地味子と蔑まれた私ですが、公爵様と結ばれることになりましたので、もうあなたに用はありません

有賀冬馬

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帝都で最も華やかな大舞踏会の日がやってきた。

私は、セイラン様が選んでくださった、夜空のような深い青色のドレスを身につけていた。胸元には繊細なレースがあしらわれ、スカートは幾重にも重なったフリルで、まるで波のように揺れる。髪は、セイラン様専属の美容師さんが、きらめく宝石を散りばめて、美しく結い上げてくれた。

鏡に映る自分を見て、私は息をのんだ。そこにいたのは、かつての「地味子」エミリアではなかった。自信に満ちた瞳と、穏やかな微笑みをたたえた、まるで別人のような私がいたのだ。

「エミリア嬢、準備はよろしいですか?」

セイラン様が、私の部屋の扉をノックした。彼の声を聞くと、私の胸は高鳴る。

「はい、セイラン様」

私が扉を開けると、セイラン様はハッと息をのんだように見えた。彼の瞳が、私をまっすぐに見つめる。

「……息をのむほど美しい。まるで、夜空に輝く星のようだ」

セイラン様の言葉に、私の頬は熱くなった。こんなにもストレートに褒められたのは初めてだった。

「ありがとうございます、セイラン様。これも、セイラン様のおかげです」

私は、彼の差し出した手を取った。彼の指は、温かくて、私の心を落ち着かせてくれる。

大舞踏会の会場は、まばゆいばかりの光に満ちていた。豪華なシャンデリアが輝き、色とりどりのドレスをまとった貴族たちが、楽しそうに談笑している。

セイラン様のエスコートで、私が会場に足を踏み入れた瞬間、ざわめきが起こった。

「あれは……誰だ?」

「なんて美しい方なの! まるで、女神のようだわ!」

視線が、私に集中する。私は少し緊張したけれど、セイラン様が私の手をぎゅっと握ってくれたので、安心できた。

そして、そのざわめきの中に、聞き覚えのある声が混じっていた。

「な、なぜ……エミリアが……!?」

その声の主は、アレク様だった。彼は、公爵令嬢カミーユ様の隣に立っていた。私を見たアレク様の顔は、驚きと焦りで歪んでいた。カミーユ様もまた、信じられないものを見るかのように、私を凝視している。

「嘘でしょう……あの地味なエミリアが……あんなに美しくなるなんて……」

カミーユ様の呟きが、私の耳に届いた。

私は、彼らの視線から逃げることなく、まっすぐ前を向いた。もう、怯える私ではない。

セイラン様は、私を会場の中央へと導いてくれた。私たちは、優雅にワルツを踊った。セイラン様のリードは完璧で、私は彼の腕の中で、まるで宙を舞っているかのような気分だった。

「エミリア嬢、楽しんでいますか?」

セイラン様が、私の耳元で優しく囁いた。

「はい、セイラン様。こんなに楽しい舞踏会は初めてです」

私は心からそう答えた。本当に、そうだったのだ。私は今まで、舞踏会というものを楽しんだことがなかった。でも今は、こんなにも楽しい。彼の温かい眼差しが、私を包み込む。

ワルツが終わると、アレク様が、まるで吸い寄せられるように私の元へやってきた。彼の顔は、青ざめていた。

「エミリア……なのか? まさか、本当に君なのか?」

アレク様は、信じられないという表情で、私の顔を覗き込んだ。

「ええ、アレクサンダー様。お久しぶりでございます」

私は、冷たく、しかし毅然とした声で答えた。

「ま、まさか……君がこんなに美しくなるなんて……」

アレク様は、言葉を失っているようだった。隣にいたカミーユ様も、悔しそうに唇を噛んでいる。

「エミリア! 君は、僕のことを許してくれるのか!? あの時のことは、僕が悪かった! 君を傷つけてしまったことを、心から後悔している!」

アレク様は、私の手を掴もうとした。しかし、その手はセイラン様によって、すっと払われた。

「私のエスコート相手に、無礼な真似はよしていただきたい」

セイラン様の声は、低く、冷たかった。アレク様は、セイラン様の威圧感に、たじろいだ。

「セイラン公爵……!?」

アレク様は、セイラン様の存在に気づいていなかったようだ。彼は、セイラン様が帝国一の名家・レーヴェ家の当主の孫であるということを知っているはずだ。

「エミリア、頼む! もう一度、僕とやり直してくれないか!? 君がいなくなってから、僕の人生はめちゃくちゃだ! 君こそが、僕の隣に立つべき女性だったんだ!」

アレク様は、必死に私に懇願した。彼の目には、焦りと、そして後悔の色が浮かんでいた。かつて私を冷酷に切り捨てた彼が、今、私の前で必死に頭を下げている。

私は、静かにアレク様を見つめた。あの時、私をどん底に突き落とした彼の言葉が、脳裏をよぎる。

『もう遅いんだ、エミリア。それに、君がどんなに努力したところで、カミーユ様には敵わない』

あの時の、彼の冷たい声。私の心は、もう彼に揺らぐことはない。

「アレクサンダー様」

私は、はっきりと、そして穏やかな声で言った。

「私は、もうあなたの隣に立つことはできません」

アレク様の顔から、血の気が引いていく。

「な、なぜだ!? 君は、僕の婚約者だったんだぞ!」

「いいえ。私は、あなたの『飾り』ではありませんでした」

私は、アレク様の目をまっすぐに見つめた。

「あなたは、私を『出世のための踏み台』としか見ていなかった。そして、より見栄えのする『飾り』を見つけたから、私を捨てたのでしょう?」

私の言葉に、アレク様は何も言い返すことができない。カミーユ様も、顔を真っ赤にして俯いている。

「私があなたの隣に立つには、小さすぎたのですよ、……あなたが」

私は、そう告げた。それは、かつての私を否定し、今の私を肯定する言葉だった。あなたの器が小さすぎて、私の本当の価値に気づけなかったのだ、と。

アレク様は、その場に立ち尽くし、呆然としていた。彼の顔は、絶望に染まっていた。

社交界の人々が、私たちの会話に聞き入っていた。彼らは、アレク様が私を捨てたことを知っている。そして今、そのアレク様が、私に復縁を懇願し、そして拒絶されている光景を目の当たりにしている。

私は、アレク様にも、カミーユ様にも、もう何の感情も抱かなかった。彼らは、私の過去の一部にすぎない。

私は、セイラン様の手を取り、アレク様から離れた。

「エミリア嬢、よく言いました」

セイラン様が、私の頭を優しく撫でてくれた。その温かい手に、私の心は満たされる。

「セイラン様……」

私は、彼の顔を見上げた。彼の瞳は、私への深い愛情で満ちていた。

「君は、もう何も恐れることはない。これからは、僕が君を守る」

セイラン様の言葉に、私の目から涙が溢れた。私は、ずっとこんな言葉を待っていたのかもしれない。

舞踏会の音楽が、再び流れ始めた。私たちは、手を取り合い、会場を後にした。

夜空には、満月が輝いていた。

「エミリア、僕の妻になってくれませんか?」

セイラン様が、私の手を握りしめ、そう言った。

私の心は、幸福でいっぱいになった。私は、もう「地味子」ではない。セイラン様が、私を本当の私として見てくれる。

「はい、喜んで!」

私は、満面の笑みで答えた。

私の人生は、アレク様によって一度は終わりを告げたけれど、セイラン様との出会いが、新しい扉を開いてくれた。私は、もう過去の傷に囚われることはない。

これからは、セイラン様と共に、新しい未来を歩んでいく。

私たちは、手を取り合い、輝く未来へと歩き出した。私の心には、希望と、そしてセイラン様への限りない愛情だけが残っていた。

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