は悪いことをするつもりはないけど、もし先生達皆から考えを読まれてたらなんか恥ずかしい気がする。

「……そうじゃなかったから、私は先生になろうと思ったの」
「それはどういう……?」

 俺の質問にミチル先生は少し遠くを見る様に視線を動かし微笑む。

「まぁ、色々ね。私はまだ新米だけど、それでも生徒が思ってる事を汲み取って過ごしやすい学校にしていきたいと思ってるわ。それがきっと私にできる、私の理想だから」
「……自分にできる、理想」
「天性の魔法の素質とかはないけど、小さくても私にしかできない何かで、誰かの未来を育てていけたら、私はそれが一番嬉しい」

 はぐらかされた様な気もするけど、それよりもその自分にできる理想って言葉が俺の心に響いた。
 さっき先生は自分の能力をいいことばかりじゃないって言っていた。人の考えている事がわかる力だ、きっと何かトラブルもあったんだと思う。それでもそれを乗り越えて今は理想の実現の為に活かしているっていうのはなんだかとっても素敵な事の様な気がした。

「私ね、フレン君は先生に向いてると思うの」
「え?俺が?」

 そんな事初めて言われた。俺は勉強も魔法もそんなに得意じゃないから誰かに何かを教える先生という職業に就くイメージが全然湧かないんだけど、ミチル先生は俺の何を見てそう思ったんだろう。

「確かに先生としての最低限の能力は必要だけど、それよりも相手の事をしっかり見て、寄り添える事の方が私は大切だと思うの」
「……今また俺の考え読みました??」
「ごめんね、わかりやすくってつい。まあそれは置いといて、フレン君のそういう優しさがこの多種族社会の多感な子供達には必要だと私は思うわ」

 しれっとまた考えを読まれてたのはちょっと恥ずかしいけど、ミチル先生はまっすぐ俺の目を見て伝えてくれる。

「俺、そんな優しいですか?特に何かしたつもりはないんですけど……」
「優しさって行動もあるけど、その根幹は考え方だと思うの。フレン君にはそれで無理をしてしまわない方法を学校では学んで、その心を大切にして欲しい。そしてもし興味があったらこういう道もあるなって考えてみて」
「わかりました……?」

 一応返事は返したものの、正直自分ではあまりよくわからない。前にジンが言っていた事に少し似てる気もするけど、これってそんな特別なことかな?

「長く引き止めてごめんね、本当に助かったわ。もし進路とかで悩む事があったら私でよければ色々教えるから遠慮なく聞いてね」
「ありがとうございます。先生もルカの事でまた何かあったら連絡ください!」

 俺はミチル先生にお辞儀をして自分の教室に向かって歩き始める。

「先生かぁ……」

 3年生は始まったばかりだけど、将来の進路を決めるまであと1年もない。今まで自分の種族のこともあって漠然としか考えていなかった未来の自分の姿。そのイメージにほんの少し、今まで想像してなかった輪郭がつく。
 今の学校生活は、楽しい。このクロスフォード学園に入るまでも基本的に楽しく過ごしてたけど、うちの学校は生徒の種族が多様なのに制度が行き届いていてとても過ごしやすい。それは当たり前じゃなくて、その環境を整えてくれている先生達のおかげ。さっきミチル先生は言わなかったけど、彼女も俺が夢魔の血を引いてる事は知っている。その上で普通に接して将来の話もしてくれた。それがとても嬉しくて俺は将来のイメージをもう少しだけ進める。

「もし、俺みたいな生徒がいたら、その子にも楽しく過ごして欲しいかも」

 勉強は苦手だし、そもそもどうやって先生になるのかもあんまりわかってない。だけどほんの少しだけそんな未来もいいな、なんて想像しながら俺はいつもとは違う気持ちで教室までの廊下をゆっくり歩いた。
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