116 / 131
3年2学期
116話: 文化祭、波乱の学園演劇とライブ⑤
しおりを挟む
「いたた……あー、やっちゃった」
チアライブ終了後、俺は会場裏口から出て1人保健室に向かっていた。本当は撤収作業があるんだけど、ライブ中の俺の異変に気がついたメンバーから保健室に行くように言われて作業を免除してもらったんだよね。カイはついてきてくれようとしたけど、カイがいないと機材が運べないから断って今に至る感じ。
ちなみにこの裏口からのルートは一般開放はされてなくて、ライブで熱狂した観客が集まってくることもない。去年の学園演劇ではそれで結構苦労したけどちゃんと対策がされたみたいだ。
保健室までの静かな道を歩いていたら不意にくすぐるような甘い声が俺の耳に届く。
「ライブすごく良かったよ。フレンに応援してもらえて、俺凄く元気が出たなぁ」
「……ジン」
誰もいないはずの廊下に当然のように佇んで彼はこちらに笑いかけてきた。関係者以外知らないはずのここをなんでジンが知ってるのかと思ったけど、まあジンならありえるのであまり疑問には思わない。
「脚、怪我してるんでしょ?お手をどうぞ」
「……はぁ、どうせなら運んでくれたりしないの?」
「そういうのは俺の管轄じゃないからね。でも1人よりはいいでしょ?」
そう言ってヘラヘラ笑いながらジンは俺に手を差し出す。
「まあいいけど、支えるくらいはしてよね」
「任せて、フレン。ああ、不安だったら抱きついてくれてもいいよ?」
「絶対そんなことしないから!」
相変わらず調子は軽いし、性格も良いとは言い難い。だけど繋いだ手は温かくてその体温に心が落ち着く自分もいる。そんな、唯一俺の孤独を知っている、奇妙な繋がりの相手。
「フレンから招待してもらえて俺すごく嬉しかったよ。ありがとう」
「別に……チケット余ってたからたまたまだけど……」
ジンから珍しくまっすぐなお礼を言われて、俺はそのむず痒さを誤魔化すように目を逸らした。
チケットを誰に渡そうか考えてる時、メッセージアプリに残っていたジンから貰った翻訳が目に入った。去年のルナソールの学園演劇の題材である『邪竜の王と夢魔の姫』の翻訳は、夢魔の偏見に晒されてる俺にとって心の支えになるような温かい物語だった。とても気に入ってて今でもよく読み返すそれが目に止まった時、俺はそれのお返しをしていない事を思い出した。ジンからは見返りはいらないって言われてたけど、貰いっぱなしでは居心地が悪い。だから、俺は前にジンが体育祭で俺に応援して欲しいって言ってた軽口に応える形でチケットを贈ることにした。
「ライブ中手を振るの迷ってたの気づいたよ。フレンって素直で可愛いよね」
「……っ、変なとこばっかり見ないでよね!本当ジンって性格悪い」
招待した手前、何かアピールしたほうがいいかなって思ったけど気恥ずかしくなってやめたのをバッチリ見られていたらしい。わざわざ指摘してくるところが本当に意地悪だと思う。
「褒めてるんだけどなぁ。それに、今日もこれをつけててくれて嬉しいよ」
「……ジンから貰ったのを差し引いたら、使いやすいし……お気に入りだから」
「俺のセンス気に入ってくれたんだ?フレンに似合うものを選んだ甲斐があったなぁ」
今の俺の言葉からよくこんなポジティブな解釈ができるよね。俺はジンの視線の先、前に冬月祭のプレゼントでもらった髪飾りの不快じゃない重さを感じながら、呆れてため息をつく。
保健室までの少し心細い道のりはいつの間にか面倒だけど寂しくはないものに変わっていた。
◇
「フレンっ大丈夫か?」
保健室で俺が治療を受けていたら、扉を勢いよく開けてクロードが飛び込んできた。
「あ、クロード!うん、大丈……」
「……っ!?なんでお前がここにいるんだ……?」
俺が返事を返す前にクロードが俺の横のジンを見て固まる。その視線からこの反応が友好的な感情ではないことは誰が見ても明らかだ。
「久しぶり幼馴染君。体育祭以来かな?その節はどうも」
「っ、俺の名前はクロードだ。そんな事より何故お前がフレンの横に……」
「一応、保健室に来るの手伝ってくれたんだよね。……まあなんで関係者通路を知ってたかはわかんないけど」
クロードが警戒心を露わにしてるから、それを緩和しようと俺は説明を挟む。
「そういう事。まだ、何もしてないから安心してくれていいよ?クロード君」
「……っお前」
なんだけど、ジンがなんでか煽るような口調でそんな事を言うからクロードの表情はますます険しくなっていく。なんでこんな事言うかな。確か前にクリスフィアさんの誕生日会でもカイに対してこんな感じだったし、性格悪いのは分かってるけど、本当にやめて欲しい。
俺がこんな感じでため息をついていたらジンが耳元に口を寄せてこう呟く。
「お迎えが来たみたいだから俺はそろそろ帰るね。お大事に」
その距離の近さに俺が文句を言う前に、優雅な仕草で手を振ってジンは保健室を後にした。
後にはいつもジンの身に纏っている良い香りだけが残っている。あまりに一瞬の出来事でまだ俺が上手く状況が飲み込めていない中、保健室の先生がそろそろ帰って欲しいと声をかけてきて、俺とクロードも保健室を出ることになった。
チアライブ終了後、俺は会場裏口から出て1人保健室に向かっていた。本当は撤収作業があるんだけど、ライブ中の俺の異変に気がついたメンバーから保健室に行くように言われて作業を免除してもらったんだよね。カイはついてきてくれようとしたけど、カイがいないと機材が運べないから断って今に至る感じ。
ちなみにこの裏口からのルートは一般開放はされてなくて、ライブで熱狂した観客が集まってくることもない。去年の学園演劇ではそれで結構苦労したけどちゃんと対策がされたみたいだ。
保健室までの静かな道を歩いていたら不意にくすぐるような甘い声が俺の耳に届く。
「ライブすごく良かったよ。フレンに応援してもらえて、俺凄く元気が出たなぁ」
「……ジン」
誰もいないはずの廊下に当然のように佇んで彼はこちらに笑いかけてきた。関係者以外知らないはずのここをなんでジンが知ってるのかと思ったけど、まあジンならありえるのであまり疑問には思わない。
「脚、怪我してるんでしょ?お手をどうぞ」
「……はぁ、どうせなら運んでくれたりしないの?」
「そういうのは俺の管轄じゃないからね。でも1人よりはいいでしょ?」
そう言ってヘラヘラ笑いながらジンは俺に手を差し出す。
「まあいいけど、支えるくらいはしてよね」
「任せて、フレン。ああ、不安だったら抱きついてくれてもいいよ?」
「絶対そんなことしないから!」
相変わらず調子は軽いし、性格も良いとは言い難い。だけど繋いだ手は温かくてその体温に心が落ち着く自分もいる。そんな、唯一俺の孤独を知っている、奇妙な繋がりの相手。
「フレンから招待してもらえて俺すごく嬉しかったよ。ありがとう」
「別に……チケット余ってたからたまたまだけど……」
ジンから珍しくまっすぐなお礼を言われて、俺はそのむず痒さを誤魔化すように目を逸らした。
チケットを誰に渡そうか考えてる時、メッセージアプリに残っていたジンから貰った翻訳が目に入った。去年のルナソールの学園演劇の題材である『邪竜の王と夢魔の姫』の翻訳は、夢魔の偏見に晒されてる俺にとって心の支えになるような温かい物語だった。とても気に入ってて今でもよく読み返すそれが目に止まった時、俺はそれのお返しをしていない事を思い出した。ジンからは見返りはいらないって言われてたけど、貰いっぱなしでは居心地が悪い。だから、俺は前にジンが体育祭で俺に応援して欲しいって言ってた軽口に応える形でチケットを贈ることにした。
「ライブ中手を振るの迷ってたの気づいたよ。フレンって素直で可愛いよね」
「……っ、変なとこばっかり見ないでよね!本当ジンって性格悪い」
招待した手前、何かアピールしたほうがいいかなって思ったけど気恥ずかしくなってやめたのをバッチリ見られていたらしい。わざわざ指摘してくるところが本当に意地悪だと思う。
「褒めてるんだけどなぁ。それに、今日もこれをつけててくれて嬉しいよ」
「……ジンから貰ったのを差し引いたら、使いやすいし……お気に入りだから」
「俺のセンス気に入ってくれたんだ?フレンに似合うものを選んだ甲斐があったなぁ」
今の俺の言葉からよくこんなポジティブな解釈ができるよね。俺はジンの視線の先、前に冬月祭のプレゼントでもらった髪飾りの不快じゃない重さを感じながら、呆れてため息をつく。
保健室までの少し心細い道のりはいつの間にか面倒だけど寂しくはないものに変わっていた。
◇
「フレンっ大丈夫か?」
保健室で俺が治療を受けていたら、扉を勢いよく開けてクロードが飛び込んできた。
「あ、クロード!うん、大丈……」
「……っ!?なんでお前がここにいるんだ……?」
俺が返事を返す前にクロードが俺の横のジンを見て固まる。その視線からこの反応が友好的な感情ではないことは誰が見ても明らかだ。
「久しぶり幼馴染君。体育祭以来かな?その節はどうも」
「っ、俺の名前はクロードだ。そんな事より何故お前がフレンの横に……」
「一応、保健室に来るの手伝ってくれたんだよね。……まあなんで関係者通路を知ってたかはわかんないけど」
クロードが警戒心を露わにしてるから、それを緩和しようと俺は説明を挟む。
「そういう事。まだ、何もしてないから安心してくれていいよ?クロード君」
「……っお前」
なんだけど、ジンがなんでか煽るような口調でそんな事を言うからクロードの表情はますます険しくなっていく。なんでこんな事言うかな。確か前にクリスフィアさんの誕生日会でもカイに対してこんな感じだったし、性格悪いのは分かってるけど、本当にやめて欲しい。
俺がこんな感じでため息をついていたらジンが耳元に口を寄せてこう呟く。
「お迎えが来たみたいだから俺はそろそろ帰るね。お大事に」
その距離の近さに俺が文句を言う前に、優雅な仕草で手を振ってジンは保健室を後にした。
後にはいつもジンの身に纏っている良い香りだけが残っている。あまりに一瞬の出来事でまだ俺が上手く状況が飲み込めていない中、保健室の先生がそろそろ帰って欲しいと声をかけてきて、俺とクロードも保健室を出ることになった。
35
あなたにおすすめの小説
平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています
七瀬
BL
あらすじ
春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。
政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。
****
初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m
先輩たちの心の声に翻弄されています!
七瀬
BL
人と関わるのが少し苦手な高校1年生・綾瀬遙真(あやせとうま)。
ある日、食堂へ向かう人混みの中で先輩にぶつかった瞬間──彼は「触れた相手の心の声」が聞こえるようになった。
最初に声を拾ってしまったのは、対照的な二人の先輩。
乱暴そうな俺様ヤンキー・不破春樹(ふわはるき)と、爽やかで優しい王子様・橘司(たちばなつかさ)。
見せる顔と心の声の落差に戸惑う遙真。けれど、彼らはなぜか遙真に強い関心を示しはじめる。
****
三作目の投稿になります。三角関係の学園BLですが、なるべくみんなを幸せにして終わりますのでご安心ください。
ご感想・ご指摘など気軽にコメントいただけると嬉しいです‼️
転生したが壁になりたい。
むいあ
BL
俺、神崎瑠衣はごく普通の社会人だ。
ただ一つ違うことがあるとすれば、腐男子だということだ。
しかし、周りに腐男子と言うことがバレないように日々隠しながら暮らしている。
今日も一日会社に行こうとした時に横からきたトラックにはねられてしまった!
目が覚めるとそこは俺が好きなゲームの中で!?
俺は推し同士の絡みを眺めていたいのに、なぜか美形に迫られていて!?
「俺は壁になりたいのにーーーー!!!!」
うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。
春雨
BL
前世を思い出した俺。
外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。
愛が重すぎて俺どうすればいい??
もう不良になっちゃおうか!
少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。
初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。
※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫です。
※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。
もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。
なるべく全ての感想に返信させていただいてます。
感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます!
俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中
油淋丼
BL
少女漫画のような人生を送っていたクラスメイトがある日突然命を落とした。
背景の一部のようなモブは、卒業式の前日に事故に遭った。
魔王候補の一人として無能力のまま召喚され、魔物達に混じりこっそりと元の世界に戻る方法を探す。
魔物の脅威である魔導騎士は、不思議と初対面のようには感じなかった。
少女漫画のようなヒーローが本当に好きだったのは、モブ君だった。
異世界に転生したヒーローは、前世も含めて長年片思いをして愛が激重に変化した。
今度こそ必ず捕らえて囲って愛す事を誓います。
激重愛魔導最強転生騎士×魔王候補無能力転移モブ
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。
最可愛天使は儚げ美少年を演じる@勘違いってマジ??
雨霧れいん
BL
《 男子校の華 》と呼ばれるほどにかわいく、美しい少年"依織のぞ"は社会に出てから厳しさを知る。
いままでかわいいと言われていた特徴も社会に出れば女々しいだとか、非力だとか、色々な言葉で貶された。いつまでもかわいいだけの僕でいたい!いつしか依織はネットにのめり込んだ。男の主人公がイケメンに言い寄られるゲーム、通称BLゲーム。こんな世界に生まれたかった、と悲しみに暮れ眠りについたが朝起きたらそこは大好きなBLゲームのなかに!?
可愛い可愛い僕でいるために儚げ男子(笑)を演じていたら色々勘違いされて...!?!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる