ご愁傷様です~「冴えない女」と捨てられた私が、王妃になりました~

有賀冬馬

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ラウル様の手を取って、私はゆっくりと壇上へと上がった。会場はまだざわめいている。誰もが信じられないといった顔で、私とラウル様を見つめていた。ロザリアは、口をあんぐり開けたまま、呆然と立ち尽くしている。そして、エルマー様とリーゼロッテ様は……。

「バカな……!こんな地味で冴えない女など、王妃にふさわしいはずがない!」

突如、広間に響き渡ったのは、エルマー様の、怒りに震える声だった。彼は、私を指差して、まるで私を罵倒するように叫んだ。リーゼロッテ様は、そんなエルマー様の隣で、顔を真っ青にして俯いている。

会場のざわめきが、ピタリと止まった。誰もが、エルマー様の言葉に凍り付いたようだった。国王陛下に向かって、こんな暴言を吐くなんて!

私の心臓が、ドクンと大きく音を立てた。エルマー様の言葉が、私を深くえぐる。昔の私だったら、きっと泣き出して、その場から逃げ出したくなっていたはずだ。でも、今は違う。私の隣には、ラウル様がいる。

ラウル様は、エルマー様の暴言にも、表情一つ変えなかった。ただ、その瞳の奥に、ほんの少しの冷たい光が宿ったように見えた。彼は、ゆっくりと、エルマー様の方へと視線を向けた。

「エルマー卿」

ラウル様の声は、驚くほど静かだった。でも、その静けさの中に、誰も逆らうことのできない、王としての絶対的な威厳が感じられた。エルマー様は、ラウル様の声に、体がビクリと震えたようだった。

「貴殿の言葉は、この国の国王に対する侮辱である。そして何より、私の妃となる女性に対する、許しがたい暴言だな」

ラウル様の言葉が、広間に響き渡る。エルマー様の顔からは、みるみるうちに血の気が引いていくのがわかった。リーゼロッテ様は、恐怖に震えるエルマー様の腕を掴んでいる。

「地味で冴えない女、か……。愚かな男には、一生かかっても分かるまい」

ラウル様は、フッと小さく笑った。その笑みは、エルマー様を嘲笑っているようにも見えたけれど、どこか寂しそうにも見えた。

「私は、彼女のような女性を、この上なく誇りに思う」

そう言って、ラウル様は、私の手をぎゅっと握りしめた。彼の視線は、再び私に向けられ、その瞳には、深い愛情と、揺るぎない信頼が満ちていた。彼の言葉が、私の心の奥底まで染み渡る。私は、胸がいっぱいになって、ラウル様を見つめ返した。

エルマー様は、その場でへなへなと崩れ落ちそうになっていた。周りの貴族たちは、彼を冷たい視線で見下している。かつて彼を羨望の眼差しで見ていた令嬢たちも、今は嘲笑を浮かべていた。

「エルマー卿は、騎士の身分を剥奪する。そして、この国から追放する」

ラウル様の声が、広間に響き渡った。その言葉は、エルマー様にとって、死刑宣告にも等しいものだっただろう。

「な……なぜ……っ!?」

エルマー様は、震える声で叫んだ。リーゼロッテ様は、もはやエルマー様の手を離し、彼から距離を取ろうとしている。彼女の顔には、絶望の色が浮かんでいた。

「私の妃を侮辱したこと。そして、その才覚を見抜くことのできなかった愚かさ。それが、貴殿の罪だ」

ラウル様は、そう言い放つと、もうエルマー様には目もくれなかった。衛兵たちがエルマー様を連れて行く姿を、広間にいる誰もが冷ややかに見送った。リーゼロッテ様も、顔を伏せたまま、会場を後にした。

こうして、私の過去の婚約者だったエルマー様は、あっけなく破滅の道を辿ることになった。
彼が私に突きつけた「地味で冴えない女」という言葉は、そのまま彼自身の愚かさを証明することになったのだ。

私は、ラウル様の隣に立っていた。広間にいる貴族たちは、私を見る目が、すっかり変わっていた。以前は、憐れむような、あるいは見下すような視線だったけれど、今は皆、恭しく私に頭を下げている。

侯爵家の両親とロザリアも、私のことを見ていた。二人の顔には、驚きと、そして後悔の色がはっきりと浮かんでいたわ。特に、ロザリアは、まるで夢でも見ているかのように、口をパクパクさせていた。

宴が終わった後、両親が私の元へやってきた。

「クラリス……お前が、まさか王妃に……」

父は、呆然とした声でそう言った。母も、ただ私を見つめるばかり。

「お父様、お母様。今まで、ご心配をおかけしました」

私は、淡々とそう答えた。私の中には、もう彼らに対する憎しみも、悲しみもなかった。ただ、一人の人間として、彼らを見ているだけだった。

「お姉様……本当に、おめでとうございます……」

ロザリアが、震える声でそう言った。彼女の瞳は、潤んでいた。私を見て、初めて心から祝福してくれたのかもしれない。私は、ロザリアに微笑みかけた。

「ありがとう、ロザリア」

もう、彼女に嫉妬することも、自分が劣っていると感じることもない。私自身の価値を、ラウル様が教えてくれたから。

数日後、私は正式にラウル王の妃として、王妃の座に就いた。王妃としての生活は、侯爵家にいた頃とは比べ物にならないほど忙しかった。毎日の公務、貴族たちとの交流、そして民の声を聞くこと。最初は戸惑うことも多かったけれど、ラウル様がいつも私を支えてくれた。

「クラリス、君がいれば、どんな困難も乗り越えられる。君の知性と優しさは、この国の光となるだろう」

ラウル様は、いつもそう言って、私を励ましてくれた。彼は、私が今まで生きてきた中で、一番私を理解し、私を大切にしてくれる人だった。彼といると、私はありのままの自分でいられる。

私は、王妃として、民衆のために何ができるかを常に考えた。貧しい人々のために施しを行ったり、教育制度の改善に力を入れたり。私の提案に、ラウル様はいつも耳を傾けてくれ、積極的に協力してくれた。

民衆は、私を「慈愛の王妃」と呼んでくれるようになった。私が市場で助けたあの老人が国王陛下だった、という話は、あっという間に国中に広まった。そして、「どんな人間にも価値がある」という私の信念は、多くの人々の心に響いたようだ。

エルマー様は、追放された後、転落の一途を辿ったと聞いた。騎士の身分を失い、貴族の支援も受けられず、日々の生活にも困窮しているらしい。彼に寄り添う者も誰もおらず、その末路は悲惨なものだったという。もう、彼の存在は、私の心には何の影響も与えない。

私は、ラウル様と共に、この国を治めていく。彼との日々は、いつも愛と優しさに満ちていた。私を地味で冴えないと罵ったエルマー様には、一生かかっても理解できないだろう。本当の幸福とは、誰かに与えられるものではなく、自分自身の心の中に見つけるものなのだと。

夜、ラウル様と二人で王宮の庭園を散歩する。満月が、私たち二人を優しく照らしている。

「クラリス、愛しているよ」

ラウル様が、私の手を握りしめ、優しく囁いた。

「私も、愛しています、ラウル様」

私は、彼の胸に顔をうずめた。もう、私は一人じゃない。私には、かけがえのない愛する人がいる。そして、この国を、民を愛し、守っていくという使命がある。


私は、幸せを噛みしめながら、夜空を見上げた。私の人生は、あの婚約破棄から始まったんだ。そう思うと、あの日のエルマー様の言葉さえも、私にとっての幸運のきっかけだったのかもしれない。

私は、これからも、ラウル様と共に、この国で幸せに暮らしていく。


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